THE INNOVATION 志こそが人を熱くする

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ネクタイの寄付集めを入り口に、新しいチャリティーに挑戦する

森本宏美さんの写真

人々が高め合い、支え合い、力付け合うプラットフォームを提供すること。それが、ニッポンに「元気」を吹き込む力となる

Tie for Change/東京都港区

代表
森本宏美さん(34歳)

1977年、大阪府生まれ。大学時代にジンバブエのNGOで働いたのをきっかけに、国際協力活動に開眼。卒業後、民間の教育機関で教壇に立ち、その後、アジア経済研究所開発スクールを経てケンブリッジ大学大学院で政治と教育を学ぶ。ナミビア共和国のユネスコ、ユニセフで活動したのち、2007年に帰国。翌年8月、任意団体であるTie for Changeを創設し、寄付されたネクタイのリサイクル・販売事業をスタート。イメージコンサルティングを活用した教育活動、社会的弱者の自立支援に取り組む。この活動において、現在「TFC ミューズ」と呼ばれる27名の女性ボランティアが活躍している。

大学在学中、ジンバブエのNGOで村落開発活動に従事。「ただ海外に出てみたかった」という動機だったが、この経験によって、森本宏美は国際協力の道を志すようになる。やるなら政策レベルで仕事がしたいと、国連(ナミビア共和国のユネスコ、ユニセフ)に身を投じたのは28歳の時。これぞ国際協力の王道だったはずなのだが、活動を続けるうち「足りないものを探して援助する」欧米流のやり方に違和感を覚えた。行き着いたのは、誰もが本来持っている能力や技術、熱意といった“すでにあるもの”を引き出し、生かす―その手助けをすること。

帰国後、イメージコンサルティングを学び、2008年、任意団体を創設して独自の活動を始める。そのスタイルはユニークだ。不要になったネクタイの寄付を募り、リメイクして定期的に開くバザーで販売する。得た収益は、ホームレスの自立支援をするビッグイシ ュー基金に寄付するなど、方向性の一致するNPO法人と協働するかたちをとっている。1本のネクタイが人の表情をガラリと変える。 そこには、彼女が想像していた以上の副次効果も生まれた。キーワードは、今の日本がもっとも必要としているもの。「元気」である。

「国際イメージコンサルタント」という資格をお持ちですね。

基本はファッション、立ち居振る舞い、話し方といった、他者に与える印象を戦略的にマネジメントするのが役割で、アメリカの大統領に専属のコンサルタントを付けたのが最初だと聞いています。衣食住のうち、目の前にいる人の第一印象を左右するのって「衣」でしょ。仮に私がホームレスであったとしても、きちんとスーツを着ていれば、人は別の見方をする。それくらい重要なファクターなのに、日本には「服育」がほとんどないのです。国連で仕事をしていた時に、能力や熱意がありながら、プレゼンテーションの弱さのせいで、その良さを伝えきれていない日本人をたくさん見てきたので、一度勉強してみようと。世界に出て行く方々を“見た目”で応援するのも、国際貢献のひとつだろうという考えもありました。

なぜネクタイに注目を?

服装のカギとなるのは4つ。色、柄、素材、形なんですね。ネクタイには、それらの要素が凝縮されているんです。そして、スーツ姿においては重要な中心部分。そういう感覚が潜在的にあったのでしょう、ビッグイシューのコンサルタントと「何か新しい活動ができないか」と話していた時、パッと頭に浮かんで、気が付いたら今のプロジェクトができ上がっていたという感じです。ネクタイを締める人の多くはホワイトカラーですよね。豊かな層が喜んでお金を払い、それが必要な人たちに流れるスキームをつくれないかなと、常々考えていたことが、ひらめきを生んだのかもしれません。

ネクタイの寄付は個人のほか、最近ではCSRの一環として、企業が社員から集めて送ってくれるようなケースも増えてきました。それらを一点もののオリジナルにリメイクして、「Tie Cafe」と名付けたバザーで販売しています。販売員は、学生やOLなど20代を中心にした女性ボランティア。彼女たちが、バザーにやってくる男性と一緒になって、最高に似合う一本を探し出す。正直、収益面ではまだまだなのですが、商品にネクタイを選んだのは我ながらヒットだったと思っています。

どういうところが?

ネクタイは顔の真下にくるだけに、似合う、似合わないが本人が思っている以上にはっきり出るんです。うちの品ぞろえは豊富だし、何より商売目線のない複数の一般女性が選ぶから、魅力を引き出すネクタイを確実に見つけられます。そんな時、男性の表情がガラッと変わるんですよ。「カッコイイですよ」なんてお世辞抜きの言葉をもらって、ニコニコして帰っていく。「これ“チャリティー・キャバクラ”だな」って(笑)。何度も足を運んでくれる方に感想を聞いてみたら、「ここに来ると元気になる。自信も付く」と。さらに私自身驚いたのは、ボランティアの女性たちも元気になっていること。考えてみれば、目の前で誰かが劇的に変わって喜ぶ瞬間を共にするなんて、日頃ないシーンですからね。お互いを認め合い、褒め合うコミュニケーションが自然に生まれる貴重な空間。それが期せずしてできたんですよ。

裾野は広げていけそうですか。

今は、寄付のお願いも集客も、ネットや口コミに限られているのが現状なので、もう少し戦略的に動いて、本筋であるホームレスの自立支援も、「日本の男女を元気にする」プロジェクトのほうも、底上げを図りたいですね。あと、今は30代のお客さまが多いのですが、もっとご年配の方々に来ていただける仕掛けをつくって、元気いっぱいになってほしい。雑誌の表紙を飾るのは若いイケメンかイタリア人おやじというのでは、面白くないじゃないですか(笑)。

撮影/刑部友康 構成/内田丘子

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