かたやま・ちかこ/埼玉県出身。専門学校を卒業後、半導体部品メーカーに就職。1999年、結婚を機に退職し、派遣社員として数社のアシスタント業務に従事する。長男の碧(あおい)君を出産後、育児と仕事の両立を考えて自宅でパン教室を開業する。
ボウル1個でつくる場合、生地の練り方が重要。子どもは粘土感覚で触りたがるが、おいしいパンにするために、そこはガマン! 焼き上がるまでの時間はおしゃべりに花が咲く
出産して落ちついたら仕事を再開しようと転職先を探していたところ、運良く自宅近所の会社に採用されたんです。ところが、息子が体を壊して2度の入院。ちなみに、2度目に入院した日はちょうど前任者との引き継ぎを終える前日でした。仕事を終えてすぐに息子のいる病院へ駆け付けたのですが、声をかけても息子は私のほうを向いてはくれず、しらけたような顔をしたままテレビを見ている。ああ、これは息子のSOSなんだなと。引き継ぎ直後に退職をするのは、社会人らしからぬ行為とかなり悩みましたが、夫と話し合い、その仕事を断念しました。それから、自宅で子育てをしながらできる仕事はないだろうかと考え始めたんです。
結婚後、いくつかの料理教室に通ったことがあり、大手料理教室でパンづくりの師範の免許も取得していました。この経験を生かせないだろうかと。大手教室で教えてもらった方法だと、パン生地をこねる台を必要としたり、設備を整えるのが大変だと感じたのですが、ある個人が開かれている教室では、ボウルひとつでできる方法を習い、それを思い出しました。生地をこねる作業はストレス解消にもなりましたし、ボウルひとつですから何しろ手軽! 自宅に人を呼んで教えるには、これくらい手軽なほうが向いている。自宅パン教室でいこうと考えが固まりました。
この日はトラ模様が特徴的で、子どもも大好きで一番人気の「ダッチブレッド」を製作。教室では一般的に人気の高いパンをつくるよう、心がけているのだそう
ターゲットも絞り込みました。ただの「自宅パン教室」では特徴がないですし、息子もいましたから、子育てママ限定で子連れOKのパン教室にしようと。自分も育児中だからよくわかるのですが、子育てママって、子連れでどこか行きたいと思ってもなかなか行けるところがないですから、ストレスがたまる。でも、誰かと育児に関する情報交換をしたいという欲求もある。女性は共感したい生き物ですから「夫が……」「姑が……」というちょっとしたグチに「わかるわ!」と言われると、ホッとできたり、肩の力が抜けたりするんですよね。そんな自分と同じ境遇のママたちが「情報交換のついでにパンづくりも習う」というような感覚で参加できる場をつくりたいと考えました。ちょうどダイニングの横に和室があったので、そこをキッズルームとして開放することもできると。
一般的にパン教室は、公共施設で開催する参加費1500〜2000円くらいの教室と、大手料理教室やセレブな雰囲気の自宅教室の参加費が7000〜8000円の2パターンに分かれているように感じました。そこで私はその中間層を狙おうと、1レッスン3500円に設定。一度、参加費4000円の自宅料理教室に行ったことがあるのですが、自分はこの層だなという実感がありましたし、セレブな教室のような設備やおもてなしは、私にはハードルが高いですから。また、ダイニングキッチンの広さを考えると、1回の生徒数を3人がマックスとした少人数制に。調理器具などを買い足したほか、先生らしく少し気合を入れて、エプロンだけは名の知れたブランドものを買いました(笑)。そんなこんなで、退職から2カ月後には開業していましたね
集客にはブログと、当時全盛だったSNS「mixi」を活用しました。横浜市内の子育てママたちのコミュニティやサークルなどを探して、足跡を付けたり、情報交換をしたり。結果、1年目の生徒さんのうち約60人はmixiで知り合った方じゃないでしょうか。その後もブログをご覧になって来てくださる方が多いですよ。当初は子育てママ限定にしていたのですが、最近は「子どもはいないんですが、参加したい」と言ってくださる方がいるので、「限定」というしばりは外しています。意外だったのは「ボウル1個でパンがつくれる」というキャッチに響く方が多いこと。パンづくりは難しく、道具がいろいろ必要だと思う人がそれだけ多いんですね。そのほかにも開業してみて勉強になったことがたくさんあります。
