たけもと・ゆきちか/北海道出身。高校時代からラグビー選手として活躍し、卒業後は電機メーカーの社会人ラグビーチームへ。4年で引退し、広告会社に転職。複数の企業で経験を積み、フリーランスのデザイナーとなる。2007年、Web制作会社を設立。
間借りしていたオフィスが移転することになり、新しいオフィスを知人が経営する建築デザイン会社とシェア。1階の商談スペースは和の雰囲気のインテリアを施した和みの空間
お客さんに独立までの経歴を話すと、「へーっ」と意外な顔をされてしまうんですよね(笑)。では、僕のこれまでを振り返ってみましょう(笑)。まず、高校時代からラグビーをやっていて、卒業後は、新潟県にある電機メーカーに就職。社会人チームに所属し、ラグビーを続けました。ちなみに、会社での仕事は半導体の製造です。4年後、現役を引退したことをきっかけにその会社を退職。何となく上京したのが22歳の時で、街頭ビジョンなどの広告を売る会社に転職しました。そこで2年間勤務した後、また転職。今度は、飲食関連の会社の広報・宣伝部署に在籍することに。この時から、企画やデザイン、Web制作にも携わるようになりました。
その後もさらに転職を繰り返しています(笑)。次の勤務先はデザイン事務所。といっても、フリーのデザイナーが集まって運営されているエージェントのようなところです。よって、営業、企画、デザイン、制作と、メンバーそれぞれが、仕事をトータルでこなしていくというスタイルをとっていました。だから、とても忙しかったですが、子どもの頃から絵を描いたり、何かをつくったりすることが好きで、毎日の仕事がとても楽しかったですね。いわば、この時からすでにフリーランスとして独立していたようなものですが、僕が所属したのは、2003年から2004年の1年ちょっと。この当時、制作全般の中で、Web制作が占める割合は3割ほどでした。
“5万円ホームページ”の企画書とPRチラシ。「社員10名以下」「ホームページを持ったことがない」「完成後、多くの運営費がかけられない」。そんな中小企業を対象に営業展開中
所属していたデザイン事務所から完全に独立して法人設立したのが2007年の1月です。「フリーのデザイナーが、なぜ法人を設立するの?」とよく聞かれますが、明確な理由があります。フリー時代は紙媒体のデザインを主に手がけていましたが、あれよあれよという間にWeb社会になってきて、Webサイトのデザインの仕事がどんどん増えていったんです。自分はWeb制作の専門ではないので、結局は外注することが多く、だったら外注先のWebデザイナーを雇用して事務所をつくってしまおうと。また、それなら法人化したほうがお客さんからの信頼も得られると、法人登記することにしたんです。その時点で、仕事の7、8割をWeb制作案件が占めていました。
法人設立直後、スタッフを2名雇用。が、いきなりフルタイム勤務では給料が払えないことはわかっていました。本人の合意を得て、当社の仕事は週3日の勤務で行ってもらい、ほかに独自に仕事を引き受けてもOKという契約に。Web制作の仕事で独立・起業する人によくあることですが、ひとりでは受注できる量に限界があり、せっかくのご依頼をお断りすることが多いんです。最初から、どんどん仕事を受注していきたいなら、信頼できるスタッフの助けが必要というわけですね。またオフィススペースですが、僕の場合、フリーランス時代から、知り合いのオフィスの一角を低家賃で借りていて、法人設立後もそこにいていいと言ってもらったので、その言葉に甘えました(笑)。頼れる人には感謝しつつ、会社を成長させることで恩返ししようと思って頑張っています。
Web制作に関しては、自分自身が素人でのスタートだったでしょう。でも今振り返ると、それが有利に働いた部分がいろいろあることを実感しています。当社のお客さんは、初めてホームページをつくるという会社も多く、そのようなお客さんに対応する場合、専門的なことを知りすぎていると、要望をうまくくみ上げられないことがあると思うんですよね。何か、きれいごとみたいに聞こえてしまうかもしれませんが、お客さんと一緒に勉強しながらつくっていく仕事が好きなんです。そのためには、お客さんと最初から打ち解けて、何でも言い合える仲になる必要がある。僕の場合、その会社の社長さんや担当者さんに、ぶっちゃけインタビューを敢行しますからね(笑)。
当社のお客さんの多くは中小企業なんです。また、自分も小さな会社をスタートしたばかりじゃないですか。会社設立の経緯や苦労話、それに経営者ならではの喜びなど、自分にも共通する話題で話を進めると、その場が和やかな雰囲気になり、打ち解けるのにも時間がかかりません。まだホームページを持っていない企業を対象に、導入しやすい金額と方法で制作を請け負うことを当社の特徴にしていますが、今、一番力を入れているのが“5万円ホームページ”です。この金額で基本的なフォーマットを提供し、具体的なコンテンツ自体は、お客さんが書き込んでいくタイプのホームページです。当然、以後の更新もお客さんがブログを書き込むように簡単にできるシステムを提供。「ホームページをつくったのはいいが、自分で更新できないんだけど」という不安も払拭されます。これからも中小企業に目を向けて、お互い持ちつ持たれつの関係が保てるようなお客さんを増やし、大切にしていきたいと考えています。それが当社の成長につながると信じているんです。
