はらだ・みつあき / 群馬県出身。高校卒業後、アルバイトを複数経験し、カー用品販売兼自動車整備会社勤務を経て独立。車検、整備、中古車販売などを扱う工場にはカフェスペースを併設し、自らの趣味でもあるアクアリウムを設置。それが女性客に大好評。
カフェスペースからは、ガラス越しに整備中の風景を見ることができる。緑が鮮やかな水草が植わったアクアリウムや、映像を映し出す大きなスクリーンも完備
いまだかつて、誰も思い付かなかったまったく新しいスタイルの自動車修理工場。それをオープンさせることを、カー用品の量販店に勤務していた頃から目標にしていたんです。工場にはカフェスペースがあって、そこはいつも空気がきれいで、水草を植えたアクアリウムで熱帯魚が涼しげに泳いでいたり、プロジェクターとスクリーンを設置して映画観賞もできたりと、夢はどんどんふくらみました。
そのカフェスペースですが、今はお客さまとコーヒーを飲みながら修理の相談を受けたり、整備が済むまでの時間をゆったり過ごしていただくためのスペースとして使っています。ですが、将来は本物のカフェをオープンしたいと考えているんですよ。そのために、工場よりもカフェスペースの準備に時間がかかってしまいました(笑)。自動車整備工場って、油くさくて、行くだけで服が汚れてしまいそうなイメージを持たれている人が多いじゃないですか。それとは真逆の、「へーっ、カフェかと思って入ってきたら、工場だったんですね」と勘違いされるくらいの空間をつくりたかったんです。
機械類は、一度設置したら動かすことができないため、作業工程に合わせて適切な配置を熟考。また工場内にゴミや油くささを残さないように、常に清掃を欠かさない
独立する前は、自動車整備も行うカー用品の大手量販店に勤めていました。子どもの頃から乗り物や機械いじりが好きで、大人になったらパイロットか航空機の整備員になりたいと思っていたのですが、やはり一番身近な車が現実的で手っ取り早いと(笑)。勤め始めた当初から、技術を身に付けて早く独立したいと考えていました。なので、勤務時代に自動車整備士や自動車検査員の資格も率先して取得。また、中古車販売もできるように古物商免許も取得し、独立の準備を進めました。
現在の建物を見た人から、「えっ、新しく建てちゃったの?」とよく聞かれるんですが、実は自動車整備工場だった建物を大改装したものなんですよ。というのも、自動車整備工場を営業する際の認可は建物ありきが前提なので、必ず認可が下りるとわかっている物件でスタートするほうが安心だと判断したんです。
最大のネックは、工場物件の取得費、建物の改装費、必要な機材を購入するための資金ですね。自己資金は限られていましたので、群馬県の創業者支援資金の融資を得るために、事業計画書を何度も書き直しては提出。融資が得られなかったらどうしようと不安になることもありましたが、何とか希望額の融資を獲得することができました。収支のシミュレーションでは、現実的な数字を導き出すことができたことなど、結果としてこの事業計画書づくりの作業が起業後にとても役立っています。
カフェスペースを併設したことで多少出費が増えましたが、お客さまに「アクアリウムがあったり映画鑑賞ができたり、こんな自動車整備会社、初めてです」と言っていただけるのが本当に嬉しいですね。近い将来実現しようと考えているのは、「自動車整備工場なんだけど、おしゃれなカフェもあって、観葉植物も販売するガーデニングショップもあり、さらにペットのグルーミングサービスなども提供する」などなど、そんな複合施設に進化させていくこと。そうすることで、老若男女、趣味の仲間や地域の人たちが自然に集まってくるようなスペースになればと、あれこれと夢実現に向けて計画を練っている真っ最中です。
高校生の頃から漠然とですが、独立して自分がやりたいことをやっている姿を心の中に描いていました。なぜだかわかりませんが、ずっと雇われたままという人生は想像できなかったんですよね。それで、自分がやりたいことは何なのかを確かめるために、高校卒業後はいろいろなアルバイトを経験。その後、昔から好きだった機械いじり、車に関する仕事で技術や経験を身に付けようと思い、自動車整備なども行うカー用品の量販店に就職しました。その時の目標も、「できるだけ早く独立する」でした。独立準備を始めてから、幸いなことに元・整備工場だった物件がすぐに見つかったんです。それが起業への一歩を踏み出すきっかけとなりました。
