先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


岩切 準さんの写真

地域の子どもたちの成長と
学びの場を提供するNPO

NPO法人夢職人/東京都江東区
岩切 準さん(27歳)

いわきり・じゅん/東京都出身。やんちゃな思春期をリカバリーしようと、高校時代はボランティアで子ども会のジュニアリーダーを務める。大学在学中の2004年に任意団体として活動を開始。大学院修了後は就職も考えるが、某企業の内定を辞し、起業した。

独立準備のがんばりどころ

学生時代の活動がヒントになり、仲間とボランティア団体を設立

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子どもが実際に事業を行う企画「下町商人(あきんど)スクール」では、事業計画書を作成したり、融資担当者に尻をたたかれたり。リアル起業家道を体験する

実は中学時代、僕はやんちゃ坊主でして。迷惑をかけた方々への恩返しのような意味もあって、高校時代、かつて夢中で取り組んでいた「子ども会」のお兄さん的役割「ジュニアリーダー」をボランティアで行っていたんです。僕は長髪で髪を派手に染めたひねくれもの(笑)。なのに、子どもたちは自分に普通に接してくれるし、存在を認めてくれる。ハマりましたね。高校卒業後の1年間、ガテン系のバイト生活を経て大学へ。いじめ問題などに関心があったので「子どもと集団」についての研究を進めました。2年間は、自分の地域以外で行われている子どもや青少年の取り組みについて学ぼうと、様々なNPO団体や児童養護施設などの行政機関に行って活動をしていました。そして3年生になった頃、シングルマザーで看護師をする、ある女性に出会ったんです。

彼女はふたりの娘を抱えていたのですが、仕事柄、子どもが休みの土・日曜日でも仕事が入っていることが多く、子どもの休みの日に遊びに連れていってあげられないと嘆いていたんです。「だったら、僕が代わりに遊びに連れていきますよ」と河原などに遊びに連れていくようになると、子どもはもちろん、彼女があまりにも喜ぶ。その評判がママたちのネットワークのクチコミで広がり、いろんな子どもの休日に付き合うように。サービス業の活性化と並行して土・日曜日に休めない大人が増えたことで、子どもが親と一緒に過ごす時間は確実に減っている。そう思ったんです。自分は東京の下町育ちで、幼少時代は「子ども会」も盛ん。親や学校の先生だけではない地域の大人たちとの付き合いもありました。しかし現在は、そういった出会いや交流も希薄。学校や家庭ではない、第3の教育の場がなくなっているのは、きっと子どもの教育にも良くないはずだと。旧ジュニアリーダー仲間と、まずは任意団体を立ち上げました。

社会起業家をサポートする団体と出合い、ビジョンを明確化

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ボランティアスタッフは約60人が登録。その年齢や職業は様々だ。子どもたちとどう楽しもうかと、プロジェクトごとに集まって、夜な夜なミーティングを行うという

野外教育活動やスポーツ・レクリエーション活動、文化・芸術活動など、とにかく幅広い分野の体験を、学校も学年も違う子どもたちが集団で協力し合い、課題を解決していく。それを大事にして教育プログラムを企画。「楽しいイベントだった」と一過性のものにせず、人とかかわり合う力「社会性」と、自分自身を肯定的に受け止めて可能性を信じる力「自尊心」を育て、成長させることを使命に活動をしていきました。そうしてボランティアスタッフも増え、2年ほど活動したあたりです。教育プログラムの企画や現場で子どもたちをサポートしていくスキルはあるのですが、組織のマネジメントに関しては無知だったため、これ以上、活動を広げていくことはできないと限界を感じ始めたんです。同時期、自分は大学院修了という進路の岐路に立たされてもいて……。悩みました。

そんな時に学生起業家や社会起業家を応援する「ETIC.」という団体に出合い、この団体が開催する「NEC社会起業塾」に参加しました。そこで会った先輩社会起業家たちに、あわよくばマネジメント戦略でも教えてもらおうなんて思っていたのですが(笑)、先輩たちが僕に言うことといえば「キミは何がしたいのか?」。そればかり。「突っ込まれて考えさせられるの繰り返し。でも、そのおかげで、ビジョンが明確になりましたね。やはり「何のために、その仕事をするのか?」はどう活動すべきかの指針になりますし、小手先のマネジメント技術を学ぶよりもよっぽど大事だと痛感。参加者だった子どもたちや保護者の後押しもあって覚悟を固め、大学院修了後はNPO法人を起業することにしました。

法人化で意識を改革し、事業拡大や新規事業も模索

ボランティア活動時代は、「自分のできることをしよう」という考え方が強かったんですね。でも、法人化してからは「たとえ失敗に終わっても、必要とされていることをしなくては」という考えになりました。それが大きく変わった点ですね。僕自身がマネジメントできる範囲内で事業を展開するだけではなく、自分の活動モデルを別の地域にも転用していくことで、日本の子どもたちの現状を変えていきたいと思っています。今、地元でも同じ活動をしたいと、神奈川県からうちの団体にインターンで学びに来ている若者がいるのですが、こういった人をもっと増やしていきたいですね。

