しらいし・しゅんいち/東京都出身。大のラーメン好きで高校時代からラーメン店で独立することを考え、食べ歩く。ファンだったラーメン店で修業した後、製麺所に勤務。試作品づくりに没頭した。寿司店を営む父親とのゴルフが休日の楽しみ。
店名を冠にした具だくさんの「しお旬らーめん」は昨今の塩ラーメンブームもあり、グルメ雑誌などで取り上げられることも。さっぱり感が女性や年配層に人気
高校時代からラーメン店の開業を目指していました。なので、大学でも経営学を専攻し、卒業後は修業のために大ファンだったラーメン店に勤務。この店は1日に600〜700人が来店する超人気店で、忙しさもハンパじゃなかったんです。麺をゆでながらも、食べているお客さまを気にして、水を飲んでいる角度を見て水を追加したり……。調理技術もさることながら、ちょっとやそっとの忙しさではうろたえないオペレーションの力を養えたと思っています。
また、趣味はラーメンの食べ歩きでしたから、休日もラーメン店に行くくらいだったので、4年間で800万円近い資金をつくることができました。ラーメン店での修業後は、麺に関する知識を付けようと製麺所に転職。結局、中華麺を実際につくるまでの仕事はできませんでしたが、それでも後に、製麺所に麺をオーダーする際の交渉がスムーズにできたので、ここでの勤務で麺に関する知識を付けられたことは正解だったと思っています。
店名は名前「俊一」の「俊」を、時季を感じさせる「旬」に変えて命名。「安易ですよね」と笑うが、堂々とした看板やのれんの文字が顧客の目を引いている
製麺所を辞めてからは、ファミリーレストランでバイトする一方、試作品づくりに没頭。幸い、過去に僕の実家の家を改装して親戚がケーキ店を営んでいたことで、自宅にプロ用の厨房施設が残っていました。その厨房を使って、自分らしいラーメンの味を追求。試作品を何度もつくっては友人を招いて試食してもらいましたが、ラーメン店で修業していた当時の同僚の意見は、舌が肥えていることもあり非常に参考になりましたね。それでできたのが、2パターンの味。カップルで来店された場合も考え、男性が好きな背脂を使ったこってり味と、女性がターゲットのにぼしの風味をアクセントにしたさっぱり和風味の2パターンで、しょうゆ味と塩味を柱に据えました。
試作品づくりをする一方で、物件探しもスタート。エリアは土地勘のある川越市内で探しました。内覧を6、7軒した中で、現在の物件に決めた理由は、住居付き店舗のため、目覚めてすぐ仕事にかかれるというメリットがあったこと。元うどん店だったので、内装もさほど大きく手を加えないでも良さそうなこと。住宅街立地でありながらも車が頻繁に通る道に面していたことなどです。先輩起業家である父親にも見てもらい、「これなら何とか集客できるだろう」と。気になったのは、駐車場が店舗の裏にあるため、入りづらさがないかということ。そこは店頭に看板を出して駐車場へ誘導できるよう工夫しました。
内装工事で、ちょっと失敗してしまいました。先輩起業家などから散々、「相見積もりは必ず取るべき」と聞かされていたのに、比較検討せず、契約した不動産会社から紹介された店舗改装のキャリアの低い内装会社に決めてしまったんです。厨房機器やテーブルなど中古品を使って節約するつもりだったのですが、結局、それも内装会社に一括でオーダーしてしまって……。相見積もりを取って比較検討していたら、もう少し安く、厨房の使い勝手も良いものになったのではないかなと。慌てないことと面倒くさがらないことが大切だと、本当にいい勉強になりましたね。
オープン告知はいっさいしなかったのですが、ありがたいことにクチコミでお客さまが増加。オープンからまだ1年ですが、前月を超える売り上げをずっと継続しています。この記録はどこまで続くかはわかりませんけどね(笑)。でも、売り上げが下がるといわれる夏も、売り上げが落ち込むことなく増加していったのは嬉しかったですね。本当は夏対策用につけ麺を開発しようと思っていたんですが、それも遅れていて……。現在は、お客さまからの要望が高いみそラーメンの開発にも力を入れ、裏メニューとして常連さんなどに提供。お客さまのニーズは移り変わりますから、これからも常に味の研究を続けていきたいと思っています。
父親は長く寿司店を、親戚はケーキ店を営んでいて、自営業が当然という環境にあったことが影響していると思います。ラーメンが大好きだったので、僕も高校時代からラーメン店を開業するのが目標になっていました。本当は修業を終えた3年後には独立したかったんですけどね。納得する味をつくり上げるまでに時間がかかってしまいました。
1300万円です。100万円は物件取得費。50万円が食器など。仕入れ時に使う自動車の購入費と引っ越し代で250万円。痛かったのは、内装費と厨房設備費。あまり交渉をしなかったため、700万円もかかってしまって……。残りの200万円が仕入れ代と運転資金です。
ラーメン店で修業していた時代の貯蓄が600万円。国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)からの融資が500万円。地元信用金庫からの融資が200万円。合わせて1300万円です。
高校時代からラーメン店をやると宣言していましたから、友人たちからは「いつ、店やるんだよ?」とせっつかれていました。家族からも「やる気、あるのか」とよく怒られてましたし(笑)。なので、開業すると言った時は、みんな「やっとかよ!」という感じでしたね。
特になかったですね。開業したばかりの頃は独り身でしたし、「売り上げが低くてもラーメンを食べていれば何とかなる」くらいの気持ちでした。それに、ワンシーズンやってみないことには、わからない部分もありますしね。ただ、開業9カ月目に結婚してからは独り身ではなくなったので、急に不安にはなりましたけど(笑)。
ラーメン店に関する開業ノウハウ系の書籍ですね。ラーメン店のオーナーとしての心構えや店舗を持つまでの流れ、何にどれだけの費用がかかるかという目安などなど。ラーメン店ならではの店舗経営のための情報収集ができました。
やっぱり、商売の大先輩である父親ですね。店舗物件に関する考え方や商売に対する考え方、利益を挙げるための工夫など、たくさんのアドバイスをもらいました。とはいえ、親父の意見を100%受け入れていたわけではないですけど(笑)。
背脂を使っているため、どうしても排水口がつまりがちなんです。しかし、その排水口を掃除するために開けるフタの上に、厨房設備が乗っかっていて……。掃除ひとつするのが一大事なんです! しょうがないので、バクテリアによって掃除する機械を導入し、年1回は掃除会社に高圧洗浄を依頼していますが、それでもつまる。そういった費用をかけるくらいなら、厨房設備を整える開業時の段階で、内装業者と綿密な交渉をして、使い勝手のいい厨房の設計を追求すべきだったと後悔しています。
川越はラーメン店の激戦区で、有名店も多いエリアです。そんなエリアにもかかわらず、僕の店を選んで来てくれるお客さまがいることが何よりも嬉しいですね。
当初、僕は800万円あれば楽勝で店がつくれるものと思い込んでいたんです。でも、全然足りなかった。というのも、相見積もりを取るなど、節約する工夫が足りなかったからだと思うんです。低資本で開業したいと思ったら、まずコストを下げる手間や工夫を面倒くさがらないことが第一。開業は実際にあまり目にする機会がない何百万円という金額が動くわけですが、多額のお金を持っている変な余裕が生まれて、30万円も31万円も同じと、1万円安くする努力を怠りがちです。でも、普段の買い物では「50円引き」を選んだりするでしょ? チリも積もれば山となりますからね。何千円、何百円単位まで大事にして、コストダウンに努めることはとっても大事だと思いますよ。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報