すとう・よしひろ/埼玉県出身。自動車部品メーカーに勤務後、産業ボイラーメーカー、産業給食のコンサルティング会社、業務用炊飯器メーカーを経て、2009年に退社。「水田環境鑑定士」の資格も持つ田んぼマニマでもある。
須藤さんが入居するインキュベーション施設「Mio新都心」。同じ志を持つ異業種の仲間がすぐ横にいるから、孤独感もなく、モチベーションアップにもつながる
その昔、勤務していた会社が倒産したんです。その話を聞いた時、「今後は勤めるより自分で事業をするほうがリスクは低い」と考え、当時の勤務先に近い将来の独立を宣言して、業務用炊飯器メーカーに転職しました。省エネにつながるものは国から助成金が出やすいでしょう。この会社では、その申請をこちらで引き受けることで商品を買っていただくなど、これまでコンサルティング営業をしてきた経験を生かせることを実感。また、前職の産業給食のコンサルティング会社では大量生産、大量廃棄が、環境に負荷を与えていることに疑問を持っていました。そのふたつが自分の中で結び付き、弁当や総菜工場など、食品業界のCO2削減をしていきたいと考えたのです。
そこで、排出権取引に関する勉強をスタート。これまで仕事上で必要となるため取得していた、省エネルギー普及指導員や厨房設備技能士などの資格も生かせると考え、それにプラスして、CO2削減エキスパート専門化ネットワークや国内クレジット制度審査員などの資格取得の勉強をすることでスキルを得ようと。これらスキルは、国内クレジット制度(国内排出削減量認証制度)における「排出削減計画書」の作成や「新規方法論」の策定支援を行うなど、CO2削減の専門家には欠かせないもの。金融業界では取得している人が多かったですが、食品業界での取得者がまだ少ないので、これが今後の自分の強みになると考えました。
最近、ポジションの違う環境ビジネスを行う仲間3人でコラボレーションを開始。互いの強みを生かして連携することで、差別化している。そんなビジネスパートナーとは起業家支援ネットワーク「NICe」で出会った
オフィスはインキュベーション施設への入居を決めていました。勤めていた時、仕事に集中したいと専用のアパートを借りていたことがあったのですが、どうしても部屋にこもりがちになってしまい、アイデアが煮詰まることが多かったんです。なので、異業種の起業家とすぐ話ができたり、相談ができるインキュベーション施設がいいなと。埼玉県内や東京都内などの施設4、5軒を見学しています。その中で、交通アクセスが良く、電話対応なども代行してもらえる「Mio新都心」を選びました。
また、このインキュベーション施設が入っているビルには、埼玉県創業・ベンチャー支援センターという起業家を応援する機関が入っていたのも好都合でした。無料相談を受けたり、セミナーに参加したり、フル活用しましたね。特に、事業計画書をチェックしてもらい、さらにブラッシュアップしてもらえるのが心強かったです。その計画書をもとに、埼玉県の制度融資「起業家育成資金」を申請。融資を受けることができました。また、起業家支援ネットワーク「NICe」にも登録。SNSで先輩起業家と意見交換をしたり、イベントなどにも参加。これまで同業界の人間しか知らなかったですから、非常に刺激になりましたし、異業種の人脈構築の場としても重宝しました。
さらに、関東ニュービジネス協議会が開催する「第3回起業家予備軍コミュニティ」に参加。ここに参加して良かったのは、起業して2、3年目の先輩起業家の方々から話を聞くことができたことですね。自分の起業後の姿はどんな感じなのかイメージしたいですから、先輩起業家の話は非常に役立ちましたし、彼らの姿が目標にもなりました。また、いくら事業計画書をビシッと書くことができても、それを実行する力がないといけないことがよくわかりましたね。
起業後は、とにかく売り上げを確保しようと、Co2削減につながる食品製造機器の販売を行ってきましたが、最近はお客さまからの要望もあり、環境マネジメントやカーボンマネジメントのサポート事業も開始。それに対応できるよう環境ビジネスに携わる仲間3人でコラボレーションすることにしました。これからは食品業界ならずともニーズのあるISO14001の認証や、ISO14001に続く環境パスポートともいわれている「エコアクション21」の認証・登録支援、カーボンオフセットの取り組み支援など、様々な角度からクライアントに提案できる体制を整えていきたいと考えています。また、これまで転勤が多かったことから、地元に貢献しようと、地元、埼玉県東松山市の環境づくりのメンバーとして手を挙げています。起業したことで、仕事のスタイルも、人とのつながりも、人生に対する考え方も、ずいぶんポジティブで自分らしくなってきたなと実感しています。
