THE REVENGE 逆境こそが人を強くする

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第7回 「経営者の資質」を問われた時

遠藤ジュンさんの写真

1年で崩壊した「虚栄」の社長生活。
あの時の自分には、
二度と戻りたくないから

今回のファイター

白扇(株) 代表取締役

遠藤 ジュンさん (39歳)

名古屋市西区

1973年、愛知県生まれ。高校卒業後、OLを経て行政書士事務所に転職。94年、久保田(旧姓)行政書士事務所を開業。翌年6月、「ベストライフ」を設立し、営業コンサルティング業で業績を伸ばす。しかし、経営者としての自覚の欠如からたちまち行き詰まり、1年後には休眠状態に。借金を返済した後、再就職するも、2年足らずで行政書士事務所を再開。さらに広告代理店業で、経営者として再出発する。99年、社名を「白扇」と改称。レンタルオフィス事業、貸し会議室事業など、経営支援ビジネスを積極的に展開。名古屋市中心部に6拠点154室のレンタルオフィスを持つ、この分野で地域屈指の企業へと成長した。

子供の頃、両親が経営する理髪店に、週2回貸し切りで訪れる客がいた。運転手付きの大きなベンツ、高級な仕立ての服、ショーン・コネリー似のその紳士は、名古屋の繁華街で手広く商売をする経営者だった。世間一般がイメージするところの、「社長」を絵にかいたようなその姿は、男まさりの少女の心をわしづかみにした。自分も「社長」になりたいと思った。

弱冠21歳で行政書士事務所を設立した遠藤は、保守的な士業の世界に飽き足らず、友人と経営コンサルティング会社を起こす。これが意外に順調。ブランド品を身につけ、うまい酒と食事ざんまいの生活。憧れの「社長」がそこにいた。が、傲慢になった遠藤から仲間は離れていき、会社は1年ほどで行き詰まる。残ったのは1500万円の借金。身から出たサビで、完膚なきまでたたきのめされた。

けれども、それが起業家としての大きな転機となった。今や遠藤は、名古屋でも屈指のレンタルオフィス会社社長だ。その過程では借金、詐欺、天災など様々なトラブルに足をすくわれもした。だが、今度はくじけなかった。自分が歩んでいるのは自己満足のための社長への道ではなく、本物の経営者への道だとわかっていたから。

なぜ、最初の会社はわずか1年弱で力つきたんですか。

営業マニュアルの販売をメインにしていたんですが、私自身、営業が得意だったこともあって、けっこう売れたんですよ。でも、稼いだお金は自分のぜいたくにばかり使って、次の事業への投資とか、経営者として当然のことは考えもせず、仲間の意見にも耳を貸さなかった。結局、会社は事実上つぶれて、残ったのは1500万円の借金。高利の金融業者から「実家の土地建物の権利書を持ってこい」と、脅されたりもしました。そんな業者からも借金してしまうほど、若くて未熟な経営者だったんです。必死に働いて、1年ほどで大半を返済しましたが、身も心もボロボロになってしまいました。

二度と起業なんかしない、と。

そう思って、一度は会社勤めもしたんですけどね。その後、紆余曲折はあったものの、99年にチラシのポスティング会社で再起業。その仕事が、わりとうまく回り出したんです。ところが、翌年の東海集中豪雨で、お客さまのチラシを保管していたコンテナ倉庫が水没。1000万円の損害が出て、今度こそ倒産かと思いました。けれども激甚災害の特別措置で、地元の信用金庫が1200万円を無利子で融資してくれた。しかも顧客に弁償した後も、200万円ほどが手元に残って、それがレンタルオフィスという新しい事業に進出する元手になったんですよ。

その後もいろいろと痛い目に。

遭いましたねー(笑)。レンタルオフィスというのは、ネットでの情報提供が重要なんですよ。それで自社HPを制作したんですが、なかなかいいものができない。そんな時、東京でバリバリやってるというHP制作会社の社長さんが訪ねてきたのです。その人の話をすっかり信じ込んで、制作料金450万円を全額前払いしてしまったんですよ。そうしたら、その社長がある日突然姿を消してしまいまして。肝心のHPは未完成のまま……調べてみたら社長は無名の個人事業主で、東京の会社はレンタルオフィス(笑)でした。

ほとんど詐欺ですね。

詐欺といえば、「うちのグループ会社をおたくのレンタルオフィスに紹介してあげよう」と言って近づいてきた、自称「会長」もいました。事実、借り手がポンポンと決まって喜んでたら、ことごとく家賃滞納。「会長」とも連絡がつかなくなり、詐欺だとわかった。実は借り手の人たちも、会長にだまされて、彼の会社に投資させられていたんです。ほかにも工務店に手抜き工事をされたりとか、けっこう悔しい目には遭ってますね。

その手の怪しい人物を、見抜くコツはないものでしょうか。

あります。最初に会った時、怪しいと感じたら付き合わない(笑)。わかるんですよ、やけに大きなことを言ってるなあって。ところが、こちらにも欲があるじゃないですか。それに目がくらんで、つい乗ってしまう。くれぐれも自分のその時々の「身の丈」を考えて、欲を出しすぎないことで防げる……んでしょうけど(笑)。

そういう逆境を乗り越えることで、経営者として成長できた。

でも、最大の転機は、やっぱり一番最初の失敗だと思いますね。うまくいっていた頃の私は、すっかり傲慢になって、両親のことさえ「たかが理髪店の経営者のくせに」なんて、バカにするようになっていた。人間って本当に怖いです。でも、会社をつぶして追い込まれた時、母に言われたんです。「あんた、おかしいよ。死んだような目をしてる」。それを聞いたとたん、どっと涙が出て「ごめんなさい」と素直に謝っていました。あの時が経営者として最大の逆境、そして起業家として本当のスタートラインについた瞬間でした。

取材・文/神戸 真 撮影/加納拓也 構成/内田丘子

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