先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


佐藤浩崇さんの写真

喜びも成長も共にする
地域のおせっかい税理士

佐藤浩崇税理士事務所 /東京都日野市
佐藤浩崇さん(42歳)

さとう・ひろたか/東京都出身。大学卒業後、予備校に勤務するも、税理士資格取得を目指し退職。税理士事務所に勤務しながら受験勉強に励み、10年後に合格して独立。高校時代は柔道部に所属。最近は草野球で、マネージャー兼ライト7番。子どもは3人。

独立準備のがんばりどころ

税理士を目指し、ゼロから受験勉強をスタート。昼夜を問わず猛勉強を10年間

教材

免除がいっさいなく、5科目すべて受験した“試験組”の戦いの証しとして、教材は今も処分せずに残してある。読み込んだ回数の正の字が、当時の猛勉強ぶりを証明している

簿記の“簿”の字も税法も、何も知らない未経験者でしたが、税理士を目指そうと決意したのが27歳の時。当時、大学受験予備校に勤務し、受験指導を担当していて、職場の環境も人間関係も恵まれ、なんら不満はありませんでした。でも、自分には特技がなく、自分にしかできない仕事というわけではない。若かったせいか、誰かに取って代わられる人がいくらでもいる仕事に物足りなさを感じたんですよ。じゃ、そういう仕事って何だろうと考えた時に、父が税理士なので身近に感じて、じゃ自分もと(笑)。試験は難関だとは知っていましたが、父が5年間勉強して合格したと聞いていたので、自分もそのぐらいで合格できると思ってしまったわけです。それで退職したものの、勉強だけに専念できる身分じゃないので、働きながら勉強しようと税理士事務所に転職。土日は専門学校へ通い、平日は帰宅後、深夜まで勉強する日々が始まりました。まったく未知の分野なうえ、暗記も苦手。だから、教材をひたすら読み込んで頭に入れるスタイル。職場での昼ごはんも5分で終えて昼休みも勉強し、帰宅後も深夜まで猛勉強しましたね。

つらかったですよ。始めて4年間、5科目中ひとつも合格できませんでしたから。専門学校での成績はいいのに、本番で合格できない。何でだろう?と精神的にも体力的にもきつくなって、勉強スタイルを夜型から朝方へシフトチェンジしました。毎朝4時に起きて出勤まで3時間勉強し、出社して、始業前の1時間も勉強に。試験は年1回で、5科目の科目合格制ですから、1科目ずつ制覇しようと取り組みました。そして5年目に、ようやく1科目を、6年目に2科目をパス。8年目に3、4科目目に合格し、「リーチ!」と挑んだ翌年は不合格。長く感じました。試験勉強を始めて10年目、8月の試験直前に、3人目の子どもができたことが判明して、妻からは「もう今年でどうにか合格して!」と。そりゃそうですよね。結婚以来、子育ても妻に任せっぱなしだし、どこかに遊びに連れていくこともなかったし。家族サービスどころか、学科試験に落ちて感情的にもなったことも……。ずっと家族を犠牲にしてきたんです。でも、途中であきらめたら、何も報われない。それに自分の人生に後悔を残すことになる。ひたすら歯を食いしばって、臨むしかありませんでした。

