起業を選ぶ女性たち ENTRE WOMAN

(有)トラベシア 代表 平川 理恵 さん(38歳)

「私は、本当に本人のことを考えて、留学を止めることもあるんですよ」

と話すのは、『留学図書館』を運営する(有)トラベシア・代表取締役・平川理恵さん。個人に合った留学を勧めるために、親身になってカウンセリングしてくれるのが留学図書館だ。

平川さんは、四年制大学を卒業後、大手情報誌出版会社に就職。就職・転職雑誌の広告営業担当になる。

「その会社では、やった分だけ正当に評価してもらえるし、仕事には何の不満もありませんでした。でも仕事がうまくいくと、さらにその上を求めたくなる。だったら、今までコンプレックスを持っていた英語にも、取り組もうと思い始めたんです」

それにはある理由があった。仕事を進める上で、自分の欲しい情報を集める時にネットを活用していたが、情報を調べていくと英語のサイトに当たってしまう。苦手意識をなくしたいとあらためて英語の勉強を始めた。すると、ちょうど同時期に社内での留学制度があることを知る。

「自分の世界を広げたい一心で応募しました。選考はパスできたものの、出発までの2年間はずっと英語漬け。仕事の合間をぬって英会話スクールに通い、勉強する日々でした」

留学先の大学院では、MBA取得のためのクラスに入学。授業での専門用語を交じえたネイティブ英語を理解するのは、至難の業だったという。けれども必死に勉強を続け、1年後には無事にMBAを取得。帰国の途へついた。

「帰国後は元の会社に戻り、大学のコンサルティング業務に就いていましたが、社内外を問わず、留学についての相談を受ける機会が多くなっていました。できるだけ相談には乗りましたが、仕事も忙しく、アドバイスするものの最後までフォローできませんでした」

と同時に、留学相談のニーズがあることをはっきり感じた平川さん。これを仕事にすれば、責任持って最後まで相談に乗ってあげられると考えたのだ。

「その時の仕事が嫌いなわけでなかったし、留学させてもらいながら、帰国後1年で会社を辞めることはできないと思って悩んでいました。でも、やりたい気持ちはどんどん募るばかり、思い切って役員に相談したのです」

彼女の熱意に圧倒され、留学費用の全額返還ということで退社が決定。彼女は夢に向かって一歩を踏み出した。

退職後、まず3カ月はアメリカを中心に、カナダ、オーストラリアなど、英語圏の留学生受け入れ学校を徹底的に調査。自分の目で確かめ、安心して留学生を送れる学校を探した。また、気兼ねなく滞在できるホームステイ先も見つけ、ホストファミリーの写真や家の中、滞在する部屋の内観、周囲のショッピングスポットまで写真におさえ、独自の情報を蓄積していった。

彼女が目指したのは、留学を希望する人たちに、カウンセリングを行う業務。従来の留学斡旋会社は、特定の学校と契約を結んでいるため、その学校への送客となってしまう場合が多い。彼女はどの学校とも契約を結ばず、公正公平に学校選びをできるようにした。

こうして1999年8月、留学に関するアドバイスを行う(有)トラベシアを設立。資本金の300万円は、すべて自己資金。海外を相手に仕事をしたり、お客からの信頼感を得るためには、法人格が必要と考え有限会社での起業を選んだ。集客については、

「特に広告はしませんでしたが、新聞の取材を受けたことで、あっという間に全国から問い合わせが増えました」

平川さんにカウンセリングをしてもらいたいと指名する人も多い。「相手の人生にも大きな影響を与えることなので、こちらも真剣です」と彼女

初めはその反響に戸惑ったが、一人ずつ丁寧にカウンセリングを行う姿勢は決して崩さないと決めていた。留学は、その人の人生にも多大な影響を与える大事な体験。ただ数をこなすだけの仕事は絶対にしたくはなかった。

「留学後のその人の進むべき道まで考え、アドバイスをします。どんな目的で、どれくらいの予算で、どんなスキルをつけたいのか、しっかり受け止めます。夢に挑戦するなら年齢なんて関係ない。最近では、シニアの方々や親子での留学相談も多いんですよ」

シニアなら治安の良いオーストラリアやニュージーランドを。親子なら、小さな子供も嫌がらずに受け入れてくれるような家庭を選ぶなど、女性ならではのこまやかな視点で、最適な留学プランを提案する。実際に留学先の学校や家庭を自分の目で確かめているから、安心してお客にも勧められるのだ。彼女たちが自ら回った学校はすでに、3500校にも及んでいる。

そんな彼女だが、現在抱えている悩みがあるという。

「全国から問い合わせをいただくのですが、留学図書館はここだけ。わざわざ飛行機や新幹線を乗り継いで相談に訪れる方もいるんです。できれば支店を出したり、のれん分けをして、留学図書館を地方でも展開したいのです」

一人でも多くの人たちに素晴らしい留学経験をしてほしいと願う、彼女ならではのやさしさが伺えた。

取材・文
浅子 百合(クレッシェント)
撮影
内海 明啓
PERSONAL DATA
開業資金
すべて自己資金でまかなう。退職金はMBA留学費用の返還でほとんどなくなってしまい、それまでの貯蓄を利用
技術の修得
自身の留学経験が役立っている。また、起業前から現地で情報を集め、起業後も1カ月に1度は現地に行き情報収集
労働時間・休日
18:00にはスタッフ全員仕事を切り上げるようにして、それ以降は自分の充実のための時間にしている
収入
以前より若干収入はアップしているが、収入面より自由な時間を手に入れたことが大きいとか
会社概要
所在地 :東京都
開業年月 :1999年9月
資本金 :300万円
従業員数 :15名(パート含む)
売上高 :非公開