「清ら」と書いたら共通語では「きよら」と読む。では問題。沖縄本島地方では、このつづりを何と読むのでしょう?
これ、解き方がある。実は共通語と沖縄方言の発音の違いには、わかりやすい規則性があるのだ。代表的なのが母音。共通語は「アイウエオ」だが、沖縄方言は「アイウ」の3音が主流で、共通語のエ列音は沖縄ではイ列音と同化し、オ列音はウ列音と同化する。つまり「アイウイウ」だ。だから例えばコメ(米)なら「クミ」という発音になる。子音にも特徴的な法則があり、共通語の「キ」が「チ」に変化することは有名。以上の知識を使えば「清ら」は読みくだせるはず。「キ→チ ヨ→ユ ラ→ラ」。正解は「ちゆら」。拗音化して「ちゅら」となる。
聞いたことあるでしょ?「ちゅらさん」とか「ちゅら海」とか「ちゅら島」とか。清らな、つまりキレイな人とか海とか島とかいう意味だ。「へえ、『ちゅら』って『清ら』ってことだったんだ〜」と感心してくれたら御の字。
さて、ネット系ビジネスで起業して頑張っているのはチュラちゃんだ。なぜ彼女はチュラちゃんと呼ばれるのか? 容姿が清らなのか、心根が清らなのか。まあ、そうかもしれないが(そうじゃないかもしれないが)、彼女の本名をもじったのが本当のところだ。以前、私と彼女は他の起業家仲間と連れ立って沖縄に行った。その時、沖縄フェチの仲間のひとりがそう呼んだら、それ以来、そうなっちゃったのである。このチュラちゃん、真面目だがブッ飛んでいる。
沖縄での夜、起業家仲間が車座になって経営課題を話し合う機会があった。顧客のこと、人事のこと、資金繰りのこと……。起業家の悩みは尽きない。で、チュラちゃんは? 「私は会社を続けること自体が課題、ってゆーか、続けるのがイヤ」。そうくるか!? 確かにそういう気分に陥ることはある。だけどそれを口にしないプライドがあるのも起業家だ。そのへんの感覚が彼女はちょっと違う。
後日、そうはいっても何かアドバイスせねばと思い、「ちょっと決算書を見せて」と彼女に声をかけた。「そんな立派な業績じゃないですよー」と彼女。そりゃそうでしょう、イヤになるくらいだから。私はさっそく貸借対照表の資本の部に目を落とした。ギョエ〜〜〜。我が目を疑いたくなるほどの債務超過である。よく倒産してないもんだと、私はむしろ感心してしまった。
もっとも、その状態には特別なわけがあった。立派な業績じゃないのも確かだったが、異常な債務超過の主因は、彼女の会社の資本金が1円しかないことだった。1円じゃあ何も買えない。どうしたって会社設立、即借金となる。
確かに法律が変わって、株式会社は資本金が「ありさえすれば」よくなった。だからって1円で会社を設立して、その後も増資しないまま活動している会社があるとは夢にも思わなかった。「ウソっ? 増田先生が夢にも思わないことを私はやったんだ。すごいかもー。キャッキャッ」。このリアクションがすごいかも。
ちなみに1円とか2円とかでつくった会社の多くは、創業者個人が会社に貸し付けるかたちでコストをまかなっているケースが多い。彼女もそうだ。もちろん違法でも何でもないが、そうすると悪い癖がつきやすい。会社のお金が足りなくなったら自分が出しておけばいいと考えるようになる。この姿勢が売り上げアップに対する執着を薄れさせ、業績を悪化させる要因になっていく。
というような、もっともらしいアドバイスをチュラちゃんにしようかなあと思ったけど、やめた。「そもそも私は会社にしたり人を雇ったりしなくてもよかったんです。好きな仕事をしたかっただけだから」と彼女が言い出したからだ。
だったら初心に戻ればいいだけだ。実際、その後の彼女は会社をスリムアップすることに専念し、それがうまくいき、今では楽しそうに毎日を過ごしている。ところで「好きな仕事って何?」。肝心なことを聞くのを忘れていた。
「ネットとかパソコンとか、本当はそんなことどうでもいいんです。私の好きなのはイチゴ! イチゴに囲まれてずっと生きていきたいの」。はあ? 最初は面食らったが、少し考えると「なるほど」である。いつか評判の「イチゴグッズ専門店」が登場したら、そのお店のオーナーがチュラちゃんだと思ってほしい。
ちゅら夢。会社を持つよりも、こっちを持つほうが起業家の原動力になる。
1959年生まれ。87年、株式会社タンク設立。97年、「アントレ」創刊に参加。以降、同誌編集デスクとして起業・独立支援に奔走。講演やセミナーを通じて年間1000人以上の経営者や起業家と出会い、アドバイスと激励を送り続けている。現在、(社)起業支援ネットワークNICeの代表としても活躍中。また、中小企業大学校講師、(財)女性労働協会講師、ドリームゲート「事業アイデア&プラン」ナビゲーター、USEN「ビジネス実務相談」回答者なども歴任。著書に『起業・独立の強化書』(朝日新聞社)、『正しく儲ける「起業術」』(アスコム)。ほか共著も多数。