かとり・ちさと/香川県出身。高校卒業後、エアロビクスの指導などを行うスポーツインストラクターに。1995年以降、競技エアロビクスの選手として数々の賞を獲得。選手引退後、財界・著名人のパーソナルトレーナーとして活動し、2009年2月、スポーティオを開業。
トレーニングの前にはストレッチを入念に行い、お客様ごとのメニューに沿ってトレーナーが付きっきりで指導。経営者のお客様が多く、健康管理や体づくりに関しても非常に熱心
高校時代はバレーボール部に所属していました。卒業後に就職したのは、地元、香川県のスポーツジムで、それ以来ずっとスポーツ漬け。どうも、じっとしていられない性格のようで(笑)。就職先のスポーツジムでは、当初、水泳の指導員をやっていました。しかし、朝から晩まで、毎日プールにつかったままでいることは想像以上に過酷。肌は荒れ放題ですし、のども痛めますし、このままではいけないと。それで、陸に上がらせてほしいとお願いし、エアロビクスを中心としたスポーツインストラクターに転じたのです。
その後、上京するわけですが、それが20歳になる少し前。地元でスポーツインストラクターを続けていてもいまひとつ燃えない。競争が激しい東京で勝負してみたいと考えてのことです。そして、当時業界で有名だった憧れのスポーツジムのオーディションを受けて、無事合格。ところが、その経営母体だった会社が、なんと入社3カ月後に倒産してしまって……。短期間ではありましたが、レベルの高いスポーツジムの厳しいオーディションに合格して仕事をしていたという経歴が、その後の活動に生きています。それ以降はフリーランスのインストラクターとして、様々なスポーツジムと契約しながら仕事を続けました。
現在、出産を控えている香取さんもトレーニングに付き添う。常に現場のことを目で見て肌で感じておきたいからだが、直接指導に当たれなくても、安心して任せられるスタッフがいることが心強い
フリーランスのスポーツインストラクターを続けながら取り組んだのが、エアロビクスの各種大会への出場です。最初はインストラクター仲間に誘われてのことだったので、躍起になって賞を取ろうとしたわけではなかったんです。でも結果は、なんと最下位。それからですね、メラメラと燃えたのは(笑)。2001年には「アフラック・カップ」のトリオ部門で準優勝。「ワールドスポーツ・エアロビック・チャンピオンシップ」のトリオ部門では7位入賞。2003年は、「スズキ・ジャパンカップ」のグループ部門で優勝を果たしました。そしてその翌年に競技選手を引退して、結婚したんです。
結婚後は、再びスポーツジムに就職しました。そこは著名人や財界人など、富裕層と呼ばれる方たちを対象に、パーソナルトレーニングを提供する会社です。お客様一人ひとりに向き合って、体の様子を確認しながら行う指導システムは、非常に勉強になりました。そんなある時、会社から、管理職になって経営や後輩の指導に当たってほしいという打診が。ありがたい要請ではありますが、管理職になると現場仕事から離れなければなりません。ずっと現場で仕事を続けたいと考えていた私にとって、会社からの要請が独立開業への決意につながっていきました。
独立する際に決めたことは、やはり、一人ひとりのお客様に向き合って、パーソナルトレーニングを行うということ。過去18年間の経験で、やっていけるという自信はありました。独立前には、これだけはやっておきたいと思っていたことを1年かけて実行しました。それは、スポーツインストラクターとしての各種資格の取得です。そして、健康運動指導士、NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー)、FTPマットピラティス、J-YOGA認定インストラクターなどの資格を取得。スポーツインストラクターに必須の資格はないのですが、やはり、独立して事業として展開するからには、これらの資格を保持していたほうが信頼が高まると判断してのことです。
