さいとう・あやこ/山形県出身。山形県内でタウン情報誌の広告営業を経験後、上京。広告代理店でママ向けフリーマガジンの立ち上げに参画。広告営業やマネジメントなどを担当した後、起業した。自社でも子育て中のママを採用し、家庭との両立を提案。
ママと企業が出合う「ママジョブフェア」は、2カ月に1度開催。子連れOKで、ベビーカーを押して参加するママからは「こんなイベント、待ってたの!」の声も
起業の種は前職時代に見つけました。産婦人科や小児科などに置くママ向けフリーマガジンの制作の現場を通じて、リアルな子育てママたちの就労状況を聞いていたのです。「フルタイムで働きたくてもパートでしか採用してもらえない」「キャリアがあっても育児退職すると再就職先を探そうにも前職よりも不利な立場でしか仕事ができない」など、そんなマイナスの情報ばかり……。
子育ては人生における立派で大切な仕事ですが、子どもを持たずにバリバリ働いている女性をうらやましく感じるママもいました。女性としても、母親としても、職業人としても、女性がイキイキと輝いている社会にしたい。そう考えました。しかし、ネット検索をしても、専門業界や女性などに特化した求人サイトはあっても、子育てママに絞ったサイトはなかった。これはイケるのではないかと自信を感じました。
広報とサイトづくりを担当するスタッフの赤尾美也子さんは、1歳児を持つママ。ママだからこそわかる情報や感性が、サイトづくりにも生かされている
そこで、勤務先を退職。知人の会社で取締役を務めながら、サイトづくりと、営業先となる子育てママの採用に前向きな企業探しをスタート。その営業活動をしたことで、自信は確信に変わりました。求人誌や求人サイトなどに「ママ歓迎!」と書くと、ママを含め、応募総数が増えるという効果があるそうなんです。ところが、実際にママを採用する企業はごくわずかだと。営業先担当者からの「ぶっちゃけ話」や、ママたちの証言からもそれがわかりました。だったら、子育てママの求人情報に特化すれば、仕事がしたいママ、本気でママを採用したい企業の両者にメリットがあるわけです。事業としての勝算を感じましたね。
ただ、本当に事業として成り立たせることができるのかという不安はありました。そこで、公の起業支援施設「創業サポートセンター」へ。常駐の中小企業診断士に相談し、事業計画の考え方から計画書の作成までをみっちり教えてもらいました。これがものすごくためになった。「損益分岐点って何?」「キャッシュフローってどうするの?」というところから教えてもらいましたし、自分が目指したい理念も明確になりましたから。
ビジネスプランコンテストにも応募しました。第3次審査を通過しましたが、残念ながら賞を獲得するには至りませんでした。でも、収穫は大きかったですね。目的としては事業計画のおさらいだったので、提出用の計画書のフォーマットが変わっても、自分の考えている事業計画はブレてなかった。創業サポートセンターでの教えが身についていることがわかりましたよ。また、コンテストを主催していた出版社の方とも知り合えたことで、後に自社でイベントを開く時など取材していただいたりと、いいつながりもできたりして。応募したことでたくさんのメリットを得ることができました。
そんな感じで準備しながらサイトも立ち上げ、知人の会社の取締役も兼務しつつ1年近くやってきました。でも、やっぱり事業に集中したいと取締役は卒業。それを機に法人化し、ママ向け求人サイトの運営と、ママの採用を考える企業と働きたいママをマッチングするイベントの開催、広告代理店業の3本を柱としました。さらに最近、育児をしながらキャリアアップをしたいママ向けのスクールもスタートしようと、その準備が佳境に入ったところです。ゆくゆくは、自社でもっと多くのママたちを雇用できるくらいに成長したいな、なんて思っています。
私は独身で育児経験もないのですが、やっぱり先にも言ったように、仕事を通じてママたちがしたい仕事に就けない、働きたいように働けないという就労状況を聞いて、何とかできないものかと思ったのが大きいですね。私のように子どもがいない独身女性が相手となると、確かに心を開いてくれないママも中にはいらっしゃいます。でも、ママ向けフリーマガジンをつくっていたことで、ママたちしか知らないような話題もよく知っていたから溶け込むことができるという強みがありました。自分がよく知るママ業界で感じた課題を解決しようと思ったら、起業がいいだろうと決断したんです。
個人事業として始めた時は55万円です。サイト制作費で30万円、パンフレットやチラシ制作費が5万円。パソコンやプリンターなどの設備で20万円といったところかな。法人化した時は300万円を資本金に充てていますが、人件費と運転資金にしました。
個人事業の時の55万円は、前職で3年間にわたってつくった貯蓄です。法人化した時の300万円は、150万円が自己資金で、個人事業をする中で得た利益と知人の会社で取締役をしていたので、その役員報酬を充てています。残りの150万円は、両親からの借金。事業計画書を見せてプレゼンして説得しましたね。
みんな「やっぱり!」という反応でした(笑)。もともと新しいものをつくり出すのが大好きだったので、そう思われたんでしょうね。両親は公務員だったので、起業といっても納得しないだろうと。それで事業計画書を見せて資金援助のお願いもしつつ、了解を得ました。前職時代からの取引先が入金を前倒ししてくれたりと、当社がキャッシュフローで困らないよう支えていただいています。
経理に関しては、まったく経験がなかったので、かなり不安でした。だから、創業サポートセンターに相談したというのもありますし。ホント、行って良かったですよ。行ってなかったら、資金繰りがまったくうまくいかなかったでしょうね(笑)。
事業計画や収支計画など、ビジネス的にしめなくてはいけない情報は、何といっても創業サポートセンターです。事業内容など当社のコンテンツにかかわる部分は、ママたちからのリアルな声ですね。
サイトをつくっているのも実はママたち。ママたちの意見は大事ですね。私だとどうしてもビジネスモード全開のつくりになってしまいがちですが、そこを「これではママたちがついていけない。これくらいの物言いがいい」などママの目線に合わせたアドバイスがもらえますから。経理や税務に関しては、広告代理店時代の同僚から紹介してもらった税理士さんに相談しています。
う〜む。起業してそんなに長くないですから、まだ「これが困った!」と言えるほどのカベにぶち当たっていないと思います。しいて言えば、イベントを開く際、施工会社数社から相見積もりを取ったんですが、ナメた態度をされたというか、足元を見られたというか……。私が女性だからかな?と思いましたが、それくらいですよ。
自分がやりたいことが100%できるので、100%楽しいですし、苦しいことがまるでないことですね。だから、ストレスもいっさいなし! しかも、信頼する仲間と力を合わせて喜びを共有できる。すごく幸せですよ。
準備は入念にやって損はありません。金融機関から融資などを受ける時に、事業計画書は必須ですが、そうやって誰かに見せるシーンがないとしても、計画書は作成したほうがいいですね。書くことに意味があります。紙に文字にして書き起こすことで、自分がやりたいこともクリアになりますし、それを実現して続けていくためのお金の流れも明確になりますから。夢と現実のバランスをどう取るべきかが見えてきます。見直してみると、自分の人件費を考えてなかった、なんてこともありますから。どんな業種の方も事業計画書をつくることをお勧めしたいです。
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