いとう・みか/群馬県出身。オリンピックに出場した同僚に刺激され、世界公認バルーンアーティスト試験に挑戦するため退職。独立3年後に専門店を開店。イベント演出や装飾、講師、福祉活動を継続中。2010年、国際大会で準優勝、国内大会で優勝。趣味は舞台鑑賞。
独立8年目の2008年に店舗を現在の場所へ移転。12坪 の店内には数千種類のバルーンがあり、オリジナル制 作や地方発送も。車利用が多いため店前と国道沿いに駐車場を確保
冬季オリンピックにスピードスケート日本代表として出場した楠瀬志保さんは、会社の同僚で仲良しだったんです。世界を舞台に活躍する姿を間近に見ていて、自分も何か真剣に挑戦してみたいと思ったのが出発点でした。何に取り組もうかと資格関連の雑誌を見ていた時、バルーンアーティストの記事が載っていて、「どんな仕事なんだろう、仕事として成り立つのかな」と興味を持ちました。ネットで調べると、東京でもバルーン教室の数が少なく、群馬県内では皆無。そのうちに、世界規模のメジャーな公認試験CBA(Certified Balloon Artist) というものがあることがわかりまして。本部はアメリカで、毎年世界各地を回って試験を開催するとのこと。「その試験が、ちょうどその年に日本で開催される!」。今年を逃すと来年以降は海外受験となります。これはもう「今しかチャンスがない!」と思ったのです。
試験に挑戦しようと決意したものの、バルーンアートって一体どういうものか、どんな仕事なのか、業界のこともまったく知らなくて(笑)。ネットでの情報も少なかったので、まずは実際にやっている人に話を聞きに行こうと。ネットで見つけて連絡し、大阪と岡山へ会いに行きました。ひとりは、「やりがいがある仕事だし、あなたならきっと大丈夫」と励ましてくださいましたが、もうひとりは、「大変な仕事だから、OLでいたほうが楽よ」と。当時は職場にも仕事にも不満ひとつありませんでしたが、就職して7年、楠瀬さんのように挑戦したいと思っていましたからね。「そんなに大変ならば挑戦しがいがある!」と、かえって燃えました(笑)。
一枚板の看板は伊藤氏の宝物で、独立祝いにと楠瀬 選手の父親から贈られたもの。トロフィーとメダル は、2010年JBAN大会のウエディング部門優勝の証
決意してから試験当日まで約半年でしたが、CBAのアメリカ本部には幸運にも日本人スタッフがいて、試験に必要な書類やテキストを翻訳していただき、必死で勉強しました。試験は筆記と実技で、筆記では技術的なことはもちろん、アメリカの法律、州の条例、バルーンアートの受注の仕方から納品まで、細かく出題されるんです。筆記試験に合格すれば、実技試験に臨めるという仕組みなのですが、筆記試験だけでなんと4日間もあるんですよ。そんなに会社を休めない、やるなら本気でと思って、受験前に退職しました。
試験は無事に合格しましたが、世界公認資格を取得しても仕事依頼があるわけではありません。でも、どこの誰に営業をしたらいいのか、誰に言っても「バルーンって何? 風船で犬をつくるあれ?」と言われた時代。言葉で説明するより、見てもらえればわかるのに……。そんな時に友人が、「知り合いのケーキ屋さんの2階のギャラリーで展示会でもしてみたら?」と。さっそくお願いに行き、個展を開くことに。これが大きな転機となりました。地元新聞社の記者さんが取材に来たのですが、偶然にも元勤務先の部長のお子さんで、紙面にカラーで紹介してくださったんです(笑)。また、県内の結婚式場の支配人さんも見に来てくださり、生花に代わる新しい装飾商品になると、後にブライダルフェアの依頼をいただくことに。この個展と新聞記事を機に、徐々に依頼が増えていきました。とはいえ、まだまだ暇で(笑)。空いた時間は少しでも実践広報すべく、材料費は自腹で知り合いの店の装飾をさせてもらいました。
認知度が低いバルーンアートを、もっと広く多くの人に伝えるにはどうしたらいいかと思っていた頃、知り合いが子ども服の雑貨店を開店すると聞き、そのワンコーナーにバルーンを置かせてほしいとお願いすることに。結果、場所を借りられるだけでなく、複数の店舗でシェアリングすることになり、経営からレジ打ちまでご指導いただきました(笑)。ここでの経験が、その後の一軒家での開店に大いに役立ったのは言うまでもありません。ブライダルの依頼も増え、いずれは自社だけで店を持ちたいと目標が明確になってきた時、前橋市と高崎市を結ぶ国道が開通。多くの人が往来するエリアになるとほれ込み、2008年、国道の近くに一軒家を借り、グランドオープンさせました。
そして、世界公認試験に挑んでからちょうど10年目となる2010年。4月にダラスで開催されたバルーンアーティストの世界大会「WBC世界大会」で準優勝し、8月には国内のJBAN(Japan Balloon Artists Network)大会のウエディング部門で優勝することができました。世界を相手に頑張っている同僚の姿に刺激され、バルーンの道を進んできましたが、まさか自分も世界を相手に勝負できる日が来るなんて……。驚きです。多くの人の協力や応援があってこそです。技術的にもっともっと成長したいのと同時に、バルーンの魅力をこの店舗から発信していきたい。ブライダルやイベントの演出、カルチャー教室の講師、バルーンを使った運動やリハビリの福祉活動、そしてコンテスト出場など、いろんなルートがようやくできたところ。さらにバルーンを広く伝えていく私の挑戦は、「これからだ!」と思っています。