我が社の理念に「将来を担う次世代の人たちに今より良い環境を残します」というものを掲げていますが、今私たちが生きている環境は、ずっと前の世代からの借り物だと、私は考えています。だから今、私たちが自分の孫子の代に、今より良い環境を残さないといけないと。長く食品業界にいる中で廃棄される残飯を見てきて、大量生産で大量廃棄して環境負荷をかけているなんて、やっぱり間違っていると、そう思い至りました。しかし、そんな業界の中でも、本当はもっと環境負荷を少なくしたい考え、本気で取り組んでいる企業は実は多い。自分がお世話になってきた業界に対して、これまでの自分の経験や環境マネジメント、カーボンマネジメントを通じて役に立ちたい。また、そこにビジネスチャンスがあるんじゃないかなと考え、独立を決断しました。
500万円です。検査機械などの商品仕入れで250万円、法人登記の手続き費用やオフィスを借りるための初期費用、備品購入などで60万円。残りは運転資金に回しています。
500万円のうちの100万円は愛車を売却してつくりました。泣く泣く(笑)。その100万円を自己資金とし、埼玉県の創業者融資制度「起業家育成資金」を活用して400万円の融資を受けました。
家族は「好きにやれば」という感じでしたね。会社員時代、うつ病のような状態になったことがあり、当時、それに自分では気づいていなかったのですが、家族は私の不調に気づき、心配してくれていたようなんです。そんなこともあって、好きなことをするのが一番だと考えてくれたんでしょう。友人たちからは「そうなるだろうと思った!」と言われました。起業しそうな感じがするんですかね、私?(笑)
当初は「勤務時代の1.5倍の収入がないと起業は継続できない」という俗説を信じてましたし、「儲けなくちゃ!」という意識も強かったので、収入がちゃんと確保できるかという不安はやはりありました。でも、少人数でやっていますし、自分の収入が下がったっていいじゃないかと。途中から楽観的になりましたね。
セミナー、交流会、相談会と、埼玉県創業・ベンチャー支援センターからは、本当にたくさんの情報をもらっています。交流会の後に懇親会が開催されるケースがありますが、懇親会では参加者と深い話がしやすいので、人脈もできましたね。起業支援ネットワーク「NICe」でのつながりも大きかった。融資の情報はここで得られましたし。また、関東ニュービジネス協議会が開催する「第3回起業家予備軍コミュニティ」では、起業して2、3年の社長の話が聞けるのが良かったです。自分のちょっと先が見られるわけですから、非常に参考になりましたし、目標や未来がイメージできましたね。
先にも言った埼玉県創業・ベンチャー支援センターに所属している相談員です。こういう施設の相談員というのは金融系に勤めていたOBとか中小企業診断士など堅い職業の方が多いわけです。そういう方々なので、環境ビジネスという新しい分野はリスクが高いとストップがかかりました。そういう時に「じゃあ、どうすればいいでしょうか?」と何度も何度も聞いていく。そうすることで事業計画書もどんどんブラッシュアップされ、自分も相談員も納得し、埼玉県の制度融資もクリアできたのだと思います。
始めてまだ間もないですから、仕事に没頭することが多く、家族との時間が取れないことですね。それに何を見ても、聞いても仕事に置き換えて考えるクセができたのか、仕事に置き換えて言うと家族から「また〜!」なんて怒られるのも困ったことでしょうか。でも、「一番の困った」は、息子のこと。「親父が夢を追いかけるなら、俺も」と言い出して、仕事を辞めてバンド活動を始めちゃった。どうしたらいいでしょう?(笑)
勤めていたら出会えなかった、様々な考え、立場の人との出会いがあることですね。それと、会社員時代、私は自分の仕事について人に話すようなことはありませんでしたが、独立したら仕事の話ばっかり! 良くも悪くもあることでしょうが、今の自分にとっては良いことだと思っています。勤め人だった時は業界の中だけしか見ていなかったということでしょうね。起業して、初めて外の世界を知った気分です。
前出の起業家予備軍コミュニティには、20人ほどの起業家予備軍がいたのですが、そのうち起業したのは4人。ビジネスプランをビシッと決めて、カッチリ計画書を書いて、スゴイなぁという人が何人もいたんですけどね……。何かに背中を押されるというのは大事なんだなと思いました。私は資金がなくて、どうしても融資を受ける必要があったので、埼玉県創業・ベンチャー支援センターで相談に乗ってもらっていましたが、それに背中を押されたと感じますね。創業を応援してくれる機関はどの自治体にもあると思いますが、相談などは無料だったりしますから、うまく活用するべきだと思います。融資を受けるつもりがなくても、ビジネスプランを客観的に見てもらえるだけでもありがたいですから。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報