生徒として来てくださる方の多くは、2歳児を連れているママ。話すし、走るし、動き回るので育児も大変な頃ですが、幼稚園入園前なので、ずっと一日中ママが面倒を見ているというケースが多い。ストレス、たまりやすいと思うんです。それに子連れで外出しても、おむつ替えや授乳を気軽にできるところは、まだまだ少ないですしね。そういうママたちが息抜きできる場になっていると思うと、とっても嬉しいですね。自分の息子の成長に合わせて、今後も教室を開催する日を増やしていく予定ですが、生徒さんたちのおかげで、最新の育児グッズには詳しくなっちゃうし、共感したり、大笑いしたりして、私自身の子育ての悩みも解消させてもらっています。あの時、就職していたら……と考えると今の充実感はなかった。SOSを出してくれた息子のおかげで今があるんだなって。感謝しています。
子どもがいても、バリバリ仕事したいというタイプではなかったのですが、育児で自宅にこもっていると、話す相手が夫だけになってしまい、夫に依存している自分がいやだったんです。でも、保育園に子どもを預け、会社勤務をして……というワーク&ライフスタイルは、私たち家族には合っていないと。そこで子育てしながら自宅で、自分らしい仕事ができる仕組みを考え、その結果が自宅でのパン教室でした。なので、もとから独立を志向していたわけではありません。
2万円です。パンづくりに使うボウルやスケッパーなどの道具を買い足して2000円、材料費が3000円、エプロンが一番高額で5000円です。残りのわずか1万円が運転資金ですね(笑)。
自宅でパン教室をしたいという話をしたら、義母が2万円を援助してくれました。そのお金をありがたく使わせてもらいました。
義父と義母もそれぞれ事業をしていましたし、夫は自営業の子になるわけですから、家族の理解はありましたね。専業主婦時代の私は、しょっちゅう夫に電話する"うざい妻"だったので、夫はむしろ「何か仕事しなよ」という感じでしたし(笑)。自宅で開業することに関しても、夫の実家は多くの知人や知り合いが集まる家だったので、理解がありましたね。
なかったかな、これといって(笑)。自分ができる範囲で小さく始めましたし、自宅が仕事場なので家賃もかからないですからね。
子どもが幼かったので、セミナーなどに出席することができませんでしたから、もっぱらビジネス書が私の独立情報源でした。トレンダーズの経沢香保子さんの本はよく読み、モチベーションアップになりましたね。マーケティングに関する本もよく読みましたし、開業後、子どもが成長してきてからは、松原靖樹さんのセミナーにも参加。とっても参考になりました。
夫です。客観的な意見がほしくて、今でもいろいろ聞きますね。時には、ただ話を聞いてもらいたいだけの時もありますけれど、それも含めて相談するのはいつも夫ですね。
困ったことがあるとすぐにヘコんでしまうので、困るようなことも「困ったこと」という部類に意図的に入れないようにしているかも。あまり困ったことがありません。強いていえば、生徒さんが連れてきたお子さんに、畳の和室でおしっこをもらされちゃったこととか? 「全然大丈夫ですよ」と笑顔で言いながらも「におい取れるかな?」と不安でした。
「独立して」というのとはちょっと違うかもしれないですが、生徒さんが楽しんでくれているのがわかった時、一番うれしいですね。緊張して顔がこわばっている生徒さんでも、途中から和んで笑顔になった時、「やったー!」と心の中でガッツポーズです。
何でもそうだとは思うのですが、頭の中でどれだけ考えても、やってみないことにはどうなるかわからないんですよね。だから、まずは始めて、走りながら考えることが大切だと思います。たとえば、ブログで起業することを公言してみる。やりたい事業の必要資金を調べてみる。とにかく何かしら動きながら考えたほうがいいと思います。また、自宅開業を考えている方で特に女性の場合、セキュリティには注意されたほうがいいと思います。私はブログやWebサイトに教室の所在地は市区までしか掲載せず、申し込みのあった生徒さんに最初は駅名をお伝えして駅まで迎えに行くようにしています。自分の身を守るのは自分ですから、そこは慎重にされたほうがいいと思いますよ。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報