THE INNOVATION 志こそが人を熱くする

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新たな地域情報発信網で、「まちからまちへの人の流れ」をつくる

一瀬 要さんの写真

”モノ”ではなく”人”を軸に地域の魅力を掘り起し、発信していく。それが「地域活性化」につながる

いいことクリエイション合同会社/埼玉県川越市

代表社員
一瀬 要さん(60歳)

1953年、埼玉県生まれ。法政大学大学院修了後、日立大甕電気(当時)に入社。82年、タムラ製作所に転職し、システムエンジニアとして通信設備監視システムの開発などに従事。2009年に早期退職し、起業準備を開始。国や県、市町などで「人脈開拓」を図り、2000人以上との接点をつくる。2010年、いいことクリエイション合同会社を設立し、代表社員に就任。地域活性や伝統文化活性事業を担うほかの団体にも所属する傍ら、埼玉新聞社のタウン記者を務めるなど、その活動は幅広い。

江戸時代、川越藩の城下町として栄え、今も「小江戸」と称される埼玉県川越市。一瀬要は、自らが生まれ育った伝統文化の息づくそのまちを拠点に、地域活性化事業に取り組んでいる。56歳の時、30年間に及んだ会社員生活に見切りをつけ、「地域の魅力をつくり出す地域事業の開拓者」となるべく、いいことクリエイション合同会社を設立。この時点では、明確に「これ」という事業が頭にあったわけではないが、小江戸川越で江戸の伝統芸能者が弾き語る「創作浄瑠璃」や、自転車を利用しての「まち歩き」などを企画・開催しながら、徐々に人材ネットワークを広げてきた。

そして2013年、テレビ画面を使って、商店街や地域住民、観光客向けなどに様々な地域情報をネット配信する「まちコミ掲示板」事業を立ち上げる。一般市民が集め、作成したコンテンツを配信し、他の地域と相互にやりとりすることができるという、ありそうでなかった画像配信システムだ。昨年初冬、川越市内の産業観光館「小江戸蔵里」で実証試験をスタート。将来は日本全国、はては世界の地域間を、このシステムで結ぶのが夢だ。今年還暦を迎えた一瀬。その挑戦は、これからが本番である。

56歳で退職なさったのは?

電子部品メーカーで管理職をしていたのですが、2008年にリーマンショックが起こり、ほどなく異動の話が出たんですよ。30代の頃はエンジニアとして「会社を救った」という自負もあるのですが、居場所がないというのなら辞めようかと。定年までしがみつくという選択肢もあったけれど、まだ人生20年、30年はあるだろうから、意に沿わぬ働き方をするより、やりたいことをやろうと、退職を選んだのです。

地域の活性化を仕事に選んだ理由を聞かせてください。

自分が「押し出された」から言うわけではないのですが(笑)、これからの日本は、みんなが工場に出勤してせっせとモノをつくる“量産の世界”ではなくなるだろう……そんな意識はあったんです。まちの商業とか農業が見直され、それらの地域同士が世界とつながっていく時代がくるでしょうし、逆にそうならなかったら日本の未来は危うい。マスコミでも、グローバルとローカルを組み合わせた「グローカル」なんていう言葉が飛び交っていましたし。それで、脱サラ後のスローガンを「地域文化で飯を食う」に決めたんです。

具体的には、どのようなことから着手したのですか?

まず前提として考えたのは、「地域にお金が回る」ためには、地域そのものが魅力的でなければだめだということ。じゃあ、その魅力って何なのか。多くは、特産品だとかB級グルメ的なものに目がいきがちですよね。でも僕は、“モノ”じゃなくて“人”ではないかと考えたのです。地域商品をつくった人、地域のいいところを知っている人、あるいはそれをパフォーマンスで表現できる人……。

で、新座で「かっぽれ・端唄・三味線そして精進料理を楽しむ」、川越で「人形浄瑠璃」など、伝統の技を持っている人にお願いして文化イベントをやりました。参加者には地域文化への造詣を深めてもらえるし、月に10回も開催すれば採算も合う、そう皮算用したんですけど、実際は会場の確保が難しくて。市の施設は、飲食禁止とか参加者からお金を取るなとか、制約もあったりします。結局、これを生業にするのは難しいとわかった。「地域文化で飯を食う」と決めたものの、最初は大変でした。

現在は、「まちコミ掲示板」の普及に注力されているとか……。

きっかけは、総務省関連の研究所と仕事をしている高校の後輩と出会ったことです。彼は、北海道・岩見沢で行われた新しい通信インフラの社会実験で、テレビ画面に店情報や公共情報を配信する実験にかかわっていて、話をするうち、その「川越版」をやってみようと。みんながそこに集まりつながる「まちコミ掲示板」と命名しました。ごく簡単に言えば、地域住民がまちネタを集め、各所に設置したテレビに流そうというもの。画面の一部は広告スペースで、システム利用料を払う設置者が自由に運営する。この利用料収入を収益源にしようというわけです。

例えばこれを、川越と同じ埼玉の秩父に設置すれば、双方の魅力を伝え合うことができる。「今度の休みは秩父に出かけてみようか」。僕は、そんな「まちからまちへの人の流れ」をつくりたいのです。加えて、人を呼ぶためにもっと魅力的なコンテンツをつくろうという人間があちこちの地域に増えていけば、人が活性化し、まちの活性化になる。前述したように、地域活性化というと、モノばかりに目がいくから行き詰まるのであって、人を軸にすれば発想はうんと広がります。今は、まずは日本全国の地域とつながることを夢見ながら、このコンテンツ企画と普及に全力投球といったところでしょうか。

取材・文/南山武志 撮影/刑部友康 構成/内田丘子

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