はしもと・みゆき / 福島県出身。大学を卒業し商社に勤務後、家業の建築業を継ぐ。老舗建築会社が倒産する状況を見て転業を考え始める。ハウスクリーニング店に勤務後、独立した。休日はドライブやビジネス書を中心とした読書を楽しむ。
パートナーの品竹厚さんは、ハウスクリニーニングのFCオーナーとしての経験もある。現場は品竹さんに任せ、橋本さんが経営に専念できるよう体制を整えている
家業の建築業に将来不安を感じ、フランチャイズ(FC)に加盟して担当エリアを統括しながらハウスクリーニング業を経営している知人に相談したんです。それがきっかけとなり、家業から飛び出し、彼が経営する店舗の店長として転職。現場作業と営業活動の両方を体験したことで、ハウスクリーニングのノウハウを吸収することができました。また、「こんなメニューをつくれば、さらにお客さまが喜ぶのではないか」「こんなところに営業したらいいのではないか」といった改善点やニーズなども発見。将来、独立した時のことを考えながら、その仕事に取り組んでいたんです。
また、そこでは現在のビジネスパートナーである品竹厚との出会いも。当時、彼は同じFCチェーン店のオーナーをしており、現場での技術力は抜群。でも、営業活動が苦手。だったら、営業が得意な私と組むことで、営業力・技術力の両輪を備えたハウスクリーニング業が展開できるはずだと。そう考えて、品竹を誘ったんです。
オフィスは自治体が開設する「福島駅西口インキュベートルーム」。IT関連企業が多く入居するため、ネット活用法など入居仲間からアドバイスが得られるのも魅力
オフィスを構えるほどの資金がなかったことや、信用力を付けたいという思いもあり、福島県が開設しているインキュベーション施設に応募しました。しかし、入居するためにはビジネスプランを提出して面接を受け、それにクリアする必要があります。家賃月額なんと7000円、異業種の先輩起業家たちやインキュベーションマネジャー(IM)に相談できるこの場所は、私たちにとって最高の環境です。プラン内容はともかく、かなり熱い情熱を伝えたことが奏功し、何とか入居させてもらうことができました(笑)。
本当にインキュベーション施設に入ったことは大正解でしたよ。当初は個人宅を営業先に考えていたのですが、それではなかなか受注できず困っていたところ、IMから法人営業に切り替えてはどうかとアドバイスされたんです。それで不動産会社などに営業先を替えたところ、これがピタリとハマった。また、異業種の起業家からもWebサイトを開設する大切さも教わり、サイトを制作してもらいました。ここからも徐々にお客さまが増えていったんです。
不動産会社の依頼でハウスクリーニングを行うというと、下請け的なイメージが強いと思います。このままでは下請け体質から抜けられず、仕事の幅も狭くなると危惧しました。そこで、上下関係のないパートナーとして仕事ができるよう、ハウスクリーニングだけでなく、室内の修繕や改装といったハウスメンテナンスなども請け負うことで、マンション管理をワンストップで受けられるようにしました。
それができたのも、家業の建築業での人脈やノウハウがあったからこそ。現在ではさらにパワーアップし、室内の内装を古民家風やアンティーク調に変えるといったリノベーションも、ハウスクリーニングとセットで提案しているんです。家業で培った財産を生かしたことによって、競合との差別化を図ることができました。
三代目として家業の建築業を引き継いだのですが、周囲の老舗企業が倒産していく状況を見て、このままではダメだと飛び出し、ハウスクリーニング店に修業に出ました。ところが1年後に、その店は倒産。すでに経営ノウハウは熟知できていましたし、この事業の市場ニーズも確信していたので、自分で起業することにしました。
100万円です。作業に必要な道具類は持っていたので、洗剤などの資材と営業用の自動車購入費に充てました。ただ、運転資金を用意しなかったのが、痛かった……。
もともと、しっかり貯めるタイプでして(笑)。3歳の頃からお年玉などを貯蓄していたので、その一部を使いました。
みんな反対していました。家族も友人も、インキュベート施設に入居する際の審査担当者さえも(苦笑)。家族に対しては押し切ったかたちでしたが、施設入居の面接の際は「必ずやり遂げます。成長し続けます」という熱意を伝えて、なんとか納得してもらいました。
何もかも不安でしたよ。お客さまに受け入れてもらえるのか、食べていけるのか、自分のやっていることは間違っていないのか……。でも、考えているだけでは不安は払拭できませんからね。とにかく行動あるのみ! 掃除という掃除の現場はすべて体験し、オフィスではインキュベーションマネジャーや先輩起業家に何でも相談。そうやって事業を少しずつブラッシュアップすることで不安を払拭していきました。
お世辞抜きで『アントレ』です。そういえば、「インディペンデントコントラクター」という言葉を覚えたのも『アントレ』でしたね。ずいぶん勉強させてもらいました。あとは、やはりインターネットですね。現在入居しているインキュベーション施設もネット検索で見つけました。
ビジネスパートナーの品竹には、相づちを打ってほしいがために相談したり(笑)、経営者としての先輩でもある両親には、人との付き合い方などを教えてもらっています。また、インキュベーションマネジャーや、同じ施設に入っている異業種の起業家にもよく相談に乗ってもらっています。
開業後、半年間の資金繰りです。ホントにこの期間は自転車操業で、従業員に月額8000円の給料しか出せなかった月もありました。現在は法人相手で、修繕やリノベーションなどマンション管理に関わることもトータルで引き受けるようになりましたが、当初はハウスクリーニングだけ、しかも個人への営業が中心。1期目の引っ越しのオンシーズン直前の2月は、ほとんど受注が取れず本当につらかったです。運転資金を用意しておけば……と何度悔やんだか知れません。
お客さまに感謝されることですね。仕事をしてお礼を言われるなんて、こたえられませんよ! それに、勤めていた時と自分で起業してからでは、「ありがとう」の重みが全然違いますね。
自分の得意なことを生かして、できるだけ小資本で始めること。進めながら同時に策を練って、少しずつ事業を大きくしていけばいいんです。また、起業する際、「法人」か「個人」のどちらがいいのかという話がありますが、どっちを選んでも結局は「人柄」だと思っています。たくさんの人からかわいがってもらえる人柄かどうか。それが事業にも大きく影響するものです。人を大切にすれば、自分も大切にしてもらえますし、応援しもらえます。礼を尽くすことをどうぞ忘れないようにしてください。
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