先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


松本 すみ子さんの写真

シニアの人生を豊かにする
プランニング会社

有限会社アリア/東京都中央区
松本 すみ子さん(58歳)

まつもと・すみこ/宮城県出身。大学卒業後、二十数年間コンピュータ関連企業に勤務。48歳で退職し、共同経営に参加。その後、独自でシニア・団塊世代に、ライフスタイル提案などを行う会社を設立。東京・銀座の拠点は、定年退職前後の人々の活動場所にも。

独立準備のがんばりどころ

バブル崩壊による団塊の世代の戸惑い。それが、自分の人生を考えるきっかけに

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オフィスは、打ち合わせ室や会議室も使える東京・銀座のレンタルオフィス「銀座ビジネスセンター」に。銀座は、「団塊世代にとって元気の出る象徴的な場所」なのだとか

今58歳ですから、仕事歴は長いですよ(笑)。大学を卒業して就職したのは、ちょうどオイルショックの頃。第1希望だった出版社に教授の紹介で入社できるはずが、新卒の採用そのものが取りやめに。それで、何とかコンピュータ関連の企業に就職して、広報部門に配属されました。とはいえ、広報という仕事はもともと好きな分野でしたし、コンピュータが一般企業にも普及し始めた時期でもあり、その後IT社会といわれるようになるまで二十数年間勤務しました。

やがて管理職になり、会社員生活は順調だったのですが、そこにやってきたのが、1980年代の終わりから90年代にかけて起こったバブル経済の崩壊です。リストラという言葉が世間をさわがせ、私自身にはまだそれが降りかかってこないものの、部下の人数は半減させられることになりました。そこで、ふと考えてしまったんです。「これからの私って、どうなるの?」と。定年退職までの人生の送り方、ましてやその後の人生について、「今のままじゃ、この先に希望は持てないかも……」と。

退職後に始めた共同経営。すぐに失敗とわかり、ひとり立ちを決意

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自治体などでの講演は第二の人生をいかに充実させるかというテーマが多い。一方、企業に向けては、誤解されがちな団塊世代の正しい姿を伝えることに重きを置いている
(写真協力/有限会社アリア)

1年くらいでしょうか、自分の今後の人生について、もんもんと考える日々が続きました。そんな時、勤務先が大きな不祥事を起こしたのです。その一大事をきっかけに、「よし、辞めよう!」と決意できました。といっても、会社を辞めて独立して、自分には何ができるかを考え始めたのもその時から。広報については、長年やってきたことだからそれなりにやれるだろうと。企業の販促物やホームページ制作に関する事業を考えてみたものの、それだけでは面白くないなと。そこで考え付いたのが、自分自身の人生を見越した何かをもうひとつのテーマにすることです。当時、リストラの嵐にあえいでいたのは、私より少し上の団塊世代の方たち。たとえ定年退職まで勤め上げたとしても、まだまだ元気なその後の人生をどうするんだろうと。この人たちが幸せにならなければ、日本の将来もない。こうして私の起業・独立の一大テーマ、「シニア世代・団塊世代へのライフスタイル提案や、マーケティング事業」が生まれたのです。

事業計画を周りの人たちに話しているうちに、以前からの知り合いでもあった新聞記者の男性が、一緒に事業をやらないかと。それで彼との共同経営で、起業を目指す人たちに特化した新聞社を設立しました。共同経営というのは、やはり難しいものでしたね。さほど時間がたたないうちに、相手との考え方の違いが如実になってきました。そして結局、私は半年で共同経営から退くことに。つい最近までこの失敗は人に話せないほど悔やんだ出来事でしたが、今となってはいい勉強だったと感じています。結果として、本腰を入れてひとり立ちしようという決意が固まりましたので。

売り上げ確保のための仕事と、夢を追うための仕事。明確にしつつ、どちらも追求

さて、実際に事業の柱として私が決めたことはふたつです。まず、“日々のご飯”。確実に売り上げにつながる事業として、経験と知識と実績のある、企業広報や営業企画に関するビジネスをメイン事業にすえました。そして、“明日への夢”。シニア世代が幸福に暮らすためのライフスタイルの提案・提言や、団塊・シニア市場の調査・研究を自分自身のライフワークとすることに決めたのです。

この会社を設立したのは2000年ですが、本業のシニア世代への提言や動向調査を現実の活動で裏づけしたいと、2002年に「おとなのオピニオンコミュニティRyoma21」というコミュニティを立ち上げました。このコミュニティをNPO法人化したのは2004年。設立時とは名称を変えていますが、現在、「NPO法人シニアわーくすRyoma21」として、活動はますます盛んになっています。もともとはそこに集まってくるシニア世代の要望からスタートした活動も、事業化に向け進めています。また、今までの実績を見てくれている方々から、シニア向けビジネスや活動に関する業務を委託いただくケースも多くなってきましたね。スタート当初は、「お年寄りを相手にする仕事って?」と、的はずれの言い方をされました。でも、10年頑張ってきて、いよいよこれからが本番だと。今、このビジネスを待ち望んでいる人がますます増える時代になったと実感しています。

取材・文 / 田村 康子 撮影 / 加納 拓也

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    バブルの崩壊で、自分より少し上の団塊の世代が不安にかられている姿をいやというほど目にしました。そして、それはやがて自分自身にも降りかかってくる可能性があるわけです。定年退職まで会社にいられたとしても、その後の人生は有意義なものになるだろうかという不安が次第にふくらんでいって……。だったら私が、60歳を過ぎても働いたり、何か活動を起こしたり、それぞれの人にとっての人生の豊かな過ごし方を提案する事業を立ち上げようと。定年まで待つのではなく、思い立った時が吉日と独立を決意しました。

  • 開業資金は?