オリンピック日本代表で出場した楠瀬志保さんが会社の同僚で、世界を相手に頑張っている姿に刺激されたんです。自分も何か真剣に取り組みたい。そう思っていた時に、たまたま書店で立ち読みしたのがバルーンアーティストの記事でした。調べてみたら、CBA(Certified Balloon Artist) 世界公認バルーンアーティストという資格が世界で最もメジャーだということがわかり、その試験を受けようと。でも筆記試験だけで4日間も要するので、そんなに会社を休めないと思い、不退転の覚悟で退職しました。筆記試験後の実技試験にも合格し、翌月に個展を開いたことが独立の第一歩だったと思います。
開業資金は16万円です。CBA(Certified Balloon Artist) 世界公認試験の費用やテキストで約10万円。残りが教材やポンプ代、材料費などです。事業拡張のために現在の店舗開店で要した資金は、家賃や内装工事、仕入れなどでトータル100万円ほどです。
これまでの貯蓄を充てました。
前勤務先の社長さんからは「いつか営業においでよ」と言っていただきましたし、同僚も応援してくれました。でも、私が退社することに驚くというよりも、「バルーンって何?」という反応のほうが多かったです。知名度の低さがかえって、バルーンを広めたい!という目標になりました。母は「何かにだまされているのでは?」と心配していたようです(笑)。というのも、まだ会社員だった時に、試しに東京で開催されていたバルーンの教室に参加してみようと思い調べたら、4日間講習の参加費が30万円だったんです! その金額を聞いて母は驚いたようです。さすがに高額だったので、1日だけの5万円コースに参加しました(笑)。
きっと当時は不安ばかりだったと思うのですが、今となっては覚えていません(笑)。独立後の事業計画を事前に思い描いて実行してきたわけではなく、最初の個展やお仕事の依頼も、知り合いの厚意や人つながりのご縁でここまできたのですから。不安を感じる暇がなかったというよりも、そのつど今の自分ができること、させてもらえること、したいことを実践するのに精いっぱいだったと思います。
今でもまだバルーンの認知度は低いと思いますが、当時はもっと低く、インターネットでの情報量も少ない時代でした。バルーン関係でお仕事をしている方を調べて、大阪と岡山へ話を伺いに行ったり、CBAの本部へ直接電話で問合せたり。法人化する時は、前橋商工会議所に諸手続きの相談に行きました。大量の情報から選別するより、こうしてじかに情報を得たほうが、時間的にも無駄がないのかもしれませんね。一番役に立っている情報源は、CBA世界公認試験を受験した時に出会った仲間です。4日間もの筆記試験を一緒に過ごしたので、連帯感のようなものが生まれまして。今でも情報交換していますし、励まし合う同志です。
相談というよりも、応援者が自分の周りには本当に多いと感謝しています。「今度はこういうことがしたい」と誰かに言うと、実現に向けて協力してくれそうな知り合いを紹介してくれたり、アイデアをくれたり。「せっかく紹介していただいたから」と躊躇せずに会いに行く、行動に移したことが、今の自分をつくったのだと思っています。
ブライダルの仕事で、小さな風船100個を入れた、2mぐらいの大きな風船の中から新郎新婦が登場するという演出をした時のことです。準備万端で待機していたのですが、その直前の余興で、新郎新婦のお友達が演奏していた楽器が触れたらしく、巨大風船を割ってしまったんです。予備の風船で仕込みをし直すまで時間はかかるし、予定時間は迫ってくるしで、もう大変でした(泣)。司会者に頼んで、飛び入りの歌で時間を稼いでもらい、何とか無事に予定どおりの演出ができましたが、3曲は歌ってもらったでしょうか。あの時は焦りました。
バルーンを見た時の皆さんの笑顔が一番の喜びです。実店舗があることで、お客さまの笑顔や贈られる方の喜びを直接感じることができますし、小さなお子さんが小銭を手にお店に来て、楽しそうに風船を選んでいる姿を見ると、お店を開いて「本当に良かった〜」と思います。それもここまで応援してくれた方々のおかげだと、つくづく思います。また、群馬県の「平成21年度1社1技術」に選定されたことも、大きな自信になりました。
まずはチャレンジ精神を持って、行動してみることです。わからないことは調べる。調べてもわからないことは知っていそうな人に聞いてみる。面識がなくても、事前に連絡して会いに行けば、話してくれる方はたくさんいますよ。もちろん、素直に意見を聞くことは大事ですが、単にアドバイスに従うのではなく判断するのは自分ということ。その判断基準は、今の自分にできるかできないか、ではなく、自分がしたいかどうか、です。それをぜひ、忘れないで挑んでください。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報