笑いと気づきの人間讃歌! おとぼけ起業家列伝

笑いと気づきの人間賛歌! おとぼけ起業家列伝

第8回 警戒心不足を武器にする女


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イラスト / 本田佳世
 

私は人から「イヤ! それだけはやめて」などと言われると、むしろ喜々としてそのイヤなことを実演するタイプである。同級生の女の子に、カエルやヘビを差し出す子どもと一緒だ。ただし、私も相手ももはや子どもではないので、ひとつ間違うとマジで人間関係が終わる。

ひとつ間違えないことが、だから肝心である。人間関係崩壊のギリギリ手前で嫌がらせを止めることがポイントその1。ポイントその2は、うまく相手の許容範囲内に着地したら、今度はすぐに相手を心底からフォローすることである。

たまに「なぜ、そんな面倒な人付き合いの仕方をするの?」と質問されるのだが、「生まれつきイジメっ子だからしょうがない」と答えている。実際そう思う。

ついさっきも知り合いの女性起業家から「私のこと、絶対『おとぼけ起業家列伝』に書かないでね」というメールをもらったので、「ごめん。書く気はなかったけど、そう言われたら書きたくなったので、急きょあなたのことを書きます。生まれつきのイジメっ子なので許してね」と返信したばかりだ。

というわけで、今回は私の餌食(えじき)になるために生まれてきた女と、私に呼ばれていつもブーブー言っているヨッちゃんについて書きたい。

ヨッちゃんはコブクロ(食べ物じゃなくてアーティストのほう)の大ファンだ。ファンなんてもんじゃない。コブクロは彼女にとって神聖そのものである。だから私は彼女を見かけるたびに、森進一さんの顔真似をしながら、『おふくろさん』のメロディーに乗せて「コブロクさんよ?、コブクロさん」としゃがれ声で歌ってあげている。何回やっても「やめてえ、やめて?」と大騒ぎしてくれるので、イジメっ子の私としては、幸福感が胸いっぱいに広がるのである。

「何回やっても」で思い出したが、ヨッちゃんの後ろに回り込んで肩をたたき、振り向きざま、彼女のほほに指を突き立てるという攻撃も、連続100回以上の成功を収めている。やるほうもやるほうだが、やられるほうもやられるほうである。彼女には警戒心というものがないのだろうか?

彼女、その昔は自衛官だった。そういう経歴を持つ人が、こんなに無警戒でいいのか。いやいや、警戒心がないから自衛隊を辞めることになったのかもしれない。だが、すべてを自己責任で生きる起業家にも超一流の警戒心が求められるわけで、やっぱり彼女のホンワカさ加減は心配のタネである。

だからついつい私は「最近どうしてる?」「業績は伸びた?」などとマメに声をかけてしまう。そうするとヨッちゃんはたいていこう答える。「大丈夫です。何かあったら増田さんが助けてくれるから。あれだけ私に意地悪してるんだもん、その分のお返しは必ずしてくれるって信じています」と。

よく考えるとなかなかしたたかな女だ。つーか、器が大きいな。相手に好きなだけ借りをつくらせておいて、ちゃんと元を取る精神。たぶん彼女は30代半ばだと思うが、私なんかよりずっとオトナなのかもしれない。

もっとも彼女の仕事は保育所の経営だから、憎まれ口をたたいたり、ホッペタを突っ付いたりするような悪ガキの相手などラクショーなのだろう。つまり私もその中のひとりだと思われているわけだ。まあ、どう思われていようとかまわない。私はこれからも淡々と彼女をいじめ、粛々と彼女をフォローするだけである。それがイジメっ子の生きる術(すべ)だから。

次回は2008年1月25日(金)更新予定。お楽しみに!

プロフィール

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増田紀彦
(社)起業支援ネットワークNICe
代表理事

1959年生まれ。87年、株式会社タンク設立。97年、「アントレ」創刊に参加。以降、同誌編集デスクとして起業・独立支援に奔走。講演やセミナーを通じて年間1000人以上の経営者や起業家と出会い、アドバイスと激励を送り続けている。現在、(社)起業支援ネットワークNICeの代表としても活躍中。また、中小企業大学校講師、(財)女性労働協会講師、ドリームゲート「事業アイデア&プラン」ナビゲーター、USEN「ビジネス実務相談」回答者なども歴任。著書に『起業・独立の強化書』(朝日新聞社)、『正しく儲ける「起業術」』(アスコム)。ほか共著も多数。

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