いとう・みつる/青森県出身。仕事の出張先で中国整体を受け、感動。勤務先を退職し、専門学校へ。卒業後、サロンに勤める。帰郷後に交通事故に遭い、後遺症に悩むも3年後に起業。趣味は料理。座右の銘は“ヤジ馬根性“(興味を持ったことはやる)。
サロンの本棚には、専門書から一般向けの腰痛ガイ ドブック、マクロビオティックの料理本までズラリ。 顧客へも貸し出しして惜しみなく情報を提供している
会社員時代、東京に出張した際、中国整体を受けてすごく体調が良くなって、自分でも学んでみたいと思ったのが27歳の時。ただ、当時は地元の青森でお付き合いしていた男性がいたので、「上京して勉強するなんて無理よね」とすぐ忘れたんです。その直後に、彼とは破局。まるでそれを察したかのように、驚くほど同時期にフィリピンに住む友人から5年ぶりにハガキが。それでGWに会いに行きました。後から思えば、飛行機嫌い・恐怖心の塊のような私が思い切ってひとりでフィリピンに行ったことも、大きなきっかけになったのです。そこで出会った同世代の人たちが、将来の目標に向かって進んでいる姿に影響を受け、「自分は中国整体やりたいんだよ」と言ったら、「やればいいじゃない」と。
それで本気で将来を考えるようになり、「今、この会社にいるのは楽しいけれど、10年後に同じ仕事をしていられるか……。無理だなぁ」と。その年の年末には「1年半後に退職します」と上司に伝えました。1年半あれば東京での生活費と学費は貯められる、会社も引き継ぎ準備ができる。何より、私自身が後には引けないように宣言したわけです(笑)。そして30歳で上京し、中国整体の専門学校に入学。ところが卒業間近に父のがんが発覚し、しばらく帰省して父をお客さま第1号として施術することに。その時に、両親が施術用の枕とベッドを買ってくれました。帰省中に父の病状を考え学んだのが、マクロビオティックと自然療法。その後また上京し、マクロビオティックと自然療法の勉強もしながら、都内のリラクゼーションサロンに勤務しました。
青森県内で初となるEFTと中国整体(推拿)を自宅 一室のサロンで提供。女性専用の完全予約制で1日3 名限定。顧客は想定どおり仕事を持つ30代以上が多い
専門学校入学前は、「卒業したらスムーズに独立できるだろう」なんて思っていましたが、錯覚でした(笑)。技術力を高めるためにサロンに勤めたものの、2年たっても独立の自信は付かず、周囲の人たちと自分を比べては「ダメダメ」と思い込んでしまう始末。ちょうどその頃、経営や起業に関するセミナーに興味を持つようになり、トレンダーズ株式会社の「女性起業塾」の18期生として入塾。自分がいずれ独立するためというより、起業家ってどんな人たちだろうと興味を持ったんです。塾は楽しかったですし、経営や起業の基礎を学ぶことで、広告ひとつ見ても視点が変わりましたね。何より、そこでの人との出会いやつながりが今も大きな財産になっています。
起業塾が終了して2カ月後、父の具合が悪化し、青森へのUターンを決意。そして、父が亡くなり、後片付けが一段落したのを機に青森で再就職しました。父の死によって人の体に触れるのが怖かったのと、起業する自信が持てないのは営業経験がないから、と考えた結果です。ひととおりの仕事を覚えた頃、車で営業先に向かう途中、赤信号で停止している所へ大型トラックが追突……。その時は外傷もなく、自分でも大丈夫と思ったのですが、心身ともに後遺症がひどかったのです。こんな体や心では整体などとてもできない、もう無理……。今まで何のためにやってきたのか、すべては無駄だったと落ち込む日々でした。
事故から1年半後、かつての常連さんから「また整体をしてもらえませんか?」と声をかけてもらうようになり、少しずつ人の体に触れ始めました。そして2008年の春、以前から気になっていたEFT(エモーショナル・フリーダム・テクニック=感情解放テクニック)のセッションを受けてみたのです。それまで、環境や周囲など外に問題があると思っていたのが、実はすべては内側の問題で、自分自身の思考や感情、物事の捉え方が問題を複雑にしていたことに気付きました。これまでを振り返り、体験は違っていても、同じように苦しい思いを抱いて毎日を過ごしている女性は案外多いのではないか。青森にはEFTのサロンもないので、推拿に加えれば強みにもなる。そう考え、自宅で開業する決意をしました。
推拿やEFTって、知らない人からすれば怪しいですよね? 資金はなかったので、自作したチラシを従姉に見せたらやっぱり「怪しい」と一言。一瞬落ち込みましたが、かえって怪しいはひっかかりとして強みになると(笑)。配布場所は、知り合いのカフェ、喫茶店、自然食品屋、薬局、美容院に協力してもらいました。Webサイトも自作し、興味を持った人が私に会ってみたいと思えるよう詳細なプロフィールを記載し、ブログもほぼ毎日更新しています。その成果が表れたのは開業1カ月後。徐々に口コミでも広まり、お客さまも少しずつ増えています。一度サロンにいらしたら、普段の生活の中でも簡単にできる事を伝えて、ひとりでも多くの方に喜んでいただけるサービスを心掛けています。現在、操体法を通して、テクニックとその心を勉強中で、施術者として技術や心をさらに磨きたい。こんなに楽しいならもっと早く独立すれば良かったですよ(笑)。でも、悩んだり、事故に遭ったり、後遺症を乗り越えた私だからできることがある。今は素直にそう思えます。