2600万円です。工場とオフィスの取得費と改装費に約1500万円、専用機材の購入に約800万円。残りは運転資金にしました。
2600万円のうち、2000万円は群馬県の創業者支援資金からの融資を得ました。600万円は会社員時代に貯めていた貯蓄です。
みんな「本当にやるのか?」と驚いていたようですが、「絶対やってやる!」という意志を固めていました。たとえ反対されるようなことがあっても、思いとどまるということはなかったでしょうね。事業計画書を作成したり、融資を得るために何度も県の信用保証協会に通ったりしているうちに、徐々に熱意を感じ取ってもらえたらしく、「やるなら若いうちだね」、「そこまで具体的に考えているなら今スタートすべき」と、家族や親せき、それに友人たちからも応援の言葉をかけてもらえるようになりました。
うまく集客できるかどうか、それが不安でした。オープンに当たって、たくさんのあいさつ状を出して、地元の友達や車を通じて知り合った仲間には、サクラじゃないですけど、にぎわいを演出するために駆け付けてもらいました。お祝いの意味もあったのだと思いますが、さっそくメンテナンスやタイヤ交換などを依頼してくれた友人も多く、それには本当に感謝しています。
正直な話、どこでどんな情報を得るといいのか、それさえもよくわからずに準備を開始したという感じでしたね。県の融資を得ようとした時、高崎市の商工会議所に相談に行ったのですが、そこで起業に関する基本的なノウハウを教えていただきました。たとえば事業計画書の作成方法や、どんな計画書にすれば融資が得られるのか、などなど。そもそも書類作成が苦手なんですが、わからないことは率直に聞きながら、コツコツと取り組みました。何しろ2000万円というお金は、20代の自分にとってはとてつもない金額じゃないですか。きちんと返済しなければならないので、こちらとしても真剣なわけです。それで「この若者、本当にやる気だな」というのが伝わったのかもしれませんね。
小学生の頃からの親友が会計事務所に勤めていて、彼に相談したことはたくさんあります。仕事柄、いろいろな企業の資金繰りや雇用の方法などを知っているので、「こんなケースがある」「こういう成功事例もある」と様々なアドバイスをしてくれました。また彼は、「基本は小さく始めて大きく成長させること」と言ってくれたのですが、自分はその基本に逆らっていますね(笑)。
昨今、自動車修理工場を新規で開業するケースが本当に少ないので、参考になる事例がほとんどなかったことです。また、これは困ったというより反省すべきことなんですが、広告宣伝費を確保していなかったんですよ。というのも、サービス内容や対応の良さなどが、紹介や口コミで広がることが一番の宣伝だと考えていたこともありまして、いまだに専用のホームページすらないんです(苦笑)。でも先日、思い切って新聞の折り込み広告を知り合いのデザイナーに頼んで作成してもらいました。その広告の内容についてはかなり真剣に考えました。カフェスペース、そこにあるアクアリウムや大型スクリーンのこともしっかりアピールした結果、チラシを見て来ましたというお客さまが予想以上に多くてホッとしているところです。
一人一人のお客さまに、「来てくれてありがとう」と、心の底から言えることですね。それが一番嬉しいんです。勤めている時もお客さまが来てくれるのは嬉しかったのですが、「この嬉しさは特別で、独立しないと味わえなかった」と、日々実感しています。
起業すれば当然、予想以上の高いハードルもありますが、始めたからには誰もがそれを乗り越えなければいけません。当社はまだ開業1年未満ということもあり、どんなことにも夢中になって取り組んでいますが、つらいと感じた時は「成長企業はいろいろなハードルを乗り越えたから成長できたんだ。だから自分もきっとやれる」と言い聞かせています。とは言いながら、実は細かいことが気になる性格なので、オンとオフの切り替えを大切にしています。休みの日は自分の素直な気分に逆らうことなく、一日中外で遊ぶ日もあれば、朝から晩まで家に引きこもっている日も。イヤな気分を引きずったままだと、きっとそれが顔や態度に出てしまうと思うんです。お客さまに不安感を与えてはいけませんからね。いずれにせよ、ある程度独立のイメージが描けているのなら、まず踏み切ることが大事だと思います。
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