うえむら・あや/兵庫県出身。人見知りのはずが、居酒屋のバイト経験を機に、飲食業の楽しさに魅せられる。大学卒業後、服飾メーカーに4年勤務するが、結婚後に再び飲食店でバイト。離婚後、オーナーバーテンドレスで独立。趣味は料理と歌。
ウイスキー版ソムリエといわれる「ウイスキーエキスパート」の資格を4年前に取得。お酒好きのための「梅酒とウォツカのブレンド」などのオリジナルもある
大学1年の時、友人から居酒屋のバイトに誘われたんですよ。自分は愛嬌もないし、人見知りするし、絶対ムリだと思いました。でも、「人手が足りないから」と頼み込まれて、しぶしぶ引き受けることに。ところが、大好きになってしまいました(笑)。何が楽しいって、お客さんの反応がダイレクトじゃないですか。満足して、喜んでくれる。私が調理したわけでもないのに「おいしかった」「ごちそうさま」と言われるし(笑)。何か良くなければ表情でわかるし、二度と来てはもらえない。毎日毎日が真剣勝負、それが楽しくて。バイトを始めて1週間後には、もっと働きたいと時間を増やしてもらい、そのまま大学卒業まで続けました。卒業後も本当は飲食の世界へ進みたかったのですが、親の希望でお堅い会社に就職(笑)。寿退社した時には、「これでまた飲食店でバイトができる!」と、朝から喫茶店、夜は居酒屋でバイトのはしごをするほどでした。
離婚後、なかなか働き口が見つからず、喫茶店、カレー店、バーの3候補に絞り独立の検討を始めました。喫茶店は朝から夜まで機敏な動きが要求される。カレー店は自分が好きなお店の味を超えられない。バーはどの店でも品ぞろえに大差はないものの、居酒屋時代「あんたにいつも癒される」とおじさん受けが良かったので(笑)、ある意味、自分のキャラクターはひとつの売りにできるのではないかと。本当にやりたいことは何か、何ができて、何ができないか、向き不向きは何かを真剣に考え、バーを開業することを決めたのです。
店にはアコースティックギターが2本あり、音楽好きな客も自由に演奏を楽しめる。開業前から練習をし、レパートリーを増やしてきた上村さん。大好きなデコを施したピックにも注目
バイト経験が豊富とはいえ、お酒の専門知識は足りないし、経営面はド素人。これはしっかり勉強せねばと、専門書や独立ノウハウ本を読みつつ、毎晩いろんなバーに通ってみっちり観察。少しずつ自分のイメージをかたちにしていきました。そしてまず、「仕事帰りに気軽に立ち寄れるような、居心地のいい空間を提供する」というコンセプトを決定。客層は30?50代の働き盛りの会社員と定め、バイト・会社員・主婦だった自分の経験から、どのくらいの価格帯なら気軽に来てもらえるか、その客単価でいかに満足度を上げられるかを徹底的に熟考しました。そして、オフィス街の元和食店で広さ6坪というこの物件に出合い、オープンする日を決めたのです。
ところが、内装工事が遅れ、オープン期日の前夜になっても未完成。「もう明日なのに、どうしよう!」と、夜ひとりで開店準備をしていたのですが、突然、胃けいれんを起こしてしまったんです。痛くて動けないし、準備も終わらない。泣きそうになって友だちに電話したら、「完璧にやろうと思うからや。明日オープンしても、『まだ完成していないんです』と、正直にお客さんに言えばいいだけのこと」と。その言葉にすごく救われて、胃けいれんが治まった。飲食業が好きで好きで、自分の中には理想の完成図ができ上がっていたんですね。そのとおりにしなくちゃいけないと、必要以上に自分自身にプレッシャーをかけていたのでしょう。「お客さんがなごめるバーをつくるのに、自分がリラックスしていないでどうする!」と、いい気づきになりましたね。
オープン時に新聞折り込み広告を出しましたが、効果は来店客1名のみ(笑)。それよりも、クチコミでお客さんが広めてくれました。自分がやりたいこと、お客さんが求めていることをミックスしたお店になってきているかなとは思いますが、まだまだ勉強することはたくさんあります。開業して3年目には猛勉強して、ウイスキーエキスパートの資格認定試験に合格。もちろんずっと勉強してきましたが、「プロなら地球上のウイスキーすべての知識を要求される仕事だ」と思っていましたし、プロのバーテンドレスとしての自信も欲しかったんです。合格した夜は嬉しくて、お客さんにシャンパンを振る舞いました(笑)。
