先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


本田雄一郎さんの写真

社会に貢献する力を育てる
フリースクール

葵学園/新潟県長岡市
本田雄一郎さん(37歳)

ほんだ・ゆういちろう/新潟県出身。高校卒業後、レコード・CD問屋でバイヤーとして10年間勤務しながら、DJとしても活動。自ら音源を制作するうちに人間心理に興味を覚え、地元のフリースクールに転職。その後、葵学園を開校。通信制の福祉系大学にも在学中。

独立準備のがんばりどころ

前職のスクールの方針を半面教師に、理念を設定

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月2回登校から週1回・3回・5回登校、自宅学習のコースも用意。取材日は1学期の終業式。寿退社する先生とのお別れもあり、普段顔を合わせない生徒が多数参加した

不登校の中高生を受け入れるフリースクールに勤務していた頃、生徒の保護者からよく相談されていたのが「卒業したら、うちの子はどうなるんでしょうか?」というものでした。しかし、勤務先は「卒業後の面倒までは見られない」という冷たい対応。そこに疑問を感じていました。フリースクールとはいえ学校じゃないですか。社会に出た時に役立つことを学べる場でなくてはいけないはずだと。自分のこれまでを振り返っても、人との出会いや趣味の音楽、興味本位で読んだ本など、好きなことへの自然な反応が今に生きていると感じます。ですから、とにかく生徒たちにいろんな経験をさせてあげたいと思ったんです。

そこで「生徒一人ひとりの卒業後に貢献するスクールであること」を理念としました。そして、ペットのトリマーやネイルアーティスト、マンガ家、DJなど、生徒の興味を喚起し、それぞれの個性を伸ばす職業を学べる各種選択講座や、MOS(マイクロソフト・オフィス・スペシャリスト)、介護ヘルパーなどの資格取得講座も設定。さらに、就職活動に役立つビジネスマナーやコミュニケーション能力を磨くキャリア講座なども用意することで、教育理念である「卒業後に貢献」の実現につなげていきました。

生徒の学びの環境を第一に考え、沖縄にある通信制高校のサポート校に

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同校は発言の多い人が優遇される組織を嫌い、会議に出席するスタッフは事前に意見を資料にまとめ、それをもとに進行する。自主性が自然と育まれる会議だ

一般の中学校や高校に行けない生徒たちの「居場所」としてのフリースクールという存在だけなく、高校の卒業資格も取得できるようにしたいと考えました。それには、通信制高校の「サポート校」になる必要があります。そのうえで、生徒は卒業資格取得に必要な教科の授業を受けるほか、通信制高校に出向いて1週間のスクーリングを行います。でも、1週間も初めての場所で生活するのを嫌がる子、ストレスを感じる子もいるはずですから、できるだけみんなが行きたくなる、快適な環境の通信制高校を選びたいと考えました。

知らない人でもウェルカムな懐の広い県民性を持ち、ゆったりした時間の流れる沖縄県に絞って、インターネットで提携をお願いする通信制高校を検索。そのうちの一校に問い合わせしました。すると、その学校の校長がわざわざ長岡まで来てくださり、当校のコンセプトや理念などにも共鳴していただき、サポート校として提携することになりました。この高校を選んで正解! 生徒たちはスクーリングをバカンス気分で楽しむことができ、精神的な解放感も得られています。それに、親元から離れるわけですからね。自立・自律心も育ち、帰って来た瞬間に彼らの成長を実感するほどです。

自宅の一室からスタートし、生徒増加に伴ってアクセスの良いエリアに移転

自宅の一室を改築した教室で、前勤務先の生徒をふたり引き取るところからスタートしました。生徒はいったん入学すると途中で復帰せず卒業まで在籍するケースが多いので、収益計画が立てやすいという利点があります。生徒を少しずつ増やしながら利益を蓄積し、2年目にはアクセスの良い現在の長岡駅前にあるビルの一室に移転。今では生徒数は60人に増え、この場所も手狭になってきました。

