起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線

起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線 / 月2回更新

取材・文 / 田中秀憲

起業は必要に迫られて!?
――NYCNDA

家族で海外に住む場合、子供の教育は大きな悩みの一つ。特に子供が幼児の間は、生活スタイルの違いはもちろん、各国の法律による様々な問題が重くのしかかってくる。そして「困っている人がいる」ということは、起業の種があるともいえる。今回は一人の主婦による「必要に迫られて」の事例をご紹介しよう。

幼児向けに日本語・文化を教える施設

今回ご紹介するNYCNDAは、ニューヨークの若者文化の中心地・イーストビレッジにあるちょっと変わった保育園のようなプレイグループだ。名前の由来は「ニューヨークシティ、日本語で遊ぼう(New York City Nihongo De Asobou)」からきているという。ただ子供を預かる施設ではなく、日本と日本語、そして日本文化に触れあうことを目的としている。そのため日本人の子供が多いのは事実だが、国際結婚をした夫婦の子供や、日本に興味がある家庭の子供まで受け入れている。このプレイグループNYCNDAをつくったのは高島すみえさんという主婦だ。

高島さんは、国際結婚をした親の間に生まれたハーフ。ニューヨークで生活をしていても、日本との結びつきをないがしろにしたくなかったとのだという。

「日本で暮らした経験がありますが、その経験から自分の子供にも日本や日本語に触れる機会をつくりたかったのです」(高島氏、以下すべて同氏)

子供たちへは、読書やお絵かき、童話を聞いたり運動したりと様々なメニューが用意され、自然に日本への理解を深めることができる。また、NYCNDAが人気を集める理由は「日本語」という特徴ばかりではない。例えば日本企業駐在員の家族の場合、子供の教育の関係からニューヨーク市内ではなく近郊のベッドタウンに住むケースが多い。そういったエリアでは、適切な児童預け入れ施設があるものの、駐在員家族向けとあっては料金設定や立地などの点で「誰もが利用しやすい」と言えないのが事実だ。このような事情からもNYCNDAに注目が集まっているのだ。

一方、日本人でもアメリカ人でも、マンハッタン内のオフィスで働く家庭の場合、通勤面などの諸条件からマンハッタン住まいも多い。とはいえ、子供を預けられる施設が極端に少ないうえ、人数制限もあり、高額な料金設定もあって大きな負担になる。まして「日本語で」などという要望は無理としか言いようがなかった。

自分と同じ悩みを持つ親たちのために

そんな状況を打開すべく、親たちの要望にこたえるのがNYCNDAの設立趣旨。しかしスタートに当たっては様々な困難もあったという。アメリカでは子供関連のビジネスに厳しい条件や制限が課せられているが、過去に類似事例がない同社の場合「前例がないから」と認可に時間がかかったという。このような事情は世界共通だが、最終的にOKが出るのはやはりアメリカらしいところ。

ようやく起業にこぎ着けたのは2007年の11月で、2008年初頭に活動を開始。当初は小人数でスタートしたが、試験的な試みを繰り返すうちに、NYCNDAに訪れる親子は急速に増加。3月になる頃には20名弱の子供が集まった。

親側の利用目的も様々。「いつも預けているところが休みだから」「日本の子供と遊ばせたい」「子供同士で日本語を話す機会を」「週末に夫婦で買い物に行く間だけ」とったものから、「普段子育てに疲れ気味の妻を休ませてあげたい」という心優しい夫もやってくるという。マンハッタンのどこからでも来やすい立地や、週末もOKで比較的低めの料金設定も人気の要因だ。

そして現在高島さんは2人目のお子さまを妊娠中だ。

「ここがあるから、上の子の時のような心配はいらないわね」

と笑う。そして、

「15年前、ニューヨークでは誰もおすしを食べなかったわ。でも今は大流行。今、日本語も使いながらアメリカで子供を育てるのはまだ少数派。でもおすしと同じように10年後にはこれも当たり前になっているかもしれませんね」

NYCNDAは子育てで悩む一人の母親が、同じ悩みを持つ親たちにこたえる形でスタートしたビジネス。お金や利益が第一目的ではない「社会貢献」事業だ。そして今、日本でも地域や困っている人のために立ち上がる「生活者感覚」の起業家が求められている。

「ストレスも楽しんでいますよ」

と笑う高島さんは、強い母であるだけではなく、頼もしい経営者そのものである。

ページの先頭へ