半年前から、「将来バーを開きたい」という女性スタッフをバイトで雇っています。彼女を見ていると、昔の自分もこうだったなぁと。バイト時代は「なぜ、できないの?」と後輩に腹を立てたこともありますが、今はまったく。自分が経験してきたことだから、何とも温かな気持ちになって、自分はどう解決したか、どう説明すれば理解してもらえるかと考えながら接しています。そんな優しくなった自分自身が新鮮でもありますね(笑)。私の経験を全部吸収してもらって、ぜひ夢をかなえてほしい。立ち仕事だし、昼夜逆転で体がしんどい時もあります。でも、女性ならではのおもてなしの心や気配りは、やはり私たちだけの武器ですからね。そんなバーテンドレスの仲間が増えていったら嬉しいです。
離婚した時に、「これで24時間、自分が好きなことを思いっきりできる!」と思ったんです。飲食店で働くことが大好きだったので、好きな夜の街で好きな歌を歌いながら働きたいと思いました。ところが、クラブシンガーも、カラオケ付きのバーも求人募集に落ちて……。バイト経験も豊富だったし、お客さんからの評判も良かったのに、これは年齢的な問題かなと(笑)。だったら自分で飲食店を開業するしかないと決意しました。
300万円です。厨房などの備品付きリース物件の礼金に100万円、内装工事に100万円、備品や酒などの仕入れ、契約後の家賃などに100万円です。
貯蓄と、一部は母からの借金です。「将来、財産を遺してくれるつもりなら、その分を今、一世一代の勝負に出たいから貸してほしい!」と頼みました。
大反対されました(笑)。母も友人たちも大反対。離婚したばかりでしたし、これでもし失敗したらさらに落ち込むのではと、みんな私のことを心配してくれたのだとは思います。ただ、自分ができること、できないこと、向いていることをきちんと自己分析していたし、何の根拠もない自信だけはあったので(笑)、反対にはめげませんでした。
バイトとはいえ、プロ意識を持ってずっと仕事をしてきたつもりです。そんな妙な自信はありました。でも、バイトと経営者はまったく違うことは自覚していましたから、いろいろ必死に勉強しました。「個人事業主って何? 確定申告って何? 保険もいるの?」というレベルでしたから(笑)。
お酒関連の専門書はもちろん、ビジネス書、飲食店開業のノウハウ本など、あらゆる本を読みました。毎日バー巡りもして、バーテンダーの動き、店の動線や内装、価格帯・メニュー構成などを細かくチェックしては、こっそりメモ。開業準備中にも、内装業者さんから紹介してもらった酒屋さんにいろいろ教わりました。業者向けの試飲展示会にも招待してもらい、そこで100社以上のお酒を飲み比べしてはやはりメモ。最後はべろべろになりましたが(笑)。
周囲が大反対でしたので、相談相手がほとんどいませんでした。唯一、なじみのお店のバーテンダーに相談しましたが、彼にすら反対されました(笑)。
1年間は無休と決めて頑張っていたのですが、最初の年末に、季節性インフルエンザにかかってしまいました。ひとりで経営していますから、仕方なく1週間臨時休業にしたんです。ちょうど12月の忘年会の季節で、飲食業ならかき入れ時。そんな時期でしたから、お客さんが「どうしたんだ。死んじゃったんじゃないか」と心配してくれて(笑)。それ以来、自分の体力の限界を知ったので、週に1日は休むことにしましたし、体調管理をしっかりしています。
やはりお客さんの満足の笑顔ですね。転勤で大阪から離れたお客さんが、出張の貴重な時間を割いて寄ってくださった時にも感激しました。最近の嬉しい大事件は、この店で出会ったお客さん同士がカップルになって、来年に結婚することが決まったことです! 自分がたまたま立っているこの空間で、人の人生の大変革が起きたのですから光栄です。
独立する前に、自分ができること、できないこと、好きなこと、向き不向きをしっかり自己分析することです。そしてスタートしたら、そこからが本番。専門知識や最新情報を習得し続けて、よりお客さんに喜ばれるサービスを提供できるよう、継続的な努力を欠かさないこと。業種に関係なく、「自分がお客さんの立場だったら何が嬉しいか」を常に意識することが大切だと思います。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報