先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


小野 隆さんの写真

グリーンツーリズムを
果樹園で実践するNPO

NPO法人南アルプス・ファームフィールドトリップ
/ 山梨県南アルプス市
小野 隆さん(41歳)

おの・たかし / 山梨県出身。大学の農学部を卒業後、大学院で農業経営学を学び修士課程を修了。卒業論文は地元山梨県の農業後継者について調査。その後、家業の果樹園を継ぎ、2005年、グリーンツーリズム型の農業を実践するため仲間と共にNPOを設立。

独立準備のがんばりどころ

始まりはさくらんぼ農家のオフ会。軌道に乗った活動を継続しようとNPOを設立

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お父さんと一緒に取ったさくらんぼにニッコリ笑顔の男の子。毎年6月は、さくらんぼの収穫の最盛期。赤く輝くさくらんぼを求めて、平日に訪れる家族やグループも多数

さくらんぼなど果樹の実がなる季節にはジャムづくりを、冬場は畑遊びと称して、果樹園の剪定枝を使って火を起こしたり、その火でピザをつくったり、年間を通じて季節に応じたグリーンツーリズム活動を展開しています。その始まりは10年ほど前だったでしょうか。当時のパソコン通信で知り合った農業従事者や農業に興味のある人が集まって、様々なやりとりを行うようになったんです。その中で、あくまでも遊びのつもりだったんですが、知り合ったメンバーでオフ会を開催するようになったのがそもそもの始まりですね。

2005年にNPO法人として「南アルプス・ファームフィールドトリップ」を設立したのは、せっかく軌道に乗ってきた活動を、グリーンツーリズムのかたちにして継続していきたいと思ったからです。やはり継続させるためには、収益を挙げないと難しいですよね。そこで設立前には、山梨県立農業大学校で一般向けに開催されたグリーンツーリズム運営の実践講座を受講。さらに、実際に活動体験をしてみようと、仲間の農家と北杜市のNPO法人「えがおつなげて」で修業させてもらいました。今はお互いに協力し合うNPO仲間となっています。

試しにつくったジャムで農産加工グループの収益が倍増。「これはイケる」と実感!

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さくらんぼを始め、NPOに参画する果樹園で収穫する果物をジャムに加工。NPOは加工を請け負い、それぞれの果樹園がオリジナルのラベルを張り、自園のブランドとして販売

話はNPO設立前に戻りますが、グリーンツーリズムの立ち上げを模索していた頃、ここ旧白根町が周辺町村と合併して南アルプス市になりました。それが2003年ですね。隣の旧八田村にあった村営の農産加工施設も同じ市のものとなり、そこのジャムづくり機械が使えるようになったのをきっかけに、さくらんぽなどを原材料にしたジャムづくりに着手してみたんです。これが地域の農家にもイベント参加者にも好評で、「継続していくべき。事業の柱にできる」という感触を得ました。

当初、ジャムの生産は、地域の女性たちで組織された農産加工グループに委託しました。初年度の生産量は3500個で、ジャムの販売だけで70万円の収入に。聞くところによると、それまでのグループの年間収入はその半分だったそうです。さほど無理のないかたちでやってみたジャムづくりで収入が倍になったということは、しっかり取り組めば必ず地域のメインとなる特産品になるのではないかと。ところが、農産加工グループは、農作業の空き時間を使って作業に当たる農家の女性たちですので、それ以上時間をさくことはムリだということになりましてね。そこで、都市からこの地域に移住してきた人たち、その中でも地域づくりに取り組みたいという方たちにお願いして、ジャムづくりの専属スタッフを確保しました。

NPOに収益を、かつ参画する農家に損をさせない構造をつくることが大事

全国各地で、地元産の果物をジャムにして売るという試みがなされていますが、その多くがうまくいっていないと聞きます。それはやはり買ってくれる人の見込みがないまま、何となくつくってしまっているから。ですから私たちはまず、お客さんは誰なのかを考えることから始めました。そもそも、この南アルプスエリアの果樹園は観光農園が多く、さくらんぼ狩りなど収穫作業そのものを楽しみに来てくれるお客さんがいます。そんな観光客の方々にジャムを買ってもらえばいいんじゃないかと。

そこで、「農園ごとに自園のオリジナル商品として販売しませんか」「ラベルもそれぞれオリジナルのものを貼りますよ」と呼びかけたところ、参画したいという農家がたくさん集まってくれました。新たな収益が見込めますからね。また、旅行会社は果樹園での収穫体験をパックにしたツアーを各農園に持ち込んでくるのですが、毎年のように値下げ交渉してくるんですよ。でも、「値下げはできませんが、来園者にはジャムづくり体験をしてもらい、かつ、ジャムをプレゼントします」と、逆に旅行会社に交渉することで値下げ問題をクリアしている農園もあります。さらに、地域でも評判の高いパン屋さんに置いてもらうことで、ブランド力を高めています。おかげで農家も、旅行会社も、お客さんも共に喜んでくれています。そのようにして、参画する農家に損をさせないようなかたちでNPOの収益を確保しなければ、グリーンツーリズムとしてのほか様々な活動も継続できないですからね。とはいえ、まだまだやりたいことがやれるだけの収益につながっているとはいえません。今後もいろいろなアイデアを出して成長させていきたいと考えています。