    資本金の300万円です。事務所物件の取得費に約50万円、パソコンや机、その他もろもろの備品も合わせて約50万円。最初の1カ月で100万円ほど使いました。起業時には思いがけないお金がかかることもあり、また、小さな出費も重なれば大きくなります。資本金は絶対に取り崩したくないという方もいるようですが、まず資本金をどう効率的に使っていくかを考えることが大事だと思いますよ。

  • 開業資金はどう集めた?

    資本金の300万円は、退職金から捻出するつもりでした。が、いざ法人登記しようという時、何人かの友人が、「私も出資するよ」と言ってくれたんです。さらに嬉しいことに、おいっ子とめいっ子が、「10万円ずつ出資するよ」と。私の起業を応援して励ましてくれているってことだから、「そんなに言うなら、喜んで!」と、ありがたく出資していただきました。なので、私の出資額は180万円で済みました。

  • 周囲の反応は?

    友人や知人は、長年勤めた会社を退職することに驚いていました。また、考えている事業内容を話しても、「それって、何?」という感じでした(笑)。今は、定年退職後のシニア向けのサービスに関して理解がある時代ですが、たった10年ほど前、会社を設立した2000年頃は、「えーっ、じいさんばあさんに向かって、何をしようと?」「そんなことが仕事になるの?」と(笑)。でも、私としては、頑張ればイケルと思っていました。実際、今は同じような事業を行う会社が増えたり、大手企業の参入も盛んになっています。そんな中でも、当社のような小さな会社が、「もう10年やっています」と言える事実と実績は、誰よりも早くスタートしたから。大きな信頼につながっています。

  • 不安だったことは?

    不安になったのは、起業2年目です。1年目は、ご祝儀発注とでも言うんでしょうか、知り合いの会社から、「会社設立したなら、さっそくこんな仕事を頼むよ」と、何らかの仕事をくださることが多くて。「何だか、そこそこやっていけそうだな」と。でも、2年目からが本当の勝負で、「あれ、発注が少なくなってきてる」と気づくんです。そこで踏ん張って、いただく仕事をありがたく受け止めて、一つ一つを誠実にこなしていくことで信用が付くもの。2年目の苦しい時を乗り越えれば、自分にも自信が付きます。「石の上にも三年」って正しいと実感しましたね。2年目の発注減で、「もうダメだ」とやめてしまう人も多いですが、その時期こそ肝をすえて仕事に取り組んで、ぜひとも3年目を迎えてほしいですね。

  • 役立った情報源は?

    人脈による情報入手が一番大きいです。たとえば、事務所物件の情報は、知り合いがいろいろな案件を持ってきてくれました。また、「大きな金額の仕事をひとつ受けるより、小さな仕事を100個受けたほうが会社は安全」とアドバイスしてくれたのもお客さんでもある知人です。特に、起業してから知り合った経営者仲間は、いい話、有益な話は共有しようという気持ちがお互いにあるんです。有益な情報は、惜しみなく提供しようという精神でいると、自分のところにも様々な良い情報が集まってきますね。

  • 相談相手は?

    仕事で出会った経営者の方々が、良き相談相手になっていますね。50代後半の私の場合、自分より若い方が多くなりますが、年は違っても経営者として相談したいことには共通性があるようです。それぞれが何か相談したい時に、深刻になるわけでなく、居酒屋などで飲み食いしながら、いつの間にかお互いに相談に乗り合っている。そういう関係が好きですし、これからも大切にしていきたいですね。

  • 独立して一番困ったことは?

    一度、かなり大きな金額の売り掛け金が回収できなかったことがありました。大手企業の仕事だったので安心していたのですが。「間に入っていた制作会社から支払われる」と言われ、しかも、その大手企業は「すでに制作会社への支払いが終わっている」と。結局、制作会社の経営不振が原因で回収不能となってしまいました。発注元が大きな会社だからといって安心しないで、どのような契約関係なのか、それをしっかりと確認しておくことの大切さを思い知りました。

  • 独立して一番良かったことは?

    やはり、お客さんに喜んでいただけることですね。たとえば、シニア向けに発信しているWebサイトに、利用者からコメントがあり、そのコメントにまたどなたかが、「そのとおりですね」などとコメントしてくださったり。また、大きな仕事が獲得できた時も、正直に嬉しいです。私の仕事ぶりを見てくださっている方から講演の依頼をいただくことも多いです。やはり、途切れなく仕事を続けていくためには、一つ一つの仕事を大切にし、実績をつくり続けることが大事なんだと思っています。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    まず、自分がやりたいことを周りの人にどんどん話すといいですよ。そうすると、やらないわけにはいかない状況がつくれますからね。それに、お酒の席などで、計画していることについて何げなく話しているうちに、「だったら、こうするといいよ!」といったアドバイスを受けることもあります。「それはないよ」という否定の言葉も、自分の考えていることを客観的に見るための貴重な意見です。すでに、「これで起業しよう」と決めて、それなりに準備を進めていても、初めの一歩が踏み出せないという人も多いかと思います。そんな時のために、「迷うくらいなら飛び込んでみろ」と、力強く背中を押してくれるような人を探しておくといいですよ(笑)。

設立
2000年5月

資本金
300万円

従業員数
1人

年間売上高
1800万円(2008年3月実績)

アクセス
http://www.arias.co.jp


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