CASE51キャリアコーチ
“漂流”するキャリア人生から能力開発業界のスペシャリストに
決して本意ではない人事異動が、独立のきっかけになることがある。大手IT関連企業を退職し「キャリアコーチ」として活躍中の野口さんは、営業部から意図しない教育部門への異動がプロ独立の転機となった。現在はキャリアコーチング、企業研修などを中心に、充実した毎日を送っている。
「会社員時代はSE、営業と経験しましたが、どれも自分には向きませんでした。それでも何とか苦手なりに営業で、組織を活性化させたり部下を育てたりと手ごたえをつかみつつあった時、今度は教育部門に異動になったのです。当時はとても落ち込んだのですが、もう開き直るしかなかったので、上司と大ゲンカ。『ならば新しい部署に一生いさせてください』と言ったほどです」
当時33歳。もう社内を“漂流”するようなキャリア人生を送りたくない。それ以上に強かったのが「市場で通用する力を身につけたい」という思いだった。異動先の教育部門では、毎年入社してくる社員全員の顔と名前を覚えるほど、彼らと頻繁に接するよう心がけた。キャリアカウンセリングやコーチングなど、様々なキャリア関連の資格も取得し仕事に没頭。その後、教育関連の子会社で4年間を過ごし、2007年2月にプロワーカーとなった。
「この仕事の魅力は、依頼者から『相談してよかった』と言われ、実際にその人の行動が大きく変わる瞬間に立ち会えること。依頼者と向き合い潜在能力を引き出し、活性化するポイントをもっと極めたいという思いが、独立した理由の一つです」
企業研修の効果は一般的には20%以下といわれている。だが、野口さんが行う研修は、受講者の行動が変わる率が極めて高いと好評だ。その理由の一端を聞いてみた。
「私にとっての企業研修は“ライブハウス”のようなもの。会場全体を一つの人格としてとらえ、適切な働きかけによって一体感をつくり出せるよう心がけています。さらに、どんな仕事に向いているのかといった表面的なものではなく、仕事人生にどんなテーマをおきたいのかにフォーカスします。コンテンツではなく文脈に働きかけるイメージですね。それが、受講者の考える力を伸ばすと信じています」
現在の主要取引先は、元勤務先を筆頭に約5社。研修講師やキャリアコーチがメインだが、「能力開発アドバイザー」として社員のパフォーマンスを活性化させることを依頼された案件もある。
「まだまだ2年目ですので、今年は多少売り上げが落ちてもかまわないので、実験的な取り組みをしていきたい。いくつかアイデアはあるので、その中から本当に意味のあるもののみ見いだし、将来のユニークなポジションが築けるようにしたいと考えています。そして“自分にしかできない仕事”をつくりたいですね。この一年で大きく環境は変化しましたが、我ながらいい人生だと思っています」
PROFILE
野口 悦敬さん(41歳)
Yoshinori NOGUCHI
1966年、千葉県生まれ。大学卒業後、大手IT関連企業に入社。SE、営業、調査部門などを経験し、教育担当に。その間、キャリアカウンセリングやコーチングなどの人事関連資格を取得。教育関連の子会社を経て、2007年1月に退職。同年「HRDエージェントエッケイ」を開業。
取材・文●天田幸宏 撮影●松本朋之
協力●NPO法人インディペンデント・コントラクター協会
[ 2008.01.18 ]

コーチングに臨む際は、虫眼鏡型のカフスボタンを着用することが多い。これをはめることによって、クライアントの可能性を見逃さないという気持ちになれる
POLICY
独立前から「仕事は自分個人に発注されているもの」というスタンスで臨んできた。
HOLIDAY
オフィスは自宅に構えているため、生まれたばかりの娘と過ごす時間が増えたことがうれしい。
MONEY
会社員時代の仕事を引き継いだこともあり、初年度から収入は安定。3、4割ほど上昇した。
SATISFACTION
初年度が100点とするならば、2年目は200点を目指したい。