せら・みわこ / 山口県出身。東京の美術系大学を卒業。菓子メーカーにて広告制作やイベント企画に携わり、山口へUターンした後に独立。独立前は、起業に関するセミナーやスクールに通いつめていたが、今もそれが趣味といえるほどのセミナー好き。
「みすゞこれくしょん」の認知度を高めるために、地元・山口だけでなく首都圏や関西圏でのイベントにも積極的に出展。その活動により、全国にファンが広がっている
東京の美術系大学を卒業し、7年ほど企画・デザイン関連の仕事を続けた後、生まれ故郷の山口にUターンしたんです。ちょうどその頃、少し体調を崩していたこともあり、しばらく仕事を休もうと考えていました。でも、私が東京で広告制作をやっていたことを知っている人たちから少しずつ仕事の依頼がくるようになりまして。自宅を仕事場にフリーのデザイナーとして、自分のペースを保ちながら自然と再スタートすることができました。それが最初の独立といえるかもしれませんが、実はその後、地元の広告代理店に就職したんです。
その会社に勤務し始めてから、地元の異業種交流会や数々の起業セミナーに参加するように。交流会のメンバーには、独立して会社を起こしている方たちもたくさん。彼・彼女たちから話を聞くにつれ、「私も自分で起業してみようか……」、そんな気持ちが高まっていきました。で、計画を立て始めるものの、初めの一歩がなかなか踏み出せない……。そんな私の背中をポンと押してくれたのも、その異業種交流会の先輩社長たちでした。
起業に関するセミナー講師として登壇することも多い。特に、地元の山口で起業したいという意思のある人には大いに活躍してほしいと、常にエールを送り続けている
起業の決心を決めた直後、異業種交流会の先輩社長が「世良さん、せっかく会社始めるんだから、会社設立披露をやろう。やるよね、ね」と。もう後には引けなくなってしまったんですよ(笑)。周りの皆さんがどんどん盛り上げてくれて、これまで手がけた企画や作品をプレゼンするなど、とても熱気のこもった設立披露会となりました。おかげでその時まで感じていた不安は、集まってくれた皆さんの期待に応える会社にしていこうという強い思いに変わりました。
最初からスタッフを採用して、オフィス物件も借りてスタートしたかったんです。というのも、いいものをつくって、それで信頼を獲得することにより評判やクチコミで顧客を増やしていくことが一番だと考えたから。それを実現するためには、ひとりで何もかもやろうとするのはムリだと。そこで、勤務先で信頼していた仲間に来てもらうことに。オフィス物件を借りることにしたのは、フリーのデザイナーをやっていた頃に、自宅兼事務所ではオンとオフの切り替えが難しいことを痛感していたからです。幸い、自分の貯蓄と、独立に賛成してくれた家族からの出資がありましたので、物件取得費など開業資金集めに四苦八苦することはありませんでした。
起業後は常に、山口の活性化につながるような、そんな事業展開を得意とするデザイン&プランニング会社に育てていこうと考えていました。実は、起業前、異業種交流会だけでなく、山口市のまちづくり活動にも参加していたんです。Uターンしてから、東京にいた頃には考えられないくらい、山口のことがどんどん好きになっていったんですよね。現在、当社の主力事業となった「みすゞこれくしょん」というキャラクター商品の製作・販売があります。これは、長門市出身の詩人・金子みすゞの作品を商品化したもの。この事業を始めたのも、生まれ故郷に貢献したいという思いがあったからこそです。
ただ、販売や卸しまでやることは当初の事業計画にありませんでしたから、不安要素もタップリ。それでもトライしようと決意したのは、地元を愛する気持ちと、未知のことに挑戦したいというチャレンジ精神にほかなりません。最近は、起業に関するセミナー講師の依頼も多いので、積極的に引き受けるようにしています。起業前にお悩みを抱える方たちに、私の経験を還元することも先に起業した者の役割ですからね。
独立前に勤めていた広告代理店でも企画やデザインの仕事をしていたのですが、「もっと自分らしさが出せる仕事がしたい」と強く感じていました。また当時、参加していた異業種交流会で知り合った仲間たちも、「独立してやればいいよ」と勧めてくれる人が多く、自然に独立へと心が傾くようになっていたことも確かです。同時期に、勤務先の経営が不安定になってきて……。このままでは顧客に迷惑をかけてしまうと考え、同僚を誘って顧客の仕事も引き受けるかたちで起業しました。もちろん、勤務先には了解を取り付けています。
