笑いと気づきの人間讃歌! おとぼけ起業家列伝

笑いと気づきの人間賛歌! おとぼけ起業家列伝

第12回 結果的には魂を救う女


イメージ画像
イラスト / 本田佳世
 

霊魂は存在するのか否か、といったたぐいの話題を真剣に論じることはあまり好きではない。存在するにしてもしないにしても、その根拠を的確に示す方法がどうにも見当たらないからだ。

ただ私は、霊能者と呼ばれる人たちの仕事に対しては肯定的である。霊魂の存在の有無はともかく、救いを求める人々に対し、安らぎという価値を提供する仕事を否定する道理はない。

青森県にある恐山のいたこの「口寄せ」を揶揄(やゆ)する人がいる。「なぜ外国人の霊が津軽なまりでしゃべるのか」などと。こういうツッコミは軽薄である。いたこを頼る人と、それにこたえようとするいたこの双方に対して失礼だ。

だが、こんなツッコミにはあ然とするしかない。「いたこって女の人でしょ。だったら『いたこのいたろう』なんて歌をつくっても宣伝にならないじゃん」

こんな大ボケをかます人がこの世に存在するとは……。霊魂の存在以上に信じがたい話である。発言者はミキちゃん。雑貨の輸入を手がける女性だ。

念のため説明すると、このツッコミには3つの間違いがある。その1・「いたこのいたろう」は「潮来の伊太郎」と書くが、そもそもそういう歌はない。その昔、橋幸夫さんがヒットさせた曲は『潮来笠』である。その2・恐山のいたこは確かに女性が多いが、男性もいる。その3・これが最大の間違いなのだが、「潮来の伊太郎」とは、茨城県潮来町(現・潮来市)の伊太郎のことで、いたこを職業にしている伊太郎のことではない。それにしてもその曲が、口寄せのCMソングであるという誤解はもはや天才的である。

普通なら「ミキちゃん、それは違うよ」と指摘すべきだが、その後の説明が面倒くさくて、その時私は笑いをかみ殺しながら、「そうだね」とか何とか適当に答えた記憶がある。うっかり「潮来」という字のことにでも触れたら、「なぜそれを『いたこ』と読むの?」と質問されるに決まっているからだ。もちろんその問いに私は答えられない。知っている人がいたら教えて。

そういえば彼女、「お茶の原料にフルーツを使うなんて、どうなのよ」とか、ツッコンでいたこともあった。何の話かと思ったら「爽健美茶」のCMソングで「どくだみ はぶ茶 プラム」と歌っているというのだ。プラムじゃなくて、プーアールでしょ、それ。でもプーアールとは何かという話題になると大変だから、私はその時も黙って聞き流しておいた。

ミキちゃんはそろそろ40歳になるが、実はこれまでの人生の大半を外国で過ごしてきた人である。「お騒がせ」は、「おさわがせ」か「おさがわせ」か、いまだにわからないと頭を抱えるような人である。だから彼女は一生懸命、日本語や日本のことを学ぼうとしている。そのせいで子どものように「なぜ?」を連発するのだ。それが面倒くさい。けど、偉いなあとも思う。

偉いなあと思う。けど、やっぱり面倒くさい。いろいろな事柄にやたらとツッコミを入れるのも、彼女にしてみれば、「私はこれくらい日本のことをわかっている」というアピールのつもりなのかもしれないが、それが思いっきり裏目に出ちゃっているという毎度の展開に際して、そのつど、フォローすべきかどうかともんもんとしなくてはならないことに関しても面倒くさい。

多くの人は流暢な英語で商談している超カッコいいミキちゃんの姿しか知らないと思う。でもよく知れば、彼女はこういう人物なのだ。そういうダメダメぶりを見せられる私と出会えて彼女は幸せだ。だが、本当に幸せなのは私かもしれない。「人間は完璧ではない」。当たり前のことだが、その当たり前の見本のような彼女を眺めていると私の魂はとっても安らぐのである。

余談だが、ミキちゃんがいたこになれば「外国人の霊が津軽なまりでしゃべるのか」などと揶揄する人もいなくなるだろう。彼女の英語は、完璧だ。

次回は2008年3月21日(金)更新予定。お楽しみに!

プロフィール

増田紀彦の写真
増田紀彦
(社)起業支援ネットワークNICe
代表理事

1959年生まれ。87年、株式会社タンク設立。97年、「アントレ」創刊に参加。以降、同誌編集デスクとして起業・独立支援に奔走。講演やセミナーを通じて年間1000人以上の経営者や起業家と出会い、アドバイスと激励を送り続けている。現在、(社)起業支援ネットワークNICeの代表としても活躍中。また、中小企業大学校講師、(財)女性労働協会講師、ドリームゲート「事業アイデア&プラン」ナビゲーター、USEN「ビジネス実務相談」回答者なども歴任。著書に『起業・独立の強化書』(朝日新聞社)、『正しく儲ける「起業術」』(アスコム)。ほか共著も多数。

ページの先頭へ