苦節10年目に合格し独立。Webサイトで本音を伝え、新規顧客の獲得へ

事務所内

自ら顧客先へ訪問するスタイルのため、事務所のある日野市を中心に多摩地域、川崎市の顧客が多い。昼間ほとんど外出し、書類作成は夕方以降に事務所に戻ってから

受験勉強を始めてから10年目。試験結果が判明した12月のあの日のことは、今でも鮮明に覚えています。思い出すと涙が出ますよ……。それまでの学科試験の合否通知は、ごくごく普通の封筒で、普通郵便で届けられるのですが、その日は違いました。職場にいたら妻から電話があって、「なんか国税局から大きな封書が届いた」と。震えましたよ。そして、電話で妻に開封してほしいと頼んだのです。これまでの苦労が報われた瞬間でした。10年間、家族を犠牲にしてきましたが、やり続ける自分を支えてくれたことに心から感謝ですよね。翌年3月に税理士登録をし、独立を果たしました。しかし、独立したものの、正直、営業経験はないし、ずっと受験勉強一筋でしたから、独立後のことは二の次になっていました。幸い、すぐに紹介で仕事の依頼をいただきましたが、その後はパッタリ。先輩の税理士からは「合格して看板さえ出せば仕事がどんどん来るよ」と言われていたのですが、まったく(笑)。その先輩が言っていたのはバブル景気当時のことで、実際は違っていました。

独立前まで父の税理士事務所に勤めていましたが、お客さんは父と昔からお付き合いしている方が多かったんです。税理士なら誰でもいいのではなく、「やっぱり人なんだ」と実感。私も、私を必要としてくれるお客さんを自分から探さないと、このままでは商売として継続できません。どうしようかと悩んでいたところ、同期に合格した仲間の税理士たちも、同様に新規顧客獲得の問題に頭を抱えていました。彼らとの飲み会の席で、「Webサイトをつくったら問い合わせの電話があったらしいぞ!」と聞いて、自分もつくってみることに。いろいろな税理士事務所のWebサイトを調べてみたら、どこも面白くないんですよね(笑)。杓子定規で似たようなことが書いてあるだけ。“お客は人につく”という実感値から、「自分はなるべく本音を伝えるWebサイトにしよう」と。それが功を奏したのか、徐々に問い合わせの連絡をいただくようになりました。

税理士としての範疇を超えて、中小企業の経営者、継承者、起業家をサポート

独立して4年目の現在、お客さんは30件ほどに増えました。普通の税理士は、年に数回、事務所でお客さんと顔を合わせる程度ですが、私は頻繁にお客さんのところへうかがうスタイルにしようと。それにより、顧客の今がわかるんですよ。書類だけは見えてこない、例えば工場の機械の調子とか、在庫状況とか、社内の雰囲気とか。お客さんの表情を自分で見て感じて、そのうえで、数字から現状と将来を見て、成長をサポートしていくこと。これが自分のスタイルだと思っています。また、お客さんのところへ行って数字の話をすると、お客さんも数字の感覚が身に付いて、売り上げが伸びるケースが多々あります。そういう時はやはり嬉しいですよ。人はどうしても、悪いことは見たがらないでしょう。例えば、最近ちょっと太りすぎたと思うと、体重計に乗りたくないじゃないですか(笑)。それと同じ。現実を知って、その数字を見せて、行動、経営改善の指標にしてもらうことが重要なんです。また相続も、税金を媒介にして人さまの一生を共に振り返ることができる大事な職務だと感じています。時には親族間のトラブルに発展することもありますが、その分、やりがいは十二分です。

近い将来の目標としては、難解な税制改革条例などを、わかりやすい文章に翻訳したニュースを定期的に作成してお客さんに提供したり、財務指標の見方の勉強会なども開きたいと考えています。私のスタイルは、税理士としての範疇を超えていると思いますが、経営者、継承者、起業家が、頑張った分だけちゃんとリターンが大きくなるような、そんなお手伝いをしたいんです。中小企業の経営者って、会社員や公務員のような保護が少ない。リスクは誰よりも大きく、責任をほぼひとりで負っているにもかかわらずです。一生懸命商売をしている経営者に、本音で応えるおせっかいな税理士が、ひとりぐらいいてもいいじゃないですか(笑)。それが、自分らしいスタイルだと思うし、私に求められている、私も自分に求めている仕事なのだと思えます。

取材・文 / 岡部 恵 撮影 / 刑部友康

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    誰かに取って代わられるような職業ではなく、何か自分にしかできない仕事をしたいと思うようになり、たまたま父も税理士だったので、身近に感じて税理士を目指しました。別に父に勧められたわけではないし、自分も若い時には親への反発心があって、父と同じ職に就こうなんて思わなかったのに不思議ですよね。実は、良く見えていたんでしょうね(笑)。資格取得後すぐに独立したのは、お客さんは税理士なら誰でもいいからつくのではなく、人としての税理士につくことを実践したかったからです。

  • 開業資金は?