9年4カ月も勤務した会社を退職してまで中国整体の専門学校を卒業したのに、「自分には無理」とずっと独立しないまま約8年。その間、交通事故に遭い、2年以上後遺症に悩み、整体を仕事にするのは難しいとあきらめかけていたんです。「こんな状態でも何かしら働かないと」と思っていた頃に、元の会社の同僚に再会し「そういえば、10年後に同じ仕事をしていられないからって会社を辞めたんだよね」って言われて、思い出したのです。事務職に戻るなら会社を辞めた意味はない。独立する、独立しないで揺れ続けてきたこと、交通事故、その後遺症、FETで気持ちがラクになったこと。そんな自分の経験を生かしたサービスができるんじゃないか。そう思い、独立を決意しました。
17万円です。タオルや着替え類で4万円、電話回線で1万円、キャンドルやライト、CDなどの小物類で2万円、Webサイトは自分で作成して、半年間使用料込みのサーバー代が約10万円。ベッドや枕は、以前に両親がプレゼントしてくれたものを使用しています。
貯蓄を充てました。
母は、「何でもいいからやればいい」と言ってくれましたし、常連さんは「あなたなら大丈夫よ」と背中を押してくれました。友人は、「体を大事にしながら頑張れ〜」と言ってくれた人が多かったですが、中には、「失敗したらどうするの?」と心配してくれた友人もいました。
お客さまが本当に来てくれるのか心配でしたが、不安というよりも期待のほうが強かったです。Webサイトを立ち上げた時点で、手持ちの資金はゼロ。もう後には引けず、前に進むしかない状況でしたから。これまでも資金面でいつも助けてくれたのは姉なんです。まだ返していない分もあるのに、「足りなかったら貸すよ」と言ってくれて。その言葉にほっとしたと共に、頑張らなくちゃという原動力にもなりました。少し前までは、自分が取得した「中国推拿整体師」が国家資格ではなく民間資格であることに不安を感じていましたが、関係ないんですよね。お客さまにとってみれば「良くなった」が一番で、どの資格かは関係ない。そう思うようになってから、不安がなくなりました。
起業のためというより起業家に興味があり、東京在住の頃に「女性起業塾」を3カ月受講しました。それ以来、ビジネス本を読むことが習慣となり、自然と情報収集はできていたと思います。ほかには、女性起業家のブログも愛読。また、仙台のEFT&操体法の講習会で知り合った方々からのナマの情報や自分の体験も役立ちました。評判のいいサロンはなぜ繁盛しているのか、ポリシーがあると感じられる東京や仙台のサロン数軒に偵察にも行きました。「青森で独立を考えています」と正直に話すと、いろいろ教えてくれました。今もいい関係です。
すでに起業している知人や友人です。相談というよりも、意見を聞くという感じです。
困ったというより、まいったのはチラシを設置してからの1カ月間ですね。その間、新規のお客さまはたったの2名。正直、これからどうしようとへこみました。が、「この孤独を徹底的に楽しもう!」とも思ったんです。反応がないのであれば、まだ違う手段があるはずだと、自分自身に言い聞かせていました。そうしたら、1カ月後に突然予約が増え始めたのです。チラシやサイトは反応が出るまでタイムラグがあるんですね(笑)。
こんなに楽しいなら、もっと早く独立しておけば良かったと思っています(笑)。あるお客さまから「サロンを立ち上げてくれたことに感謝です。自分を含め、人を喜ばせられる人になりたいと思いました」とメールをいただいたんです。ひとりからでもこういう言葉をいただけるなら、もう私、どんなことがあっても頑張れると思えました。人さまの人生の一部分に触れさせてもらえる、喜んでいただける、しかも対価までいただけるなんて、最高に幸せな仕事だなと思います。
私も専門学校入学当時に勘違いしていましたが、手に職をつけたからといって、それだけで起業できるわけではありません。また、お店を始めたからといって、お客さまが来るわけではありません。お客さまが来ないのは、景気が悪いせいなどではなく、サービスを提供しているこちらに問題がある。常に「自分軸」で物事を捕らえることが重要だと思います。本当に欲しいと思ってもらえるサービスなのか。ターゲットは合っているか。そのターゲットに向けた広報をしているか。的外れな努力をしていないか。様々な方向から自身のサービスを眺めて、徹底的に自分のウリを考えて、的を絞ったPRをすることをお勧めします。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報