かしわぎ・たまき/千葉県出身。大学在学中から出版社に勤め、卒業と同時にフリーライターに。美容や健康、飲食店開業に関する書籍も上梓。その取材をとおして飲食店経営に興味を持つ。趣味は占いと着物収集。着物のフリーマーケットも開くほど。
商店街に面したガラス戸は、光を入れる窓と位置付け、路地側のくぐり戸を玄関に。正面の施工のみプロに依頼し、柿渋や漆喰は「ミク友」など仲間たちと塗り上げた
飲食店開業に関する書籍の執筆など、フリーライターとして飲食店オーナーから話を聞く機会が多かったこと。お酒が好きで飲食店に行くのが好きだったこともあり、「いつか古民家や長屋などをリノベーションしたカフェができたらな」と漠然と思っていました。しかし、それほど真剣ではなかったんです。たまたま紹介された不動産会社に希望物件の条件を言ってみたところ、本当に物件が見つかってしまって。それで、本気になりました。
古い商店街の一角に戦前からある2階建て長屋のひとつで、以前はクリーニング店を営んでいたそうです。おばあちゃんの家に来たような懐かしさがあり、のんびりできる空間ができそうだと、一度の内覧で一気に内外装のイメージがついてしまい、その翌日には契約を決めていました。上梓した書籍では「物件は気に入ってもすぐ契約せず、慎重に調査を!」などと書いている自分が、即決なんて本当はいけないんですけど(笑)。
2階は畳部屋で靴を脱いで上がる。「お客さんは2階から埋まっていく」というのも納得の和み空間。「おばあちゃんの家みたい」と長居する人が続出
開業資金もそう余裕がありませんでしたから、エントランス部分の施工のみ建築デザイン会社に依頼。内装は自分ですることにしたのですが、古い物件だけに物件オーナーの手元にも図面がない。そこで、ビルの建築などの仕事をしている弟に頼み、図面を書き起こしてもらい、さらに電気工事もやってもらいました。こんな弟がいて良かった(笑)。また、ソーシャル・ネットワーキングサービス「mixi」の地域コミュニティにカフェをつくる情報を投稿したところ、とっても反響が大きくて。壁に漆喰を塗る作業をボランティアで手伝ってくれる方が15人ほど集まりました。ほかにも、工具を貸してくれる方がいたり、食器をくれる方がいたり……。皆さんオープンを楽しみに応援してくれて、本当にありがたかったです。
厨房設備やテーブル・イスなどの備品は、テンポスバスターズで中古品を購入したほか、飲食店を経営する先輩からも食器や冷蔵庫など不要品をもらうなど節約。ゴミもできるだけ出したくないと、工具も廃材からつくり、クギなどもリサイクルして使っていたのですが、困ったのが残されていた大量の蛍光管。すると、知人から「大日本プロレスが“蛍光灯デスマッチ”をするために集めている」という情報が入り、プロレス団体に寄付できることに。捨てる神あれば、拾う神ありだなと実感しましたね。
仕入れ先も確定せず、メニューも決定していない段階でしたが、物件を契約してからオープンまでの家賃がもったいないと考え、最小限のメニューでプレオープン。そもそも接客業は初めてで、バイトを使うことも慣れてなかったので、練習にもなりました。お客さんの反応を見てメニューを考えたり、値付けできるので、1カ月近いプレ期間を設けて結果的に良かったと思っています。
人が集う場にしたいと考えて、カフェだけでなく、ギャラリーとして貸し出したり、イベントをマメに開いたり、多目的で使えるようにしています。占い師さんを呼ぶイベントなどとっても好評ですね。長屋はどうやら人の縁を呼び込む力があるみたいで、くつろげるお店だとお客さんに楽しんでもらっています。屋号の「サトワ」はサンスクリット語で「調和・愛・純粋・創造」などの意味で、「さと和」の「和」は「和み・調和」の和にちなんで付けました。これからも地域の街や人と調和して、和んでもらえるお店としてあり続けたいと思っています。
古民家を改装したカフェを経営する知人に、不動産会社を紹介されたことがきっかけです。この不動産会社は、希望を言えばどこまでもそれに合った物件を探しに行くと評判で、半分冗談で「東京都内で長屋を改装してカフェをしたいので、長屋を見つけてほしい」と頼んでみたんです。そうしたら、「いや〜、そんなレアな物件はなかなかないですよ」と言いながらも、1週間で本当に見つけてくれたんです。内覧したところ、ものすごく気に入ってしまって。こりゃ、やるしかないと開業を決めました。
300万円です。物件取得費が100万円、内装費が80万円、厨房改装費が50万円、テーブルなどの備品類が10万円、電気設備・工事費が10万円、食器類が20万円。残りが運転資金です。
取得していたマンションを売却したんです。その資金の一部を使いました。このお金がなかったら、開業は決断しなかったと思いますね。借金をするつもりはありませんでしたから。ちなみに、マンションを売却した経験から『開運!マンション選び』という書籍も上梓しています。
「やると思ったよ」という反応ばっかりでした。ただ、飲食店を経営する先輩やビル建築などの仕事をしている弟、一緒に住んでいる同居人に改装前の物件を見せたらドン引きでしたけど(笑)。両親には事後報告でしたが、特に反対されることもなく、「あら、良かったじゃない」という反応でしたね。
不安を感じ始めたのは、お店を始めてからですね。「ちゃんとお客さんが来てくれるのだろうか」「これまで人を使うことをしていない私が、従業員を教育できるのだろうか」「この古い長屋は、真夏や真冬を耐え切れるのだろうか」とか、不安はどんどんふくらんでいきました。でも、まだオープンして半年。オールシーズンこなすと、本当の課題が見えてくるんだろうなと思ってます。
カフェに関する書籍と、やっぱりソーシャル・ネットワーキングサービス「mixi」のコミュニティですね。改装を手伝ってくれた方のほかにも、差し入れをしてくださった方、お客さまとして来てくださった方などたくさんの応援を「ミク友」にしていただきました。
飲食店を経営する先輩経営者や、お酒をよく飲む友人、異業種交流会で知り合った方などですね。あとは、弟や同居人などの身内でしょうか。
厨房の狭さですね。保健所の許可を得ているとはいえ、一般住宅用の小さなキッチンなので。厨房にふたりも入ると、動きづらいんですよ……。改装しようか、どうしようかと悩んでいます。
ギャラリーとしてスペースを貸し出したり、知り合いの落語家さんに落語会を開いてもらったり……。カフェというスペースがあることで、応援したい人を応援できるのは幸せですね。あとは、展覧会などをとおして雑誌などの編集者さんがお見えになることでつながりができて、フリーライターとしての私の仕事にもつながるとなお嬉しいかな、と(笑)。
あまり大きな希望は持たないことが大切ではないでしょうか。内装などに夢を求めすぎると、開業資金がどれだけあっても足りません。借金をせず、手持ちの資金で開業しようと思ったら、知恵と工夫で乗り切ることですよ。私は漆喰の壁は友人・知人に無償で手伝ってもらって塗りましたが、プロが塗ったような美しさはないですし、ちょっと失敗してるな、と思う部分もあります。でも、それも味だとポジティブな妥協をしました。開業してやっていくうちに不具合が出てきた時、資金に余裕が持てるようになった時に改装したっていいわけですから。最初から高望みをして、むちゃな借金だけはしないようにしてくださいね。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報