紙媒体中心のフリーデザイナーから脱出して、Web制作への進出を模索している時、会社設立を決意しました。自分が経営者としてどこまで成長できるか。そんなチャレンジ精神も僕の背中を押してくれました。会社の代表ともなれば責任は重大ですが、それだけに得られるものや、自分の成長もリアルに感じられるだろうと。かなりワクワクしながら、フリーランスから経営者への転身を図ったんですよ(笑)。
約50万円です。パソコン2台で30万円。スタッフ用の机と椅子などオフィス備品に20万円ほど。オフィススペースは、フリーランス時代に間借りしていたところをそのまま使いましたから、物件取得費は必要ありませんでした。
すべてこれまでに貯めていた自分の貯蓄です。
ラグビーをやっていた関係で、友人たちは体育会系の人間ばかり。僕が独立するということ自体が何かピンときていない様子でした。わけもわからず、「収入が不安定になるような道を選ぶなんて」と、取りあえず反対してくれたヤツもいましたけど(笑)。実家の両親も本心は反対のようでしたが、「やるからには、とにかく頑張れ」と応援してくれました。
フリー時代は、自分ひとりが生活できれば良かったので、売り上げに波があることもさほど苦ではありませんでした。しかし、法人化してスタッフも雇いましたから、給料は必ず払わなければなりません。ですから、毎月きちんとお金が回っていくか。それが最大の不安でした。特に大きな売り上げになる仕事は入金までの期間が長いケースが多く、その間は経費が出ていくいっぽう。そうなるとつらいですから、着手金を入れていただけるよう、頭を下げたことが何度かあります。
お客さんとの仕事のやり取りが一番の情報源ですね。業界特性やお客さんの会社のことをまずはしっかり知らないと、出せないアイデアが当然あるわけです。ですから、ホームページ制作に入る前のヒアリングをきっかけに、あれもこれもと根掘り葉掘り聞きまくっています。どうも「あいつは話好きらしい」と思っていただいているようで、特に仕事に関係ないことでも何かと連絡をくださったり(笑)。そういう世間話から得られる情報も貴重なんですよ。これまで起業家が集まる交流会などに参加することはあまりなかったのですが、少し前から積極的に顔を出して情報交換するように。中でも、経済産業省がバックアップしている「起業支援ネットワークNICe(ナイス)」には、お互い触発されるような面白いメンバーが勢ぞろい。定期的に開催される交流会やイベントにはできるだけ参加するようにしています。
法人登記をする際、知り合いの経営者に書類の作成方法を聞きました。登記申請の作業については、知り合いの税理士さんがいろいろと教えてくださったので助かりました。自然とですが、相談内容によって聞く人が変わっていますね。たとえば、資金繰りやスタッフの給与のことなど、経営に関してはやはり先輩経営者に。また、サラリーマン時代の友人たちとは、今も腹を割った付き合いが続いていますが、彼らとの時間も僕にとって欠かせません。たとえば、会社員独特の対人関係についての話や処世術の話はとても参考になりますね。といっても、一緒に飲んだ時にそんな話題になった時だけのこと。肩ひじ張らずお互いに気軽に話せますから、「なるほど!」と思うような面白いヒントが次々に出てきますね。
これは現在もそうなんですが、私以外のスタッフ全員が制作作業を担当していますので、営業もディレクションも、それに経理も、すべて自分でこなさなければならないことです。今は事務スタッフを雇う余裕はありませんから、イライラしてミスを犯したり、行き詰ってしまったらどうしようと不安になることもあります。なので、最近は意識してリフレッシュする機会を増やしています。朝6時半に起きて、近くの公園で散歩したり、ジョギングしたり、ストレッチをしたり。さらに、仕事の最中でも、ちょっと体を動かしたいと感じた時に近所を散歩するなど、気分転換のための行動を惜しまず行うようにしています。
やっぱりお客さんから「いいホームページをつくってもらいました」と喜んでいただけることです。完成までのプレッシャーや苦労がすべて報われる瞬間ですね。また、完成前の様々なやり取りの中でも「やったぜ!」「嬉しい!」と飛び上がりたくなるようなことも。たとえば、いつもはメールだけでやりとりしているお客さんにデザインデータを送って確認していただいた時、メールでの返事だけでなく、わざわざ電話してきて、「いいねー」などと言っていただいたり。小さなサプライズなのかもしれませんが、やる気がグンとわいてきます。
これは僕のようにフリーのデザイナーから一歩前進して、制作会社の経営者になろうと考えている方へのメッセージです。それは、「業務のすべてをひとりで抱え込んでしまわないように」ということ。ひとつのホームページ制作を担当するだけでも、最初の企画から入って、設計、デザイン、構築、コーディングなどなど、次から次へとやることがあります。それをひとりで同時に数件引き受けたとすると、妥協して最初の理想とは違ったものを納品してしまうのだろうなと考えることもしばしば。スタッフを雇わなくても、フリーランスのデザイナーやエンジニアなど信頼できるパートナーを常に確保しておくこと。ぜひお勧めしたいですね。
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