利益よりも生徒の笑顔が見たいんです。だから、大きく儲けて事業拡大していきたいという気持ちはありません。しかし、生徒の満足度や学習環境の整備を考えると、経営基盤をより強くして、いつか「葵学園ビル」をつくりたいという夢はありますね。また、地域や社会への貢献を考えられている方と一緒に、全国レベルで子どもの未来を創出していけたら、という思いもあります。そして、葵学園の卒業生が大人になった時、彼らの価値観が地域や社会に貢献できていたら最高! そうなった時初めて、自分が起業してやってきたことは間違いなかったと、納得できると思っていますね。

取材・文 / 石田 恵海 撮影 / 魚住 貴弘

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    勤めていたフリースクールは、生徒の喫煙や飲酒も黙認してしまう、自由をはき違えたところで……。それもあって後に、このスクールはなくなりましたが、当時の長岡市内には、このほかにフリースクールがほとんどなかったんです。生徒の親御さんたちから、「新しいフリースクールをつくってほしい」と要望されることも多かったので、それなら自分で始めてみようと。自宅の一室を使って、生徒数2名からスタートしたんです。

  • 開業資金は?

    1000万円くらいでしょうか。自宅の一軒家にフリースクール用として、新たに2部屋を増築したのですが、資金のほとんどはその建築費として消えました。あとは、生徒用の机やホワイトボードなどを購入しています。

  • 開業資金はどう集めた?

    幼い頃から自分の家を持つことが夢で、コツコツ地道に貯蓄していたんです。実は開業前に念願の一軒家を手に入れています。で、残った貯蓄を開業資金に充てました。

  • 周囲の反応は?

    10人中10人がダメ出し(笑)。誰ひとりとして賛成してくれる人はいませんでしたよ。「世の中にとって、いいことだというのはわかる。でも、いいことというものは、儲からないんだよ」と。でも、ふたりの生徒と親御さんが葵学園の開校を待っていましたからね。周囲の反対をすべて押し切って始めちゃいました。

  • 不安だったことは?

    周囲が不安がっているだけで、僕としてはまったく不安はなかったんです。ふたりの生徒が入学することはわかっていましたしね。それに、おかしな話かもしれないですが、子どもの頃から念願だった一軒家を手に入れて、個人的な夢を達成しちゃった後での独立だったもんですから。何も怖くなかったんですよね。「この家さえあれば、何があっても大丈夫!」くらいの気持ちで(笑)。

  • 役立った情報源は?

    高校卒業の資格取得に必要な提携先の通信制高校を探すのに、インターネットが役に立ちました。あとは、前職での「こうはしたくない」という経験や思い、親御さんたちの要望が背中を押してくれたんですね。

  • 相談相手は?

    異業種の経営者の友人や前職時代の生徒の親御さん、それと自分の両親ですかね。でも、「相談」というより「報告」に近かったと思います。

  • 独立して一番困ったことは?

    経営者としての知識がまったくなかったことですね。自分でスクールを経営するとなると、生徒とかかわるだけが仕事ではないですから。まあ、経営に関しては日々勉強です。

  • 独立して一番良かったことは?

    いや〜、それはやっぱり、生徒たちの笑顔が見られることですよ。これが一番! あと、僕は、仕事の出来不出来を無視した年功序列制度や、声が大きい人が勝つような会議や職場が大嫌い。それらを排除した組織を自分でつくれたことですね。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    価値を共有できる仲間との出会い、そしてその仲間を大切にすること。これが大事です。現在、うちには60人近い生徒が在籍していますが、全員をひとりで見ることは不可能ですからね。自分にはないセンスを持つ仲間と協力することで、ひとりではなし遂げられないこともなし遂げられますし、事業に深みも出ます。ひとりよがりになってすべて自分でやろうとせず、時には仲間に任せること。業種や規模を問わず、いつかあなたが経営者として組織を成長させたていきたいなら、ぜひ覚えておいてほしいと思います。

開業
2004年5月

開業資金
1000万円

従業員数
10人

年間売上高
非公開

アクセス
http://www.medical-heart.com/aoitop.html


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