さとう・こうじ/宮崎県出身。高鍋農業高校食品化学科を卒業後、食品卸会社に就職。その後、経営・経理関連のコンサルティング会社を経て独立。子どもが重度の障害を持っていることもあり、近い将来、障害者を支援するための社会的起業に挑戦する意向。
現在は、東京・日本橋のオフィスを構えている。知人の経営コンサル会社とフロアをシェアで経費を削減。交通アクセスが便利な場所なので、クライアントへの訪問も苦にならない
経理や会計業務に携わるようになったのは、高校を卒業して就職した会社で管理部門に配属されたからです。高卒入社で学歴コンプレックスを持っていたこともあり、「大卒に負けない仕事をする!」と決め、めちゃくちゃ頑張りました。その後、関連子会社に出向したのですが、ここでは経理業務のほかに、販路開拓や流通業務の企画運営、営業所の閉鎖統合の業務にも従事することに。会社経営全体を見渡すことができ、得がたい経験となりました。
その頃から、いつか経理の専門家としての独立を考えるようになったんです。経営について知識を深めなければと中小企業診断士の試験勉強を始めたのですが、恥ずかしながらそれはすぐに挫折しました(苦笑)。その後、より専門性を高めたいと考え、経営・経理関連のコンサルティング会社に転職。この会社でクライアントの経理、提携司法書士との法務業務や様々な登記作業をこなしながら、約30社もの新規クライアント開拓ができたことが独立への自信につながりました。
いつも持ち歩いているノートが手放せない大切な仕事ツール。クライアントやスタッフとの打ち合わせ内容はもちろん、思い付いたアイデアや、仕事上の問題点などをすべて書き留める
独立する際に相談に乗っていただいていた先輩経営者が、「休眠中の有限会社を譲ろう」と申し出てくれました。法的な手続きを経て、ほぼ無償で譲っていただくかたちで会社オーナーになれたことは本当に感謝しています。それがなかったら、まずはフリーランスの個人事業主として独立していたでしょう。でも、会社の数字を扱う業務ですから、法人として信頼度を高めたかったんです。ちなみに2006年に、この会社を株式会社として組織変更しています。
晴れて会社経営者にはなれたものの、オフィスは自宅兼のワンルームマンションです。まあ、お客さんの会社に出向いての経理出張サポートや記帳代行に専念していましたから、それほど支障はありませんでした。でも、勉強に必要な書籍や仕事上の書類などがどんどん増えていって……。ある時、本棚がそれらの重さに耐えかねて、自分に向かって倒れてきた時は本気で死ぬかと思いましたよ(笑)。
最初の数カ月は顧客獲得に四苦八苦しましたが、徐々に紹介の紹介でクライアントが増えていきました。最初から飲食店の経営者が多かったので、紹介されるクライアントのほとんどが飲食店オーナー。自分の強みは何かを打ち出さなければならないと模索していたこともあり、名刺には「飲食店・居酒屋専門」と明記して営業することにしたんです。それからですね、「やっと軌道に乗り始めた」と感じられるようになったのは。
独立して3年目くらいから経理や会計業務だけでなく、経営全般についての相談が増えてきました。最初は、本業以外のサービスでお金をいただくのはいけないという思いもあり、無償で相談にお応えしていたんですよ。しかし、これも当社の強みとしてウリにすればいいと考えて、様々なサービスメニューや料金体系を構築するように。とはいえ、皆さん経営についてもしっかりと勉強されているオーナーの方がですから、自分自身も勉強や研究を欠かさないようにしています。あと大切にしているのは、「お客さんも自分も経営者である」という共通の視点ですね。教えていただくこともたくさんありますので、サービス提供者だからといっておごらないことが大事だと実感しています。
自分の力を試したかったからです。会社員時代は学歴コンプレックスがあったので、何か得意分野を持たなければと思って経理業務を専門に頑張ってきました。そのうちに、この分野で独立できないだろうかと考えるように。そして、専門性を高めるために経理・経営関連のコンサルティング会社に転職したことで自信を得、思い切って独立に踏み切ることができました。
20万円ほどです。パソコン1台と事務用品と書籍などの購入費に充てました。自宅のワンルームでスタートしたので、資金はさほど必要ありませんでした。
すべて自己資金です。会社員時代の貯蓄を充てました。
仕事上、多くの経営者たちに出会っていましたので、その先輩経営者の皆さんが、「自分を信じて頑張れ」と励ましてくれたことで奮起できました。家族の反応ですか? 当時は独身だったので迷惑をかけるような人もいないと考えていましたが、宮崎県にいる母親は、口には出しませんでしたが相当心配していたようです。幼い頃に父を亡くしていますので、苦労の多かった母には絶対に迷惑をかけてはいけないという思いはありました。
覚悟はしていたものの、最初の数カ月は売り上げが10万円に届かなかったことも。「この状態がいつまで続くのだろう」とかなり不安になりましたよ。でも、おかげさまでお客さんがお客さんを紹介してくれるようになり、徐々に軌道に乗せていくことができました。
インターネットでいろいろなことが調べられる時代ですが、先輩経営者からお聞きする実際の体験談が一番役に立ちました。そう、『アントレ』もたびたび購入して、起業家の取材記事を読みながら、自分に当てはめて考えることもありましたね。
起業直後から、起業家支援サークルに参加するようになったので、そのメンバーに話を聞いてもらったり、逆に話を聞いたり。今も起業家支援サークルを有意義に活用させてもらっています。結婚してからは妻が良き相談相手になってくれていますが、返ってくる言葉がいつも厳しくて(笑)。おかげで常にダレずに、心を引き締めて仕事に取り組めています。
仕事の上で発生してしまった問題は、きちんと計画し、対処すれば納まるところに納まりますので、困り果てるというようなことはほとんど無かった気がしますね。しかし、日々のちょっとした問題にしろ、経営者というものは何かとハラハラドキドキしているもので、そんな時、自分の感情のコントロールがうまくいかなくて、戸惑ってしまうようなこともあります。ですから、仕事から気持ちをスパっと切り離して過ごす時間も大事にしているんです。たとえば、好きな旅行に出かけたり、家族との時間をしっかりと確保するなど、気持ちをリフレッシュすることを常に心がけています。
お客さんに喜んでもらうと同時に、自分もお客さんに支えてもらっているからこそ今があるんだと実感できる瞬間です。また、会社員時代との違いは、いろいろな方たちとの出会いの場が格段に増えたこと。人との出会いが多ければ、当然自分の世界も広がっていきます。苦しいことも多いけど、独立して良かった、続けていて良かった。これからもずっとお客さんのために頑張り続けることができれば、自分もよりハッピーになれると信じてます。
「やりたいと思ったことは、必ず実現できる」、そして、「ぶち当たった壁も必ず越えられる」ということを信じることです。壁は、問題意識がない人には生じないので、「自分自身が成長できるチャンス」と考えてみてはいかがでしょうか。さらに、小さな目標を一つ一つ達成するたびに、支えてくれている人に感謝してください。目標が達成できたり、困難を乗り切ることができたのは、自分ひとりの力ではなく、お客さんや先輩や友人、家族など、周りの人たちが協力してくれているからこそ、ということを常に忘れなければ、必ず道は開けます。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報