きむら・ともあき/東京都出身。大学卒業後、食品メーカーに勤めた後、外食・介護事業などを展開するワタミで店舗運営を経験し、CSR・広報担当として7年勤務。「TSUTAYA」などを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブでも広報を経験。
地元、東京・経堂にあるパクチー料理専門店「パクチーハウス東京」を借り、授産品を身近に楽しむ宴も開催。店のオーナー、佐谷さんと次回イベントについて打ち合わせ
ワタミに勤務していた時、障害のある方々を招く食事会を定期的に開催していたんです。主催は、事故で身体障害者になった先輩。今、僕の事業をボランティアで手伝ってくれている人なのですが、その彼との出会いが大きいと思いますね。食事会以外にも、株主総会で授産品を販売するバザーを開いたり、店の一角で授産品を販売したり……。当時、80施設くらいとつながりがありました。だから、障害者福祉施設は僕にとって身近だったのですが、世の中ではまだまだ知られていないし、施設自体、素晴らしい商品をつくっているのに、なかなかビジネスとして成立していないところが多い。僕が営業や広報活動を代行することで、応援できないかと思ったのです。
まずは、様々な障害者福祉施設を回って「何に困っていますか?」とヒヤリングすることから始めました。そうすると、だいたい同じ回答。「もっと売りたいけれど、どうすればいいかわからない」「販売に使う時間がない」という内容がほとんど。食品に関しては、多くの施設が保存料を使用していないので、賞味期限が短く、商機が短いため売れ残りを恐れ、生産をセーブしている。それを聞いて、裏返せば強みになる、と。販売価格は固定ですが、生育状況で届ける野菜の内容が変動する有機野菜のBOX販売をワタミでやっていました。それと同様の売り方が授産品の菓子でもできるのではないかと。野菜BOXは鮮度が良くおいしいため、人気だったんです。その一方で、世田谷起業創業支援施設「せたがやかやっく」での交流会やセミナー、世田谷ものづくり学校や東京都中小企業振興公社での起業セミナーを受講するなどして、起業の基本から学んでいきました。
様々な障害者福祉施設のお菓子を詰め合わせた「スイーツBOX」は同社オリジナルセレクト。ネットショップとイベントで購入できる。贈答品としても人気だ
障害者福祉施設の授産品(障害のある人がつくった製品)には、お菓子など食品のほか、木工品やハンドメイド雑貨、アート作品などもあるのですが、僕は大学でも食を学んでいましたし、飲食業界に長くいたこともあり「おいしい」の判断のほうが自信があります。が、「かわいい」とか「芸術的」といった判断にはまったく自信がありません。そこで、食に特化した代行販売をやっていこうと。また、地産地消ではないですが、地元の障害者に貢献するため、東京・世田谷区内にある施設の商品にも注力。商品力はあるけれど、営業力や広報力の足りない施設の商品をバックアップすることに。そして、食べることで、社会貢献ができることをうたおうと「美味しい社会貢献」というキャッチフレーズをつくり、イベント開催とネットショップを柱としてスタート。お客さまが来社する事業ではないので、風呂なしアパートの一室をオフィスにしました。
イベントはまず授産品などの存在を知ってもらう場。授産品にはお菓子だけでなく、野菜や肉、ワインや焼酎まであります。楽しく飲んで、おいしく食べながら、そういった商品があることを知ってもらいたいと。「たまたまイベントに参加してみたら、授産品を使っていた」と、後から知ってもいいと思っています。しかし、必然的なのか、不思議と社会や地域を変えたいと思う人が集う場になってきていますね。そこから僕の事業に賛同してくれる人が増えてくれたらいいですし、参加者同士が新たなつながりができたらとも。『国民生活白書』によると、何かしら社会に貢献したいと考える人は成人の約70%いるのだそうです。でも、そのきっかけがないという人も多い。そういったニーズに応えていく感じでもありますね。開催する場所も地域の活性化を考え、地元、東京・経堂が中心で。社会貢献へのこだわりがあるお店で開催しています。
ネットショップでは、お中元やお歳暮に活用しやすいスイーツのギフト商品1アイテムを個数限定でテスト販売。そういった告知で「Twitter」が非常に使えましたね。今でも入荷やイベント開催告知などでよく活用していますが、授産品を「Twitter」で売ってるのは、僕だけじゃないかな(笑)。そのテスト販売の様子を見て、アイテム数を増やして、正式オープンというかたちに変えていきました。ただ、そのネットショップも、ASPは使いましたが、すべて自作しました。はっきり言ってつくりなど全然いいとは思っていないんです。でも、たとえばWeb制作会社に制作を依頼するとしても、自分たちの活動に関心を持ってくれている人など思いのある人にお願いしたい。だから、イベント開催で、そんな同志との出会いを求めています。
本当の起業はこれからだと思いますね。社名にも思いを込めたのですが、社会や地域の力をもっと活用できるようにしたいです。次の目標は、自分たちの授産品などを使ったイベントが定期的に開け、商品を手に取って食べてもらえる場づくり。そして地域の方々や、思いのある方々がイベント開催などに利用できる場を持つことです。イベントスペース兼飲食店といったところでしょうか。みんなに愛される店にしたいので、私募債を募ってリターンは授産品のスイーツで返すような。そんなことができたらと考えています。でも、その前に、冒頭でお話しした僕の事業をボランティアで手伝ってくれている障害のある先輩をまずは雇用したいですね。10年前、ワタミ時代、障害者の方々を招いた食事会開催のお礼で施設からいただいたマドレーヌをもらったのですが、「何だ、これは!?」と驚くほどおいしかったんです。思えば、この時のショックがこの事業を始めるきっかけになっているんですよね。そのマドレーヌを今、僕が販売しているってのも、これまた、おいしい縁でしょ!
