起業を選ぶ女性たち

お寺エステ ソワンエステ ティラ
代表 
吉田 教子さん(47歳)

お寺とエステティックは何となく結びつかないが、境内に一歩足を踏み入れると、そんなマッチングもOKなんだと感じさせられる。ゆったりとした時が流れる独特の癒やし空間「ソワンエステ ティラ」代表の吉田教子さんを紹介する。

音楽一家に生まれた吉田さんは、幼少の頃からピアノにいそしみ、音楽大学に進学するが、卒業後は別の道へ。

「今まで音楽しか知らずに育った私だったので、ほかの世界も見てみたいと、結婚の道を選びました。専業主婦になって、家事や子育てに励んでいました」

ところが、そんな幸せな日々を送る吉田さんを、ある出来事が変えた。

「32歳の時に甲状腺がんが見つかったんです。その時に自分の生き方を見つめ直し、何となく毎日を過ごすのではなく、目的を持って生きていこうと」

近所の子供たちにピアノを教える音楽教室を開校するが、素質ある生徒を見つけても、上達する頃には「受験だから」と、教室を去っていってしまう。

「何のために教えているのかと、少しむなしくなってしまって。もっと別なことをしたいと考えるようになったんです。その時、以前から興味を持っていたエステをしたいと考えました」

すぐに知人からエステ店を紹介してもらい、修業させてもらう代わりに無給で仕事に励んだ。しかし、アシスタント業務ばかりで、技術やノウハウも教えてもらえず毎日が過ぎていく。

「これではいつまでたっても覚えられない。化粧品メーカーのエステ研修を知り、そちらに通いました」

ひとつの化粧品メーカーの研修を皮切りに、ほかのメーカーの研修も受講し、着実に経験を積んだ。

「エステは未経験分野でしたが、指先を使うということがピアノにも共通していて、習得は早かったです。経験を積み自信も持てたので独立をしたいという思いが強くなって……。自分が目指していたのは、究極の癒やし空間でお客さまをゆっくりお迎えすること。そのスタイルを実現するためにも、自分でサロンを開きたかったのです」

開業資金を安くしたいと吉田さんが目をつけたのが、実家のお寺。広い敷地に使っていない離れがあり、そこをサロンスペースにしようと思いついた。

そうして2000年9月に、エステティックサロン「ティラ」を開業。当初は、低価格に設定し多くの人に施術していた。しかし、人数をこなすには気力にも体力にも限界があった。

「私の手技を気に入って来てくれるので、ほかにスタッフを入れても問題は解消しない。不安もありましたが、内容を充実させて一人にかける時間を長くし、その分値上げをしました。1日1人を原則として最大2人まで。お客さまが施術前後にもゆっくり過ごせるようにしました。私が目指していたエステサロンの姿に近づけたのです」

サロン名も「ソワンエステ ティラ」に変え、再スタート。儲けも大切だったが、個人サロンだからこそ実現できるスタイルで営業している。

「事業の拡大は考えていません。自分を慕ってきてくれるお客さまに、これから先もずっと、安定したサービスを提供できたらいいなと思っています。人生はお金だけでなく、やりがいこそ大切。これからも楽しく続けます!」

取材・文
浅子百合(クレッシェント)
撮影
笹木 淳
参考写真1

内装は今のところシンプルな洋風。施術の際に、この広さを一人で使えるのはうれしい

参考写真2

「ティラ」がある善導寺には、鎌倉時代からの灯篭が立つ日本庭園もある。施術後に庭園散歩も

起業までの道のり

1960年5月 0歳
京都府生まれ
1983年3月 22歳
卒業
大阪音楽大学器楽部ピアノ科を卒業。周囲が音楽関係の仕事に就く中、吉田さんはひとまず家事手伝いに
1984年4月 23歳
結婚
外科医の男性と結婚
1990年4月 30歳
音楽教室開業
自宅で近所の子供たちにピアノを教え始める
1992年2月 32歳
発病
甲状腺がんが見つかり手術を受ける
1997年5月 37歳
修業
エステの勉強をしたいと、サロンで修業を始める
2000年9月 40歳
開業
実家の寺の一画を借りて、エステサロン「ティラ」を開業。
後に、「ソワンエステ ティラ」と改名する

起業にまつわるQ&A

独立の際、周囲をどのように説得しましたか?
私は独立が30代後半だったので、しかも未経験分野だったため、周囲からはかなり反対されました。開業資金もなるべく抑えて、万が一ダメな時でも深い痛手を負わないようにして、とにかくまずはやってみたいと説得しました。ですから自分の貯蓄の範囲内で開業準備を進めて、家族にも迷惑をかけないようにしましたね。
エステサロンは設備費が多くかかりませんか?
通常なら、美容機器などは大変高額で、開業時に多くの資金が必要となります。私は、最低限の設備から始めたので、開業資金は50万円ほどでスタートしました。お金がたまってきたら新しい機器を購入したり、よりグレードの高いものに変更したりと、段階的にそろえているので、借金などせずに堅実に機材を増やすことができましたね。資金が少したまったので、今度は立地や雰囲気に合わせて、内装を和風に変更したいと思っています。

事業DATA

開業年月
2000年9月

開業資金
50万円

売上高
非公開

所在地
京都市中京区

HP
http://www.oteraesthe.com/