おかだ・あきひこ/北海道出身。高校卒業後は札幌で12年暮ら し、29歳の時に家業を手伝うため帯広に帰郷。13年後に燃料 販売会社に転職。在職中に地域情報発信を目的にネットショッ プを開業。二足のわらじに葛藤し、47歳で独立。ミスチルの大ファン。
「わからないことあれば何でも教えるから、会社の 空いてる机で仕事したらと言ったら本当に来ちゃった (笑)」と河村さん(写真右)。今や身内のように何でも言える関係
いつかネットショップをやりたいと思ったのは、実家の会社に勤務している時でした。もともと文章を簡潔にまとめたり、デザインも好きなので、会社の宣伝用チラシを自分で制作するのが楽しくて。その延長でインターネットをいじり始めたんですよ。ネットショップも自作できるじゃないですか。たぶん、父の会社で働いている身だったので、“自分だけの城”がほしかったのかもしれませんね。その時は正直、“伝える・つくる”に満足して、売り上げは真剣に考えていませんでした(笑)。開設しただけで半年後に閉鎖。でも、いつか本格的にネットショップをやりたいと思うきっかけになりました。しかし家業のプロパン事業を譲渡する話が持ち上がり、6人の従業員と共に私も譲渡先へ転職。しばらくは何もアクションしなかったのですが、2年後たまたま友人が起業すると耳にして、「あぁそういえば」と、自分もネットショップをやろうと思い立ったのです。
その時は独立したいというより、十勝の人の魅力をネットで発信したいという思いでした。10年以上、故郷を離れていてUターンしたせいか、40代になったせいか、故郷の良さを再認識するようになったのだと思います。知れば知るほど、この十勝の豊かな自然と、ここで頑張る人たち、そういう魅力をネットで発信したいなと。それに、私はとにかく知り合いが多いんです。まぁ、Uターン後、自分から地元とつながりをつくろうと、積極的に会合や行事に参加して交流しましたけれど、同行者から驚かれるほど、道を歩いていると何人も知り合いに会う(笑)。自分の財産は何かと考えた時に、この知り合いの多さこそ宝物だなと。でも、このまま会社勤めしていたら、せいぜい会社の営業にしか生かせない。宝の持ち腐れだなと考えるようになっていました。十勝で頑張る人たちの情報を発信できて、たくさんの知り合いにも喜んでもらえる方法は、やはり十勝の食材を広めることだと。それで十勝の食材限定のネットショップを始めようと思ったのです。
帯広の飲食店「イージーダイナー」オリジナルの冷や しカレーは十勝の野菜がたっぷり。考案者でもある店 主・立石氏と販売打ち合わせ。生産者の元へ頻繁に訪問する
とはいえ、最初から売れるショップにはなるはずもない。1年ぐらいは予行演習のつもりでした。勤務先には内緒で、まずはジャガイモだけでスタート(笑)。それでも立ち上げ1週間後には注文をいただき、びっくりしました。そしてアスパラの時期に、なんと大手ショッピングモールで売り上げ1位になってしまって、「二足のわらじは難しいかも」と思うように。勤務先にも申し訳ないし、なんかズルい生き方のような後ろめたさも感じて。かといって、安定収入を捨てる勇気もなく、もんもんとしていました。いろんな知り合いに相談すると、その多くが、「安定収入を捨てるなんてバカだ」「甘い!」「勤めながら好きなことやればいいじゃないか」と。
そんな中で、「世間では、専業としてやっても利益が出せない人が多いのに、片手間で成功できるほどネットショップは甘い世界じゃない!」と、私の中途半端さに檄を飛ばしたのが、デジタルグラフィックスという会社の河村知明さんでした。その一言で腹がくくれたのです。多少のマイナスは覚悟のうえ、後悔しない生き方のほうを選ぼうと。いざ退職してネットショップ1本に絞ったと河村さんに報告したら、逆にびっくりされちゃって(笑)。今ではケンカできるほどの仲良しですが、もともとは知人を介した知り合いなんです。前年に、私が地元の氷祭りの実行委員長を務めた時、130人のスタッフMLをつくりたくて、ネットに詳しいからと相談に乗ってもらったのがきっかけ。その後、気軽な気持ちでネットショップ運営について相談したのが始まりでした。今では私のコンサルタントとして、またひとりの友人としても大切な存在です。こうして振り返っても、つくづく私の宝物は人だなぁと思いますね。
「ネットショップ=デジタルな世界」と思われがちですが、要はやはり人だと思うんですよ。私の宝物でもある“知り合いの多さ”を生かして、扱う商材は、知り合いの農家さんや、知人から紹介してもらった加工会社さんの商品。すべて生産者の顔が見える、地元の十勝のこだわりの食材です。「扱わせてください」「いいよ〜」と、ふたつ返事のところもあれば、旧知の仲でも、ネット通販はやりたくないと断る店主さんもいました。「店頭販売でお客さんとのやりとりが楽しみで商売しているのに、ネットじゃその楽しみがない」と。ごもっともだと、私も素直に諦めました。と同時に、もっともっと人肌が感じられるネットショップにすべく、気持ちが引き締まったのです。時間はかかりますが、お客さんへのメールも自動にせず毎回書くようにしていますし、こちらからお電話することも多いです。珍しいのか驚かれますが、やはり生の声でお話しすると心が通いますから。そういうアナログな接客を心がけています。
