笑いと気づきの人間讃歌! おとぼけ起業家列伝

笑いと気づきの人間賛歌! おとぼけ起業家列伝

第10回 いまだにセーラー服を着る女

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イラスト / 本田佳世

セーラー服は元来水兵用の軍服なのだが、いつしかそれが子ども服となり、婦人服となり、なぜか我が国においては女子中学生や女子高校生が着用する制服となった。もっとも最近はブレザータイプのほうが多数を占める印象があるが、それでも女子中高生=セーラー服というイメージはいまだに健在である。

そのイメージを「悪用」する女性起業家がいるんだよなあ。エリカである。彼女は『社長は16歳』という本を上梓した。確かに彼女が起業したのは16歳の時であり、そこにウソはない。だが、そうやって苦労して立派なオトナになったあなたは、今、いったい何歳ですか?!?

三十路も間近の29歳で?す。なのに彼女はその本の表紙で堂々とセーラー服を着てブリッコしているのである。カンベンしてよー。

というような趣旨の抗議を直接エリカにしたら、「えっ? セーラー服の何がまずいんですか?」と、まったく私の不平不満を理解しないのである。ああ、わからんかなあ……。「女子中高生=セーラー服というイメージはいまだ健在である」というのは、ほかならぬ私の心の中においてなのである。

目をつぶって、青春の一コマ一コマを思い出すたび、私の胸は今でもキュンキュンしてくる(決して狭心症ではない)。登下校、模試、卒業式……。いろんな場面にセーラー服は付き物だ。だから、だから、セーラー服を成人に着てほしくない。私の思い出を壊さないでほしいんだよー。と、彼女に訴えてもわかってはもらえないだろうし、それにもう出版しちゃったんだから仕方ない。

なので私は認識を逆転させることにした。きっとエリカは、セーラー服着用時代から大人びた子どもだったのだ。だから表紙の写真はその頃の彼女なんだ。そう思えばいいと。自分でもこだわりすぎだとは思うが……。

ちなみに彼女が16歳で起業した理由はこうだ。「おじいちゃんの事業が失敗してアタシが働くしかない。なのに学校はバイト禁止。困りました。でもよく考えたら自営業は禁止されていないことに気づいたんですよねえ(笑)」。

普通、そんなことに気づく子どもはいないし、気づいてもやらないものだ。必死な彼女を見て神様が知恵を授けてくれたのかもしれない。社長になるのが彼女の夢だったというから、その意識も後押ししたのだろう。で、彼女、香典返しのカタログ販売を始めた。やっぱ16歳のやることとは思えない。というわけで、彼女は大人びた子どもだったという説が改めて証明されたわけである。

そんな彼女は今でも大人っぽい。あいさつやお礼の類は、私のどんな知人よりも完璧にこなす。自分も含めてそういう大人が減ったと思う。それに「会って話す」というエリカのこだわりにも感心している。用件をメールや電話で済まさず、たとえ10分でも20分でも、私とアポを取って話していくのである。

ところがだ! 例の『社長は16歳』をパラパラとめくってみたら、こんなことが書いてあった。「年配の経営者は、相手が女性というだけで面会の時間をつくってくれますし、いろいろアドバイスもしてくれます。本当です」。

ウッ……。読むんじゃなかった。どうせ私はたかがセーラー服のことで、いつまでもグチグチ言う年配の経営者さ。でもひとつだけ言わせてもらうけどね、私があなたと会うのは、あなたが単に女性だからではなく、あなたが起業家としての意欲と大人としての礼儀を併せ持つ立派な女性だからですよ。

年配の経営者は、相手を選んで時間をつくったりアドバイスをしたりするのである。本当です。

次回は2008年2月22日(金)更新予定。お楽しみに!

プロフィール

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増田紀彦
(社)起業支援ネットワークNICe
代表理事

1959年生まれ。87年、株式会社タンク設立。97年、「アントレ」創刊に参加。以降、同誌編集デスクとして起業・独立支援に奔走。講演やセミナーを通じて年間1000人以上の経営者や起業家と出会い、アドバイスと激励を送り続けている。現在、(社)起業支援ネットワークNICeの代表としても活躍中。また、中小企業大学校講師、(財)女性労働協会講師、ドリームゲート「事業アイデア&プラン」ナビゲーター、USEN「ビジネス実務相談」回答者なども歴任。著書に『起業・独立の強化書』(朝日新聞社)、『正しく儲ける「起業術」』(アスコム)。ほか共著も多数。

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