NPO法人ブリッジフォースマイル/東京都千代田区
1973年、千葉県生まれ。大学卒業後、大手人材派遣会社パソナに入社。副社長秘書、営業、契約管理、人事などを担当する。2000年に長女、2002年に長男を出産。子育てと仕事の両立に悩む中、キャリアアップを目指して参加したビジネス研修で児童養護施設と出合う。2004年12月、「ブリッジフォースマイル」を創設。翌年にNPO法人化し、パソナ退職。養護施設退所者の自立支援、社会への啓発活動、人材育成をミッションに、多彩なプログラムを提供している。編著である『ひとり暮らしハンドブック 巣立ちのための60のヒント』(明石書店)は、全国の児童養護施設に無料配布されている。
ブリッジフォースマイル:www.b4s.jp/
カナエール:www.canayell.com/
親の死や育児放棄、虐待など、様々な事情から家族と暮らせない子供たちが生活する児童養護施設は、現在、全国に約580カ所(児童数は約3万人)。大手人材派遣会社に勤務していた林恵子が、養護施設と出合ったのは2003年、キャリアアップを目的に参加したビジネス研修がきっかけだった。調査を通じてその実態を知るにつれ、大きな問題意識が生まれた。もとよりCSR(企業の社会的責任)に興味を持ち、それに関連した起業を考えていた彼女は、翌年、施設と支援企業との橋渡しを担う事業を開始。やがて活動は、18歳で社会に巣立つ子供たちの自立支援へと軸足を移す。
失業、犯罪、望まない妊娠……「支援」が必要となる事態の裏には、親の愛に恵まれず、施設生活からいきなり社会に出ることを余儀なくされる子供たちの過酷な現実がある。そうした実情を企業などに啓発し、協力を募る活動は徐々に理解の輪を広げ、自立支援への協賛・協力企業は約40社に。
「素人に何ができるのか」と、最初 は受け入れに否定的だった施設側も、次第に門戸を開くようになった。現在、首都圏で半数以上の養護施設が、林らが提供する自立支援プログラムを利用している。
出産を機に、家庭と仕事との両立に悩むようになったんですね。それに子供を持つと、例えば保育所のことや、子育てを取り巻くいろんな社会の問題点がつぶさに見えてくる。そんな現状に文句を言ってるだけじゃなくて、独立して何か自分で始めようと。それでMBAの取得を思い立ったのですが、あまり自信がなかった英語力を補う目的で、あるビジネス研修に参加したのです。そこでたまたま与えられたテーマが「児童養護 施設に対するCSRプログラムの立案」。研修とはいえ、施設の実態を調査し、チームでプランを考え、企業採用に向けたプレゼンを行うというものでした。
現場を見て、ショックを受けました。施設の環境格差がけっこうあって、中には建物がボロボロなところもあるんですよ。年端もいかない子供たちが、ここで暮らしているのかと思うような。一方で、ある施設長さんに「職員に求める資質は?」と質問したら、「最低2年は勤めてくれること」だと言うのです。仕事はとてもハードで常に人手不足。増える養育ニーズに対して、質・量ともに、対応が追いついていないのが現状です。
これは何とかしなければと、本気でプランを考えました。例えば物的支援を行いたい企業と、それを求めている施設のニーズとのマッチングだとか、今の活動につながる仕組みを提案したのです。ところが、組んでいたチーム内で評価が得られない。「実現が難しそうだ」と却下されまして。だったら覚悟を決めて、いっそこれを私の仕事にしようと思ったのです。
最初は、何度も心が折れそうになりましたね。「一緒にやろうよ」と声をかけた人たちは、話しているうちに事の"重さ"を理解して、表情がこわばってくる(笑)。肝心の施設の人に冷たくあしらわれたのもこたえました。「うちはいいです」って、何も言わないうちに電話を切られたり。
活動を始めて少したった頃、施設の方から「子供たちは、社会に対する何の知識もなくここを出ていく。順応できず、坂道を転がり落ちてしまう子が少なくない」という話を聞かされました。ひとつの対応策として、子供たちが社会人としての基礎知識を学ぶセミナーを提案したのですが、今度は「みんな、面倒くさがって行きませんよ」との答え。で、考えたのです。参加者は時間に応じてポイントがもらえて、修了時には、ためたポイント相応の生活必需品と交換できるシステムにしたらどうかと。それで参加を促し、金銭管理や危険から身を守る術など、一人暮らしに必要な知識やスキルを学ぶのです。これが、うちの柱とも言える「巣立ちプロジェクト」です。初年度はわずか7名だった参加者も、今年は64名が集まりました。
昨年秋、「カナエール」という退所者向けの奨学金プロジェクトを立ち上げました。個人や企業の 募金などをもとに、まずは10名の進学・卒業をサポートするもので、その準備を進めていた矢先、今回の震災です。最初に頭をかすめたのは「募金が集まりにくくなるのでは」という思い。でも、違うんですよね。震災で、私たちが支援すべき多くの孤児が生まれたのです。そこで新たに、東北で被災した若者10名も支援しようと決めました。退所後の住居提供や奨学金を含め、自立支援の骨組みはできたと思っています。それに様々なサポートを肉付けしていくのと同時に、今後は私たちの活動を全国に広げていくのが目標です。
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