50歳目前での起業なので、もちろん不安もありました。が、お金儲けのためだけではなく、地域のために、未来のために、子どもたちのために、何か自分にできないかという思いのほうが強いですね。十勝の豊かな自然を、農作物を、未来の子どもたちに残すのは、大人の使命のような気がしていましたから。大げさに言えば、十勝のDNA、志のようなものを残したい。そのためにも、単なる食材の販売ではなく、ひとりでも多くの方に、十勝の魅力を知っていただき、十勝に遊びに来てほしいんです。まだまだ始めたばかりで課題も多いですが、前進あるのみ! 不思議と目の前には成功への選択肢しかないような気がして、課題を一つ一つ乗り越える毎日を楽しく感じています。
いつかネットショップを始めたい、と思った当時は父が営む会社に勤めていましたから、どうしてもそこは父の城。今思えば、自分の城をつくりたかったのかもしれません。そのうち、故郷の十勝で輝いている人、素晴らしい人をもっと広く情報発信したい思いが高まって、商材を十勝の食材に絞り、開業しました。とはいえ、スタート時はまだ会社員。何か中途半端なような後ろめたさを感じている時に、知り合いだった河村さんから、「レーザー光線は1点に集中しているから、強力なんだ。成功の鍵は人生をそれに懸けられるかだ」と言われ納得、思い切って退職を決意し、一本に絞りました。
約100万円です。パソコンが20万円、ショッピングモールの契約料が32万円、オフィスの間借りは無料の代わりにコンサル料として月3万円。あとは運転資金です。
これまでの貯蓄を充てました。
二足のわらじをはいていた時に、「本気じゃないのか!」と檄を飛ばしてくれた河村さんは、私が本当に会社を辞めてネットショップ一本でやると知ると、「えっ、本当に辞めちゃったの?」と驚いていました(笑)。その責任を感じたのか、事務所のデスクを貸してくれて、何かと厳しく指導してくれます。会社勤めのまま続けるか悩んでいた時に退職を反対していたある知人からは、私の無謀さを心配してか、「二度と来るな!」と怒られましたが、でもその後に「もし何かあれば来いよ」と。本当にありがたいです。
超不安でしたよ。でも、自分の中で答えは出ていましたから。今やらなければ二度と踏み切れない。「そんな人生でいいのか!」と、自分を奮い立たせました。
地元の仲間や先輩、顔なじみの皆さんです。それと、これまでの仕事経験も役立っています。燃料販売会社に勤務していたので、地元の顔なじみが多く、多くの生産者さんを紹介いただきました。また、札幌にいた当時、ガソリンスタンドに9年勤務していたので、お客さんの要望を先読みする癖が身についたことも役立っていると思います。ネットショップは顔が見えない商売になりがちですが、フェイスtoフェイスの経験が長いので、自分はモニター越しでも対面のような接客を心がけているなと実感しています。
知り合いが多いことが私の宝ですから、いろんな人に何でも相談しますよ。その中から、自分でも納得できるアドバイスを取り入れればいいし、たとえ失敗しても、自分で決めたことだと、人のせいにしなければいいのですから。私はバカ正直に相談するタイプですがうそはつかないので。あまりのバカ正直さで怒られることもありますが、それだけしかってくれる仲間や先輩に恵まれているのですから感謝です。特に、河村さんには何でも相談します。たまには、私が意見することもありますが(笑)。
生産が間に合わず、配達希望日が遅れ、クレームになった時です。せっかくの十勝のおいしい食材ですから、まだ出荷できない未熟な状態で発送したくないし、業者さんも同じです。自然のものを扱うので、天候に左右されることもあります。その点をお客さんにご理解いただけるようご説明するしかありませんでした。でもその経験を生かして、ネットでの情報公開や、ご注文確認の際にも念を入れるようになったので、いい勉強をさせていただいたと思っています。もちろん、逆に感動で泣いたことも。それは次の項で(笑)。
頑張った分が自分に返ってくること。一本立ちしてから頑張れる粘りが強くなったと実感しています。何より嬉しいのは、お客さんの「おいしかった!」の声を聞くことですね。もうひとつ、独立してみて、社長だった父を素直に尊敬できるようになったことも。最近、震災で発送が遅れることをお詫びしたら、「被災地優先で。うちは後回しで」と言ってくださるお客さんが多くて、何度も感動しました。また、被災地にお住まいのお客さんからのご注文に配送が遅れそうだったのでお電話した時のことも忘れられません。「夫が復旧活動に単身赴任しています。帰ってきてから一緒に食べたいので、数カ月後でもかまわない」と……。電話口で一緒に泣いてしまいました。
後悔しない生き方をしてほしいです。ひとりで格好をつけて独立できるなら、それもいいですが、もっと泥臭く、いろんな人の力を借りながら、後悔しない生き方を選べばいいじゃないかと言いたいです。自分ひとりでは何もできないし、非力なことを実感します。が、その分、周りの人たちへの感謝の気持ちが以前よりも増しています。この気持ちを忘れずに、いつか恩返しできるように、精いっぱい取り組めば、結果はきっとついてくると思うのです。死ぬ気になれば頑張れますよね。頑張りましょう、お互いに!
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報