あるきっかけで精密な健康診断を受けたところ「肺に影がある」と。医者から「確率は低いがガンだったら、半年後には手遅れになる可能性もある」と定期的にCTを撮るよう薦められました。結果、無事ではあったのですが、この時に人生を見直しました。命が終わるのはあっという間。だったら改めて、もっと顔の見える仕事がしたいと。勤務先でCSRや社会貢献に関する部署の担当をさせてもらったのも、重度身体障害者の先輩や障害のある方々との交流から。ですので、まずは障害者福祉施設の「困った」を解決したいと起業を選びました。また、ワタミの渡邉美樹さんやCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の増田宗昭さんという「ベンチャーの雄」とも言える方と直接話ができる距離で仕事をさせていただいていた影響もあると思います。
500万円です。丸々資本金に充て、そのうち100万円弱を開業資金に。会社設立手続きの費用やパソコン代、オフィスの、デスクやイスなどの備品、商品の撮影機材などに使いました。残りは、今後の構想のための投資資金と運転資金です。
500万円のうちの300万円は自己資金で、貯蓄と株の売却で得た資金を充てています。残りの200万円は協力者ふたりからの出資。それぞれ100万円ずつもらっています。
妻には「本気でやるの?」と聞かれたので、「もう、やることに決まったから」と答えました(笑)。びっくりされましたが、反対はされませんでしたね。母親には「食っていけるの?」と心配され、父親からは「手伝えることがあれば何でもやるから」と。心強かったです。出資者は会社員時代の先輩と後輩です。こんなことをしたいと話したら、ボランティアで手伝ってくれる仲間もいますので、けっこう応援されているほうだと思います。
うーん……。特にないですね。開業資金のほかに、ある程度の生活費は用意していましたし。それに、ワタミ時代、カンボジアでの教育支援に関わり、現地の貧困の状況を見たりしていますが、彼らは明日のごはんや、安眠を心配するような日常。そういった生活と比べたら、自分は恵まれた環境で生きていると思いますし、もしも事業に失敗しても、仕事を選ばなかったら会社員に戻ることもできる。だから、不安はありませんでした。
相談に乗ってもらったり、セミナーを受けた世田谷創業支援施設「せたがやかやっく」です。ここで同じ起業を考えたり、起業したばかりの仲間に出会えたことも大きかった。あとは「Twitter」。ここでつぶやくことで、フォローしてくれる人から多くの情報をもらいましたし、準備段階から広報もできました。
世田谷創業支援施設「せたがやかやっく」の責任者でもあり、世田谷ものづくり学校校長の松村拓也さん。あとは地元、東京・経堂で25年間、「鳥へい」という飲食店を経営する長谷川一平さんです。いろんな人を紹介してもらっていますが、逆にこちらも、お手伝いをしたりといい関係を築いています。
障害者福祉施設の商品の製造は非常にていねいで、だからこそおいしくて魅力的なものが多いのですが、一つ一つの規模が小さく、急に製造ができなくなったり、急な発注には対応できないということも……。想定していたことですが、やはりそうかと。何とか解決したい課題のひとつでもありますね。また、試食してみたら、あまりおいしくなく、販売を見送った商品も正直あります。そういった施設に味の指導をさせていただけるくらいの販売力をつけなければと。
地元、世田谷に密着した活動を心がけているのですが、それでも会社員時代には出会えなかったタイプの人にたくさん出会うことができるということですね。人脈の幅が広がりました。
考えるだけでは、成功するのか失敗するのかもわからないもの。動いてみることが大事だと思います。体を動かすということだけでなく、たとえば、僕がよく使っている「Twitter」。ここで自分がやりたいことに関して、つぶやいてみる。それでどれだけの人が賛同してくれるか知るだけでも価値があるはずです。動けば、自分がやりたいことができることなのかどうかもわかりますから、まず動く。これ、大事です!
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報