CASE73特許流通アドバイザー
経営者としての経験やノウハウを世のため人のために生かしたい
一人のプロワーカーが、2009年に一大ブームを巻き起こす火付け役になるかもしれない。健康食品や化粧品の新製品には、ダイエットや老化防止、美肌など様々な効果を訴えるために、「○○配合」や「○○含有率○%」といった新しい機能性物質名が表記される。安孫子さんが山形大学との共同研究で発見したのは、タモギタケから抽出されるエルゴチオネイン。ビタミンEの7000倍の抗酸化力を持つ物質で、アンチエイジングやメタボ対策に効果があるという。すでに大手健康食品メーカーが着目し、商品化の準備が進められている。
4年前、安孫子さんは25年間、無借金で経営してきた教育施設機器や事務機器の販売会社を実弟に営業譲渡して清算。営業代行のプロワーカーとして「第二の人生」をスタートした。
「経営者の時は、自分や社員や家族のために仕事をしていました。ちょうど子育ても終わって一区切りがついたことで、経営者として得たノウハウを生かして、今度は自分一人で世のため人のためになる仕事をしたいと思いました」
当初は地元の写真館などの仕事を請け負っていた。だが、幅広い商品を扱うことに難しさを感じていた。そんな折、地元の居酒屋でタモギタケの栽培業者を営む人物から「営業をやってくれないか」と頼まれた。
「もともとキノコは大好きだったので、この際だから特化してしまおうと。そこで栽培方法の特許を取得し、栽培プラント立ち上げの営業をしました。しかし、キノコを作って売るだけでは1パック100円の世界から抜け出せない。考えた末に思い付いたのが、機能性物質の抽出でした」
初めて会社を立ち上げた頃、コピー機の販売を手がけたものの全く売れなかった。そこでお寺に1台を貸し出し、実際に使ってもらうことで使い方を収集した。それをほかのお寺に提案すると、コピー機は面白いように売れた。以後、「ノウハウを売れば、モノは後から売れる」という信念のもと、会社は学校の改築コンサルティングを手がけるまでに仕事の幅を広げた。キノコも、そのものを売るのではなく機能性物質を売りにしたことで、現在製品開発を進めている1社からだけで、25tもの注文を受けた。今後、エルゴチオネインを含む製品を数社が手がけるようになれば、その受注量は計り知れないものになることが予測できる。
「もう一人でできる範囲は超えているのですが(笑)、最終目標は地場産業の創出と地域の活性化です。タモギタケは日本では東北地方と北海道にしか生息していません。東北発、仙台発というコンセプトには常にこだわり、地域、地方にしかないものをいかして、地方の復権につながるような仕事をしていければと考えています」
PROFILE
安孫子 隆さん(59歳)
1949年、山形県生まれ。大学卒業後、事務用品・機器メーカーを経て教育施設機器、事務機器、健康科学機器の販売会社を設立し、25年間、無借金で経営する。2004年、実弟の会社に営業譲渡し会社を清算。営業代行を主たる業務とするプロワーカーに転身。現在は、タモギタケから抽出される機能性物質エルゴチオネインを活用した事業を中心に活動している。
取材・文●山根洋士 撮影●井出マコト
協力●NPO法人インディペンデント・コントラクター協会
[ 2008.12.26 ]
人脈づくりのために学会から同好会まで10の団体に名を連ね、それぞれの名刺を所持。キノコの話も人脈に乗って発展中
POLICY
いつまでに何をするかという設計図を大切している。最初に就職した時、5年間で人、モノ、金だけ学んで独立すると決めていた。
HOLIDAY
365日、仕事のことを考えているので休日はない。疲れて休むのは当たり前。疲れた時ほど仕事をするから他と差がつく。
MONEY
「お金がないから節約する」は会社員の発想。お金がない時こそお金を使うのが経営者の考え方である。
SATISFACTION
自分の今までの経験を生かして、世のため、人のためになることができた時。今はキノコを軸とした地場産業創出の過程。