起業を選ぶ女性たち ENTRE WOMAN

K.ビーンズ  オーナー柄澤 恵美子 さん(46歳)

住宅街にある「K.ビーンズ」は、自宅の一室を利用した隠れ家的カフェ。

「口コミで訪れるお客さまだけなので、特に大きな看板は必要ないんです」

このカフェを営む柄澤恵美子さんは、専門学校卒業後、着物販売店を経て着付け講師となった。が、結婚後は20年近く主婦業に専念していた。

「結婚の翌年に出産したので、仕事はほとんどしていません。子供が成長して、たまにパートをするぐらいでした。妻として、母として、家族の暮らしを支えることが喜びだったんです」

そんな彼女の考えが変わったのは、子供の高校卒業がきっかけ。

「それまでは、娘が所属するクラブ活動の送り迎えや大会の応援に一生懸命でした。でも、彼女が高校を卒業して手が離れると張り合いがなくなり、生活にも覇気がなくなってしまって」

自分に何ができるのだろうと考えてみても、なかなか答えが見つからない。柄澤さんは、自分の得意なこと、興味のあることを棚卸ししてみた。

「パッチワークのような細かい作業は向かないし、着付けも興味が薄れていました。でも、料理は大好き。子供がアトピー性皮膚炎だったことや、運動部に所属していたため、栄養を取りながらダイエットする必要があったので、食事にはとても気を使っていました。主婦として、家族の健康を守るのは自分の役目。玄米ご飯で、おかずも野菜が中心のカロリーを抑えた献立にしていました。この料理を生かして、飲食店ができないかなと考えたんです」

まずは、できることから始めようと、飲食店を始めるために必要不可欠な「食品衛生講習」を受講。飲食店開業の参考書も購入し、勉強を始めた。

家族に迷惑をかけることはできないと、それまで貯めていた資金内での開業を決意。開業資金や運転資金を抑えるために、自宅のリビングをカフェとして利用することを思い立つ。

「恐る恐る夫や子供に打ち明けると、最初は驚いたものの、『やってみたら』とすぐに賛同してくれたんです」

店舗取得費が不要になり、開業のハードルがずいぶんと下がった。また、人件費や食材のムダを削減するため、完全予約制でランチは2組のみ、その後はカフェタイムにするなど、一人で対応できる範囲内で工夫した。

「儲けを考えたら、普通は2組のみの営業なんて考えられませんよね。でも、うちは物件費用も人件費もかからないから実現できたんです。テーブルやイスも一組は自宅で使っていたもので、新たに一組だけを買い足しました。調理スペースは、自宅の台所を利用するので大型什器などは一切なし。食器は趣味で集めていたものを使い、足りない食器を買い足す程度。だから開業資金は、約75万円に抑えられたんです」

開業に際して、不安もあったという柄澤さん。料理は得意でも、飲食業の経験はなく、接客ができるのか、お客が本当に来てくれるのか心配だった。でも、その不安を払拭できたのは「必ず来店する」と言う友人や、身近で励ましてくれた家族のおかげだった。

おまかせセットメニューは、玄米ご飯におかず7、8品、デザート、コーヒーが付いて1500円(税込)と充実の内容

周囲に支えられ、2004年7月に自宅カフェ「K.ビーンズ」を開業。一人でもこなせるように、ランチはおまかせのセットメニューのみとした。玄米ご飯と野菜をメインにした、体に優しい献立が特徴。化学調味料を使用せず、素材にもこだわった。

「野菜は、主に知人から紹介してもらった有機栽培の農家から、新鮮な旬の素材を仕入れています」

開業当初から宣伝をしていないので、しばらくお客はゼロだったが、友人たちの口コミで予約が入り始めた。だんだん手際もよくなり、テーブルを4組に増やし、すべて一人で対応していた。

柄澤さんは「来てくださったお客さまに食事以外にも何か提供したい」と、雑穀アドバイザーの資格を取得。体調や目的に合った雑穀の情報を伝えている。また、ビーズアクセサリーやフラワーアレンジメント、パワーストーンの展示会を実施。見学に来た人たちに、カフェの存在を知ってもらうようにした。また、店内にコットン商品やアクセサリーなどのコーナーを設け、委託販売で収入のプラスにしている。

「近くに、主婦がゆっくりできる場所が少ないんです。彼女たちがくつろげる場として利用してもらうことも、開業のきっかけのひとつでした。ここでみんなと話すことで元気になってもらい、その元気をそれぞれの家庭に持ち帰ってもらえればうれしいですよね」

まさしく主婦ならではの視点やネットワークを生かした店づくりが大成功。今では数週間先まで予約が埋まるほどの人気店に成長している

「長く続けていくには無理をしないことが大切。おいしい料理を召し上がっていただくために、仕込みは朝6時からと決して楽ではありませんが、自分の好きなことをやっているので、楽しみながらできます。夢を実現するためには、恐れず、小さな一歩でいいので自分から動いてみるといいですよ!」

取材・文
浅子 百合(クレッシェント)
撮影
土岐 節子
PERSONAL DATA
開業資金
家族に迷惑はかけられないと、それまでの貯蓄を利用。なるべく自宅にあるものと知恵を利用して開業資金節約
技術の修得
家族の健康を考えながら、毎日料理をつくっていた主婦歴19年の経験を生かす。料理教室などには一切通わなかった
労働時間・休日
週2日定休だが、翌日の予約が多い場合は下準備にあてる。朝6時からキッチンに立ち、おもてなしの準備を開始
収入
一日4組限定のため、売り上げもほぼ決まっている。収入アップのためにコットン製品などの商品販売も行っている
会社概要
所在地 :福島県福島市
設立年月 :2004年7月
開業資金 :75万円
売上高 :非公開