取材・文 / 田村康子 撮影 / 小林佐孝

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    自分が家業の果樹園を継ぐだろうということは、中学生の頃から漠然と考えていました。それで大学の農学部へ、さらに大学院へと進んだわけです。卒業論文のテーマを地域の農家の後継者調査にしたのは、様々な農家の実情を知ることができるまたとないチャンスだと考えたからです。一般の人がちょっと教えてほしいからと訪ねても、なかなか実情や本音は教えてもらえないですからね。この調査活動で農家の先行きの暗さを思い知りました。その後、家業を継いだのですが、「このままではまずい。何か行動しなくては」と。そして若い農家仲間を集め試行錯誤しながら、都市住民との交流型イベントなどを実践していきました。そんなグリーンツーリズム型の活動を末永く続けて、きちんと収益を出していくためには、拠点となり活動の主体となる組織が必要だと考え、NPO法人を設立したのです。

  • 開業資金は?

    60万円です。これ以外に、家業の果樹園でジャムづくりの過程で必要な種取りのための機械を150万円で購入し、それをNPOに貸し出しています。

  • 開業資金はどう集めた?

    NPO設立前に活動していた任意団体のジャム販売の収益から30万円、山梨県の地域活性活動への助成金から30万円。ちなみに2年目には私たちの活動が県から評価されて、助成金100万円を得ています。

  • 周囲の反応は?

    多くの農家の先輩たちは、「若い世代のやることは黙って見てよう」という雰囲気でしたが、中には「そんなにうまくいくもんじゃない」と思っていた人もいたみたいです。でも、雑音は気にせずに、いいと思ったことや、これはイケると思ったことはどんどん行動に移していきました。そして結果を出したからでしょう、今ではみなさん認めてくれているようです。

  • 不安だったことは?

    設立前からお客さんを確保していましたので、必要な量のジャムをしっかり確実に生産しなければいけませんでした。本当にできるだろうかと、多少は不安になりましたね。

  • 役立った情報源は?

    農家だけで凝り固まっていてはいけないと、商工会にも参加して、様々な業種の方たちと知り合うきっかけをつくりました。また、長野県の飯田市で農産加工品をつくっている地元では有名な「小池手造り農産加工所」には何度も見学させてもらいました。そこで見せていただいた加工品づくりの事例は大いに参考になりましたね。また、地域づくりにかかわるNPO同士の連携も同時に進めていたので、それぞれの活動に協力し合うことそのものが勉強になりましたし、情報源になりました。

  • 相談相手は?

    地域のほかのNPO仲間たちです。中でも山梨県の北杜市で活動しているNPO「えがおつなげて」が展開しているグリーンツーリズムの手法は、私たちにとってとても参考になることばかりでした。遊休農地を開墾して多品種の野菜を農薬や化学肥料を使わずに育てており、都会を中心に年間300人以上の農業体験者や研修者を受け入れています。今では、全国各地にファンのネットワークが広がっているんですよ。そんなNPOの仲間たちとは、お互いのイベント運営に協力し合ったり、助成金の申請方法や効果的な使い方を教えてもらうなど、なくてはならない相談相手となっています。

  • 独立して一番困ったことは?

    運転資金をどのように使っていくか、悩みましたね。何かひとつうまくいくと欲が出てきて、すぐに新しいことを始めたくなるのですが、みんなの了解を得るための話し合いが必要でしょう。それに時間を費やしてしまったために、考えていたイベントの時期を逃してしまったりすることもありました。ゆくゆくは別の会社を設立して、その会社の収益を今のNPOに寄付する構造がつくれないかと構想中です。資金に対する不安を払拭して、「コレだ!」と思ったことは、即行動に移したいですからね。

  • 独立して一番良かったことは?

    やりたかったことが次々に実行できていること。そして都会の方々に来てもらうことで、地域の人たちに、単なる農業ではなく人とのつながりを形成しているという側面を見てもらえるようになったことも。最初は、「NPOって何をするんだ?」と思われていたかもしれませんが、実際ににぎわっている農園や、遠方から来てくれるたくさんのお客さんの様子を見て、「そうか、ああいった取り組みがNPOなのか」と納得していただけることも嬉しいですね。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    やりたいことがあって、そのプランを考えた時、「この人に会ったら、その実現に近づけるのでは」と思う人に積極的に会いに行くことが大事だと実感しています。会ってみて、「その方法では無理だ」とか「難しい」とか言われても、それで一歩前進です。ではどうすればいいのかと考えるきっかけになりますし、次の新しいプランを考え始めることができるからです。私たちが販売しているものの中に「さくらんぼの種の保冷パッド」という商品があるのですが、これも商工会で知り合った方に会いに行き、相談したことで誕生したものです。捨てるだけだった種を、布でつくった袋に詰めて保冷パッドにしたものですが、これを冷蔵庫で冷やしておくと取り出した後も長時間冷えたままの状態が続きます。そのパッド用の布の縫製をどうしようかと、商工会の役員さんでもある縫製会社の社長に相談したところ、「それなら、加工はうちでやってあげるよ」と。これもふと思いついたことを口に出したことで、お互いの資源を提供し合うことになり、それが製品化に結びついた事例です。独立を思い立ったら、どんどん行動してほしいと思います。

設立
2005年6月

開業資金
60万円

活動者数
10人

年間総収入
900万円(2007年12月実績)

アクセス
http://npo-farm.com


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