500万円です。有限会社としてスタートしましたので、資本金として300万。これは実質、運転資金ですね。残りの200万円を事務所物件の取得費とパソコンや机などの購入費として使いました。2007年に株式会社に組織変更していますが資本金額は変えていません。
貯蓄していた自己資金が250万円。家族が出資してくれたのが同じく250万円です。
実家も商売をしていたので、独立に関してはそういう意思があるならと、両親にはすんなりと理解してもらえました。異業種交流会で出会った先輩社長たちは、独立を勧めてくれたくらいですから、「応援するから頑張れ」と。なぜか私以上にやる気満々でした(笑)。考えてみると、賛成してくれた両親は出資までしてくれましたし、とても恵まれた起業といえますね。
最初からスタッフを雇うことにしたのはいいのですが、ふと、「仕事が思うように回らなくて、ちゃんとお給料が払えなかったらどうしよう」と思ったことも。しかし、起業を後押ししてくれた仲間たちがどんどん仕事を依頼してくれたので、その心配も杞憂に終わりました。独立直後、周囲に甘えすぎてはいけないと考える方もいるかもしれませんが、そういう好意をきちんと受け止めながら、きちんと基盤をつくっていくことって大切だと思います。
やはり一番の情報源は地域に密着した人脈によるものですね。たとえば、異業種交流会や、まちづくり活動に参加したことから、そのメンバーたちが次々と知り合いを紹介してくれて、情報交換できる仲間がいっきに増えていきました。また、起業に関するセミナーやスクールにも積極的に参加して、事業計画の立て方、県や市ではどんな支援策があるかなど、有益な情報を常にキャッチする努力を惜しみませんでした。
先輩経営者たちです。ご自身の経験をもとに、経営のいろはをたくさん教えていただきました。数字への苦手意識が強かったので、開業後の資金の流れについてなど、私から質問させていただくことも多かったです。
やはり苦手意識のあった数字です。今となっては笑い話ですが、実は独立したての時に、数字で失敗しています。具体的に言いますと、会社を設立した時に決算時期を4月末と決めました。設立日は3月27日だったのですが、5月10日に設立パーティを計画していて、「本格始動は、そのパーティが済んだら」と、そんなプランを立てていたんです。ところが、6月の月末が近づいた頃にある相談事で税務署に出向いたところ、「ところで決算月が4月ですが、もう納税はお済みですか?」と。会社設立から約1カ月で最初の決算期が来てしまったわけなんです (笑)。納税期限の6月末日まで5日しかなくて、知り合いの税理士さんに頼み込んで、大急ぎで決算報告書を作成してもらいました。
初めてのことに挑戦できたり、いろいろな案件を決断したり、それは会社員にはなかなかできないことでしょう。もちろんリスクはありますが、起業した者にしかわからない醍醐味です。また、これは、ふるさとにUターンして独立したからこそ実現したことですが、山口という地元を愛する仲間たちのネットワークが形成できたことです。若い頃は都会志向で、生まれ育った山口がこんなに好きになるなんて考えていませんでした。単なるデザインや広告の制作会社ではなく、今後も大好きな山口の活性化につながるような仕事や活動を続けていきたいと考えています。
起業を考えると、不安材料ばかりが目の前をチラチラするかもしれません。そんな時、私は、「不安はモチベーションアップの材料になる」と考えるようにしました。そうすると、「この不安を払拭するにはどうしたらいいか」「こういう挑戦をしてみよう」と、新たな目標設定ができます。その目標をクリアするために「行動すればこうなる」「行動しなければこうなってしまう」と、両方の結果をイメージして、必ず行動を起こすように自分を追い込んでいきました。自分が主体となってすべてを決めることができるんですから、やりがいは絶大。不安をモチベーションアップの材料とすることができれば、ある時は少しずつ、ある時は急に、目の前がパーッと開けることがあるんです。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報