    約100万円です。税理士会の免許登録や会費で30万円、パソコンとプリンター購入で20万円、電話設置費、あとは運転資金です。Webサイトは独立2年目に自作しました。

  • 開業資金はどう集めた?

    これまでの貯蓄を充てました。

  • 周囲の反応は?

    税理士を目指そうと思ったのは結婚直前。とはいえ合格する保証もないので、会社を辞めるかどうしようか悩みましたが、妻は「今の仕事(大学受験予備校)を続けながら、受験勉強をするのは難しいだろうから、勤めながら目指すなら転職したほうがいい」と背中を押してくれました。父や母は何も言いませんでしたね。合格するまで10年間、内心すごく心配していたとは思います。

  • 不安だったことは?

    合格するまではやるしかない!と思っていましたし、合格すればお客さんが向こうから来ると思っていましたから(笑)。不安はいっさいありませんでした。先輩税理士から「仕事はどんどん来るよ」と言われていたのをうのみにしていたんです。それはバブル景気当時のことでした(笑)。

  • 役立った情報源は?

    10年間、税理士事務所で働きながら受験勉強をしていたので、教材に書かれていることが実践で学べたのは役に立ちました。ただ、独立準備に関しては、専門学校でも独立セミナーが開催されたのですが、それは役に立たないと思いました。それよりも、同期で合格した“試験組”の仲間たちとの飲み会のほうが、実践的な話が多く役立ちました。

  • 相談相手は?

    特に相談はしませんでした。しいて挙げれば妻ですね。相談するというよりも、私が一方的に話して、自己解決するようなスタイルですが(笑)。独立後の相談相手は、やはり同期合格の“試験組”の仲間たちです。

  • 独立して一番困ったことは?

    良からぬことを考える人物から仕事依頼があった時です。内容は合法的ではあるのですがギリギリのラインでしたので、お断りしました。そういう問い合わせを受けるのも嫌なので、Webサイトに自分のポリシーをはっきり打ち出すことにしたんです。それが良かったのか、「Webサイトで人となりを感じた!」とコンタクトしてくださり、お付き合いが始まったお客さんもいますし、他士業の先生からお客さまをご紹介いただいたりと成果がありました。今思えば、断った仕事のおかげで、自分の考えを鮮明にアピールしようと思えたわけですから、良からぬ人物に感謝です(笑)。

  • 独立して一番良かったことは?

    お客さんの数字意識が上がって、事業の成長に貢献でき、数字に反映されていくことを共に喜べることが何より嬉しいです。それと、いち経営者としての醍醐味は、やはり頑張った分だけダイレクトに返ってくることでしょうか。プライベートでは、草野球チームに入り、週末リフレッシュできること。独立前は勉強漬けでしたからね。また仕事が個人プレーなので、チームスポーツはいろいろと勉強にもなります。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    キーワードは、“覚悟”です。独立にはリスクと責任をすべて背負うのだと覚悟してください。様々な外的要因による変化を引き受ける覚悟、そのために勉強をし続ける覚悟、努力を惜しまない覚悟、格好良く商売をしようせず、泥くさく、正直でいることの覚悟、そして新しいことに挑戦する覚悟を持って臨んでほしいと思います。勤め人なら短時間で成果を挙げることを求められるし、自らもなるべく残業はしたくないからと効率性を重視してしまうと思うのですが、独立したら何時間だって自分が働きたいだけ働けばいいんです。そのくらいの覚悟で頑張ってください。

設立
2007年4月

開業資金
100万円

従業員数
2人

年間売上高
非公開

アクセス
http://satou-zeirishi.com/


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