人間を十把一絡げ (じっぱひとからげ)で語ることのないよう自らを戒めているのだが、年長者や先輩には礼儀正しく接し、年少者や後輩には尊大に振る舞う男を見たりすると、「こいつは体育会系かな」などと思ってしまう。
私より2歳年下のカドッチは40代後半にもなるのに、相手が年上というだけで妙に従順になる。ためしに「学生時代のサークルは?」と尋ねたら、案の定「体育会です」という。こうやって読みが当たってしまうと、自戒もむなしく、ついつい人を属性で語りたくなるものである。
何にせよこの手の男をいじくり回すのは面白い。無理難題をふっかけても、私が先輩である以上、恐ろしく遠回しに拒否するのがせいぜいだ。その、苦心の作とでもいうべき遠回しな言い訳を聞くのが性格の悪い私の楽しみである。
ところが一度だけ、はっきりとカドッチから「No」を突き付けられたことがあった。「アンタもいい年なんだから、一年中日焼けしているのもどうかと思う」と言ったら、「日焼けは男の美学です」と主張して、一歩も譲らなかったのだ。なぜ、そこまでこだわるの? 彼は私の疑問に対してポツリポツリと答え始めた。
「自分は高校時代、バスケット部のキャプテンだったんです。なのに、全然女の子にもてない。それで同級生の女の子に理由を聞いてみました」
ふつう、もてない理由を異性に聞くか?と、ツッコミを入れたくなったが、カドッチはリサーチ会社の社長だ。才能の片鱗と思えば納得もいく。そんなことより、女の子が答えた「もてない理由」が興味深い。
「カドッチって色白で弱々しそうだもん」。それだけだったそうだ。確かに屋内スポーツのバスケじゃあ、日焼けはしない。しかし、それ以来30年近くも、その「理由」を真に受けて色黒を維持するとは恐るべき執念である。もっともそういうことをするから、「体育会系は愚直だ」と思われてしまうのだ。
で、肝心な話。日焼けしたことで、彼はもてるようになったのか? カドッチの友人の女性に聞いてみた。そんなことを聞く私も私だが。
その女性いわく、それなりにもてるそうだ。ただし、色が黒いからもてるわけではなく、色が黒いほうがもてると信じ込んでいる純粋なところが母性本能をくすぐるのだそうだ。へえ、そういうものか。ためになるなあ。
でももっといい話を彼女は聞かせてくれた。カドッチは休日ごとに実家に帰って家業の畑仕事を手伝っているのだそうだ。高齢のお父上を気遣って。日焼けはそのせいだ。本人はそういう事情をいっさい口にせず、私のイジリを淡々と受けて止めてくれていたのである。
泣き言を言わないのも体育会系の特徴である。もとい、泣き言を口にしないのが起業家である。
1959年生まれ。87年、株式会社タンク設立。97年、「アントレ」創刊に参加。以降、同誌編集デスクとして起業・独立支援に奔走。講演やセミナーを通じて年間1000人以上の経営者や起業家と出会い、アドバイスと激励を送り続けている。現在、(社)起業支援ネットワークNICeの代表としても活躍中。また、中小企業大学校講師、(財)女性労働協会講師、ドリームゲート「事業アイデア&プラン」ナビゲーター、USEN「ビジネス実務相談」回答者なども歴任。著書に『起業・独立の強化書』(朝日新聞社)、『正しく儲ける「起業術」』(アスコム)。ほか共著も多数。