先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


水上嘉寿也さんの写真

顧客の気持ちまで輝かせる
出張洗車サービス

洗匠社 / 奈良県葛城市
水上嘉寿也さん(36歳)

みずかみ・かずや / 大阪府出身。大学卒業後、家電量販店に8年間勤務。メタボリックシンドロームで体調を崩し、食生活と人生を見直し起業。当時150kgの体重は現在87kgに。特技はカロリー計算、パソコン。セレッソ大阪の熱烈サポーターでもある。

独立準備のがんばりどころ

病気をきっかけに、雇われない生き方を考えるように。まずは50kgダイエット

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コンプレッサー、高圧洗浄機、重さ20kgの水タンク4個、特殊溶剤、塗装にやさしいムートンなどを専用車に積み込んで出陣。電源や水道がない場所でも洗車OK

今思うと、昔はすごい量を食べていました。回転寿司で35皿食べた記録があるし、太る人の法則どおり、夕食は仕事を終えた夜10時以降だったし、高カロリーのフライドチキンやコーラも好きでした。勤務先の新店舗の立ち上げで、まぁそれで疲れているとは思っていたんですが、急に朝起きられなくなって。それで病院に行ったら、高脂血症と糖尿病と高血圧の合併症で入院の一歩手前の状態で、医者から「長生きできないよ」と言われてしまったんです。当時の体重は150kg。肥満によるメタボってやつです。死ぬのはイヤだったんで、朝晩ウォーキングして、食事もカロリー計算して1日1500kcalに抑えて。病気発覚前は1日平均3500kcalくらい食べていたので、最初の2週間は腹が減ってつらかった?(笑)。でも徐々に慣れてきて、1年目で30kg、2年間で50kgの減量に成功しました。今は高校生の頃の体重です。

このままじゃいけないと、休職している間、将来のことを考えました。当時、知り合いの車を洗車したのですがすごく喜ばれたし、車がきれいになると自分の気持ちまで輝いて気分が良くなったんですよ。手洗いの洗車サービス事業で起業したらどうだろうと。でも、ただ車をきれいにするだけじゃなく、より喜ばれる付加価値を付けないと差別化が難しい。それなら、電源も水もこちらが持参して洗車する出張サービスはどうだろう。これならお客さんに手間をかけないから重宝されるはずだ!と考えたんです。

仮説・実践・検証を繰り返して独学で修業。半年間は無料で100台以上を洗車

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持参したタンクから水を吸い上げる高圧洗浄機でまずは砂やほこりを洗い流す。コースは手洗いムートン洗車とオリジナル匠美コートの2種類。年間契約もあり

体力が戻ってからまず取りかかったのは、プロならではの洗車技術を取得すること。これはもう試行錯誤の繰り返しでした。車は好きでしたし、たまに自分で洗車することもありましたが、それは単なるど素人なわけです。ネットで調べたり、車の専門誌や雑誌、本などを乱読して、機械洗車と手洗い洗車の違い、洗車業者の仕事ぶりも偵察に行きました。

洗車のプロ養成学校が東京にありましたが、僕は自力でやろうと決めたんです。あらゆる溶剤や道具を試して、鉄粉・水あかの除去、汚れの予防とボディーのリカバリー、ツヤ出しにもとことんこだわり、自分で仮説を立て、その後実行、チェックする。これら作業を何度も何度も繰り返すわけです。準備期間中はほぼ毎日、知り合いに頼んで、無料で洗車をさせてもらいました。半年間で100台以上をこなした頃、洗車させてもらったカーオーナーの反応と自分の洗車技術への満足度で、これならいけると判断。奈良県、大阪府、兵庫県の一部までを出張エリアとして開業しました。

柔軟な対応とパソコン知識を駆使し、こだわりの手洗い出張洗車の魅力を広報!

本当に車が大好きな人って他人に触られるのはイヤですし、車が汚くても気にしない人もいる。まず、気にする人をどう見つけるか。それが今も課題です。今はほとんどネットからの依頼ですが、開業当時はポスティングしても反応がないし、クチコミもある一定以上の幅が広がらなくて悩みました。まさか、スタンドで洗車している人に声をかけるわけにはいきませんしね(笑)。

僕自身、営業電話を受けるのはイヤなので、自分がされてイヤなことはしません。僕は「あっ、今日散髪したい」と突然思うほうなので、お客さんの中にも、車の汚れが突然気になる人もいるんじゃないかと。先の予約を埋めることにこだわらず、急な依頼もできる限り対応しています。そういう柔軟性も僕ならではかなと。洗車するだけじゃなく、プラスアルファの喜びや感動を与えていける存在になりたいですね。もっと“出張洗車”を身近に感じてもらえるよう今はせっせと種をまく時期だと考えて、これからもポジティブ思考で頑張っていきます。

取材・文 / 岡部 恵 撮影 / 笹木 淳

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    病気になって会社を半年休職している間、雇われない生き方を模索し始めました。もともと接客が好きだし、僕は自分のためより誰かのために尽くしたいタイプ。衣食住に関することで起業したいと漠然と考えていたんです。そんな頃に、知り合いのお宅に伺った時、車が汚れていたんです。奥さんに聞くと、「子どもが3人もおるから育児や家事で忙しくて洗車する暇がない」。「じゃ僕がやってあげます」と、洗車してあげたらすごく感謝してくれて。同じように困っている人がほかにもいるんじゃないかと。調べてみたら洗車業者はあっても、出張形式が少ないことがわかったんです。それでこのニーズはあると判断し、起業しました。

  • 開業資金は?