これまでは子どもたちの休日を中心に活動してきましたが、今、緊急性が高まっているのは放課後。学童保育施設や児童館といった集合型の施設だけでは限界があると思っています。たとえば、子どもが自立して自宅の空いた部屋を持つ家庭に、放課後だけ里親になってもらうとか。そんな新たなソリューションを生み出せないかなと模索しています。実際に現場で子どもたちや保護者と関わり合う機会が多く、リサーチデータの分析も大学や大学院で学んだので、社会のニーズの把握には困りませんしね(笑)。かつて参加者だった子どもが成長し、今ではボランティアスタッフとして私の活動に協力・参加してくれている仲間もいます。決して現状に満足することとなく、改善を重ねながら、古くて新しい地域での教育の循環を生み出していきたいと思います。

取材・文 / 石田 恵海 撮影 / 加納 拓也

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    背中を押したのは、子どもの言葉ですね。任意団体として活動はしていたものの、当時の私は大学院生。進路に対する考えにゆらいで、就職活動をしたり、企業でインターンシップを経験したり。実際、ある会社から内定ももらっていて、「やっぱり就職かな」と思ったりもしていたんです。そんな様子を見た参加者の子どもに「いつも僕たちに『自分で始めたことは、最後まで責任を持ってやりとおせ!』って言ってるくせに!」と指摘されて、本当にそのとおりだと。起業する覚悟を決めました。

  • 開業資金は?

    任意のボランティア団体としてスタートしたこの活動は、仲間3人で1万円ずつ出し合って3万円で始めました。高校時代に行っていた子ども会のジュニアリーダーや思いつく友人に手当たりしだい300人くらいに「一緒に活動しようぜ!」と手紙を書く代金に使ったので、速攻でなくなりましたけどね(笑)。その手紙から、2人が仲間になってくれました。NPO法人化した時は、200万円です。オフィスの物件取得で30万円。スタッフの人件費で120万円使いました。残りは事業を開催する施設などを借りる代金や準備金です。

  • 開業資金はどう集めた?

    任意団体として始めた際に出資した1万円は、ラーメン店で働いたバイト代の中から。法人化した時の開業資金200万円は、任意団体時代に講師を行ったり、行政機関が主催するイベントを請け負う費用などで稼いだ資金を充てています。

  • 周囲の反応は?

    大学の友人たちは「お前はクレイジーだな!」「フツーに仕事しなよ」「人生、また捨てるの!?」といったマイナスの反応ばかりでしたね。親からは特に何も言われませんでした。僕はきかん坊でしたし、「また変なこと始めたな……」程度にしか思ってなかったでしょうね。面白かったのは大学院でのこと。大学院に提出する進路に関する書類に「起業」と書いて出したら、進路指導課みたいなところに呼び出されました。「こんなことを進路の欄に書いて出してきたのは、うちの大学院創設以来、初めてだ!」って(笑)。

  • 不安だったことは?

    NPOで起業する人はおろか、そもそも起業する人が周りにいなかったので、会社を起こすためにはどうしたらいのか、全くわかりませんでした。それで、起業をサポートする「ETIC.」さんから様々なアドバイスをもらったり、本で調べたり、関係省庁で教えてもらったりしました。あとは、「これで本当にやっていけるんだろうか?」というホントに漠然とした不安。だけど、不安よりも使命感のほうが大きかった。だから始められたんだと思います。

  • 役立った情報源は?

    学生や社会起業などを支援する「ETIC.」からの情報は大きかったと思いますね。あとはかかわってきた保護者の方々や大学院での研究も情報源といえるでしょうか。保護者の皆さんからはかなりリアルなニーズを得ることができました。大学院では多種多様な子どもたちのデータを知ることができましたし、学校外で積極的に子どもに関する様々な活動を行っているNPO団体や行政機関で活動経験を積み、そこから、未来につながる生きた情報とスキルを得ることができました。

  • 相談相手は?

    一緒にこの活動を始めた仲間や、先にも話した「ETIC.」の方々ですね。先輩社会起業家との出会いは大きかったと思います。どうしたらボランティアではなく事業として成立するか、という点をよく聞いていましたよ。

  • 独立して一番困ったことは?

    個人的には、起業後に彼女にフラれたことです(笑)。事業では、固定収入を確保することや、事業を回して雇用を生み出していくことの難しさです。2009年にインフルエンザが流行した時はかなり焦りました。知り合いのNPOが大打撃を受けたことから、独自のインフルエンザ対策指針をつくったこともあり、さほど大きな問題はありませんでしたが。それでも風評被害の怖さを感じました。

  • 独立して一番良かったことは?

    自分が本当に「今、必要だ」と思えることができること。しかも、すぐ実践できる。それが起業の醍醐味ですね。また、子どもたちや、学生や社会人のボランティアスタッフが成長していく姿を長期的に見ることができるには、幸せなことだと思いますね、ホントに。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    起業に必要なのは「勇気」でも「資金」でもなく、「覚悟」だと思います。本当にやりたいことがあるのなら、まず、腹をくくることです。「何のために、なぜこれをするのか?」をしつこく答えが出るまで考えることが大切だと思います。それが明確になると迷わないし、迷わなければ覚悟が自然と決まります。起業すると、安定を求めて行動するよりも、変化に強くなりますし、成長機会も増えます。だから、起業を志す若い世代が増えてほしい。変化の激しい時代なので、世の中を変えようとする起業は、時代にも合っているんじゃないかなと。頑張ってください!

設立
2008年4月

会員数
180人

年間総収入
620万円(2009年10月実績)

アクセス
http://yumeshokunin.org


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