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THE INNOVATION 志こそが人を熱くする

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「遠隔地雇用」で、障がい者と企業をリンクさせる

工藤 啓さんの写真

「働いて稼ぐ障がい者」を増やすこと。それが慈善や義務ではない、真の自立支援になる

(株)ウイングル/仙台市青葉区

創業者
佐藤 崇弘さん(29歳)

1980年、福島県生まれ。宮城大学在学中の2002年、知的障がい者施設「ふれあい福祉会」で起業するも、理想とのギャップに苦しむ。翌年、ライフサポートを設立。老人ホームの経営に乗り出し、独自のアイデアと行動力で成功に導く。大学4年の時、長野県の任期付き幹部職員公募に応募、採用される。福祉行政に携わる中、都市部企業の障がい者雇用ニーズと、地方在住の障がい者の就労ニーズを、ネット経由の在宅就労という手法でマッチングさせることに成功。2005年、仙台でイデアルキャリア(現・ウイングル)を設立。障がい者の遠隔地雇用をビジネスモデルとして完成させ、商業ベースに乗せる。今年、行政の側から福祉を変えるべく仙台市長選に立候補するが、落選。現在もNPOやボランティアではなく、ビジネスとして成立する福祉事業を追求している。
http://www.wingle.co.jp

障がい者福祉や高齢者福祉事業が構造的に抱える問題を、ビジネスの手法で解決しよう――そう考える起業家(あるいは企業家) は、少なからず存在する。佐藤崇弘もその一人ではあるのだが、最初から「使命感に燃えて」この世界に参入したわけではない。10代後半、医大受験に失敗し、少々落ちこぼれ気分になっていた佐藤だが、もともと起業家精神は旺盛。「ならばいっそ起業して、何か新しいことに挑戦しよう」という、切り替えの気持ちから起業を決意した。

そんなある日、おじから障がい者が働く施設「作業所」の話を聞いた佐藤。それがまだまだ発展途上にあることを知った瞬間、「障がい者施設をつくってみたい」と思い立つ。弱冠21歳の大学生の身で「ふれあい福祉会」を経営し、代表におさまったものの、もちろん簡単にうまくいくはずはなかった。職員の給与は月10万円がやっと。本人はその後1年半、無報酬。それも昼は仕事と大学、夜はアルバイト、その稼ぎと親からの仕送りもすべて施設運営に注ぎ込んでのこと。まさにボランティアの美しい自己犠牲……などと自分に酔うヒマもなく、佐藤は「福祉」という伏魔殿に、乗り込まざるを得なくなってしまうのである。

なぜ辞めなかったのですか。

責任を考えると、辞めるに辞められなくなってたんですよ。福祉施設の運営が非常に厳しかった当時、社会福祉法人格を取得すれば補助金が全然違うと聞いて、さっそく行政の窓口に足を運んだ。熱意と実績と気合と根性をぶつければ、職員も意気に感じて認可してくれると本気で思ってました(笑)。ところが法人格を取るには、数千万円という基本財産が必要なんです。資金体力がなければ、どうしようもないことを知りました。

それで、次は老人ホームを。

別の事業で収益を挙げるしか選択肢がなかった。だから知恵は絞りました。自分で市内を回って遊休地を見つけては、地主さんに交渉する。そして施設を建ててもらい、こちらは土地の運用益を家賃というかたちで支払う。今、大手の介護会社がやっているオーナーズ方式を、苦肉の策で思いついてたんですね。最初はお金がなかったので、とにかくムダは徹底的に省きました。コピー機すら入れず。その積み重ねで普通なら1億円はかかる施設が、半額以下でできたんです。お金より知恵を出すことを徹底した結果、ほかの施設より利益も出て、5カ所のグループホームを設立するまでになりました。

田中康夫長野県知事(当時)が行った、幹部職員募集にも応募。

なぜか採用された(笑)。補助金をもらう立場から、出すほう、というより削るほうに回ったわけです。長野県も借金まみれでしたから。ところが優先順位の低い補助金をカットしようとすると、関係者からは抗議の嵐です。「田中康夫は障がい者のことを全く考えていない!!」と。そんな中、成果の出た案件もありました。一定規模以上の企業には、法律で障がい者を雇用する義務があります。しかし就労希望障がい者の数に対して、地方には雇用義務を負う大企業が少なく、大都市では逆に多すぎる。そこで東京のIT企業に、「ネット経由で仕事をアウトソーシングして、長野の障がい者を在宅雇用してほしい」とお願いしました。それが実現して、障がいのある方、企業の双方から感謝されたんです。

ウイングルのひな型ですね。

仕事をする能力のある障がい者って、実は多いんですよ。特にパソコンを使ってのデータ入力やWebの監視業務、情報管理業務。そうした仕事を、地方の就労希望者に任せてみませんかと。仙台に戻って会社を起こし、東京の大企業に提案しました。「義務だから」「かわいそうだから」ではなく、仕事の質において何ら遜色がないのだと。初年度は受注ゼロで焦りましたが、やがてIT系や新興系の企業を中心に発注が来るようになった。今では月20万円くらいの収入を得る方もいますが、それでも企業にしてみれば生産性は非常に高い。私たちも補助金は一切もらわずに利益を挙げた。福祉がビジネスとして成立したんですよ。

今年、仙台市長選に立候補されたのも、福祉改革の一環ですか。

自立の道が開けても、福祉施設の多くの経営者は障がい者を手放したがりません。なぜなら、補助金は障がい者一人につきいくらというかたちで出るからです。だから障がい者を抱え込む、そういう“業界”になってしまっている側面があるように思います。一方で、一部の行政からは「遠隔地雇用は法律の精神にそぐわない」といった指摘をされることもある。立候補したのは、自治体単位なら、よりダイナミックに仕組みを変革していけるからです。でも、選挙戦を通じて一握りの人たちに利権が独占されている現実を見て、正直、暗澹たる気分になりました。今回の選挙は破れてしまいましたが、ウイングルは民間から、私は行政から社会をより良くしていくためのアプローチを続けていきますよ。

取材・文/神戸 真 撮影/刑部友康 構成/内田丘子

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