また事業パートナーとして、エアロビクスの競技選手時代からの仲間であり親友でもある平綿香を迎え入れました。平綿と共に企画して考え抜いたのは、スポーティオでお客様に提供すべき“Five Pillars Exercise”という5つの柱です。それは、有酸素運動、トレーニング、ピラティス、ヨガ、ストレッチの5つ。これらを効果的に取り入れることで、お客様の求める体づくり、健康維持やダイエットのためのトレーニングなどを提供しようという、いわば経営方針ですね。開業の準備を進めていた時、かつてのお客様から久しぶりにご連絡をいただきました。ご連絡くださったのは、広告やホームページ制作を行う会社を経営している株式会社ラグレイドの社長・斉藤由嘉子さん。開業時の出費をできるだけ抑えられるようにと、スポーティオのホームページやパンレットを格安でつくってくださいました。また、経営の相談にも乗っていただいています。現在は主に、お客様のご自宅にお伺いするスタイルでレッスンを提供しています。近々の課題は、能力の高いトレーナーを確保すること。“Five Pillars Exercise”を実践するために、トレーナーとしてトータルな対応ができる人ってとても少ないのです。なので、時間をつくって様々なスポーツジムに見学に行くなど、優秀な人材を求めて動き回っています。
開業前に勤めていた会社で、トレーナーと管理職を兼ねていたのですが、ある時、管理職に徹してほしいという打診が。私自身、たとえ管理職になっても、いつか社長になっても、スポーツトレーナーは現場から離れたところにいてはいけないと考えていました。それならば辞めて、独立しようと決意したんですね。ですから、60歳を過ぎても、70歳を過ぎても、ずっと現場に張り付いてやっていくつもりです。また、スポーツインストラクターとしてやってきた18年間の経験が、独立への自信につながっていることも確かですね。それは、知識やスキルの面だけでなく、私自身が“まあるくなった”こと。若い頃は、一生懸命なだけに、どうしてもギスギスしてしまったり、トゲトゲしくなってしまったり。様々な経験は、人間自体を丸くしてくれるんですね。
合計100万円ほどです。そのほとんどを、各種資格取得のために使いました。
すべて、それまでに貯蓄していた自己資金です。
夫は、「やりたいことは、やればいいよ、応援するから!」と。少し心配していたのは姉ですね。妹である私のことを、甘えん坊でわがままで、やりたい放題……のような、子どもの頃からのイメージが残っているようで。老婆心とでもいうのでしょうか(笑)。でも、その心配もありがたかったです。
不安はなかったですね。周りの人が相談に乗ってくださるし、自分からも積極的に相談していましたので。常に「ひとりでやっているんじゃない。応援してくれている人がたくさんいる」と思っていました。なので、開業を決めてから立ち上げまで、安心して取り組めました。
一番ありがたかったのは、会社員時代からのお客様によるアドバイスですね。というのも、経営者のお客様が多かったので、私が独立を予定しているということでいろいろな助言をしてくださいました。たとえば、何もかもひとりでやろうとすると見られていたようで、「経営は、ひとりよがりでは続けられない」と。そもそも私は、「あれもこれも自分でやってしまえ」「自分でできる」と考えてしまうほうなので、その一言には今も感謝しています。インターネットを使って調べたのは、同業者が、どんなスタイルで、どれくらいの料金体系で運営しているかということですね。
いろいろな面で支援していただいて、業務提携もしていただいている株式会社ラグレイドの斉藤由嘉子社長。それに、スタッフであり、事業パートナーでもある平綿ですね。平綿はエアロビクスの競技に出ていた頃から、泣き笑いを共にしたパートナーであり親友です。お互いに気心が知れているんですよね。どんなことも遠慮せず、思ったことや感じたことを素直に言い合うようにしています。
やはり、良いトレーナーをどう探し出すかということです。トレーナーとしての経験や技術は当然ですが、コミュニケーション能力にたけているということも必須。ですから、30代の後半以降、40代、50代と、年を重ねている方がいいですね。若いほうがいいという考えはまるでなく、ある程度年齢がいっていて、様々なお客様に接し、経験豊富なトレーナーを常に探している状態です。
お客様が喜んでくださる姿を見られる時が一番です。当然ですが、すべてのお客様に責任を持って接していますし、「スポーティオを選んで良かった」と思ってほしいじゃないですか。トレーニングを終えた後、お客様の笑顔を見ると、私自身もホッとします。
独立・開業は思っているよりも大変ではないということですね。一つひとつ、焦らず、ていねいにやっていけば、できないことなんてありません。また、いろいろな人の意見や助言を大切にすることも忘れてはならないこと。自分ひとりの視点の範囲には限りがありますが、いろいろな人の視点を有効活用することで、その範囲を格段に広げることができます。「経営は、ひとりよがりでは続けられない」のですから。
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