    200万円くらいです。出張洗車専用の軽バンは塗装も込みで100万円、洗車道具などで50万円、その他に備品や雑貨などですね。倉庫と駐車場は、家電量販店に勤めていた時のお客さんの知り合いに格安で借りています。奈良県で起業したのは、住居、倉庫、駐車場の賃料が大阪よりかなり安いという理由からです。

  • 開業資金はどう集めた?

    勤務時代の貯蓄を充てました。

  • 周囲の反応は?

    両親は「自分の人生だから好きなようにしい」と反対はしませんでした。病気になって実家に戻っていましたが、今はひとり暮らしなので僕の健康状態を心配しているようです。体はもうすっかり大丈夫なんですけどね。外食をせず、ほとんど自炊していますよ。カロリー計算が得意なので、食事内容にもかなり気を使っています。友人は、「なんで出張洗車してんねん?」と不思議に思っているみたいです(笑)。家電量販店に勤めていた時のお客さんで150kg時代の僕しか知らない方は、僕が起業したことよりも、「別人のようだ」と痩せたことに驚かれます(笑)。

  • 不安だったことは?

    洗車サービスで起業することを決めましたが、これで食っていけるか不安でしたし、今もお客さんをどう増やすかが課題です。開業前に無料で100台以上洗車モニターしましたけど、付き合いとビジネスは別ですから。固定客をある程度見込んでスタートしたわけじゃなく、まったくゼロからのスタート。クチコミ以外の初依頼があるまでの3カ月は本当に不安でした。車は必ず汚れるものですが、汚れを気にする人で、自分で洗車したくない人をどう探すか。独自の洗車方法を習得したのと同じように、仮説・実践を繰り返し、結果を見て、また仮説・実践を繰り返す。これしかないと思っていますし、自分でやるしかないですからね。

  • 役立った情報源は?

    ネットで探したWebサイトや、車好きな人が集まるネットの掲示板、車の専門誌や洗車のノウハウ本などです。洗車はこれだという絶対の正攻法はありません。これまで得た情報を自分であれこれアレンジして試してみて、いいところを抽出しながら取り入れてきました。でも一番役立った情報源は、何よりも自分自身の経験とお客さんからの生の反応です。

  • 相談相手は?

    家電量販店に勤めていた時のお客さんや、その知り合いです。僕は会社員時代、PCフロアの責任者で、パソコンのトラブルやサポートも担当していたんです。それで仲良くなったというか、かわいがってくださるお客さんがいて、起業する前にいろいろ悩んでいた時も相談に乗っていただきました。その方々も含め、今ではいろんなお客さんが大切な相談相手です。「年間契約があればもっと便利じゃないか」というアイデアを提案いただいたり。それですぐに年間契約のサービスを始めたんですよ(笑)。

  • 独立して一番困ったことは?

    手洗いムートン洗車のフルメニューの場合、だいたい40分くらいが平均時間ですが、汚れ具合によってはそれ以上かかることもあります。40分以上かかった時、「ていねいにやってくれて嬉しい」と思う人もいれば、「なぜ予定の時間内で終わらないのか」と思う人もいる。同じようにきれいに仕上げても、お客さんによって受け止め方が違うんです。お客さん個々の要望を察する必要を感じましたし、汚れ具合によっては事前に「少し時間がかかりそうですが、この後すぐにお車を使われるご予定はありますか?」と聞くようにしています。それと、初めて訪れる時は電話で現場の状況について聞きますが、やはり行ってみないとわからないんです。臨機応変な柔軟性がより求められるサービスだと思うし、それは自分の得意でもあるので、初回は特に“自分との闘い”と思って臨んでいます。

  • 独立して一番良かったことは?

    喜んでいただけることが一番です。きれいになると僕も気持ちいいし、お客さんも気持ち良くなっているのがわかる。お客さんの車も気持ちも輝くんです。家電量販店に勤めている頃、僕は店で売り上げNo.1でした。もし今復帰すれば、もっと売れる自信があります(笑)。起業してみて、お客さんのために役立つ提案がもっとできるようになったと思うから。喜ばれる営業とは何か、より深く考えたからでしょうね。もちろん、戻る気はないですよ(笑)。それに今は店で待つのじゃなく、こちらから出向くわけですから関係もより深まるし、僕の意気込みも違います。自分の看板で、自分の責任で、お客さんに喜んでもらえて、しかもお金までいただける。それが何よりです。今は、自分でやったことの喜びをダイレクトに感じるし、達成感も会社員当時とは質がまったく違いますね。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    僕の好きな言葉は、“打たないシュートは入らない”。サッカーでよくありますが、ゴール前でフリーになってチャンスなのに、躊躇してパスを出す選手がいるじゃないですか。打てる時は迷わず打たなきゃアカン。チャンスも同じだと思うんです。僕の場合は病気がきっかけでしたが、人生を考えるタイミングなんて、そう何度もないでしょう。悩みも不安も迷いもあるけど、何らかのサインだし、これはひとつのチャンスだと。たとえシュートを打ってゴールに入らなくても、次につながると思うんです。たとえば、僕の場合でいうとポスティングもそう。この地域は配ったけど反応が薄い。それがわかっただけでも意味があるわけです。だから何かに失敗しても、自分があきらめなければ、今日の行動は明日につながる。無駄なシュートはない、打っただけの効果はどこかにある。だから、シュートを打つべきです。もうひとつ、アメフトのコーチが言っていた言葉を紹介しておきます。“ノーペイン、ノーゲイン”。楽して勝てる試合はないってことです。

開業
2007年10月

開業資金
200万円

従業員数
1人

年間売上高
実績なし

アクセス
http://www.sentakusya.com


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