やべ・ちょうしょう / 埼玉県出身。7歳から書道を習い、22歳で書道師範に。会社員の時に書道の魅力を再認識。週末起業し、後に正式に独立。受賞歴多々。国内外でのパフォーマンス書道の公演を中心に活躍中。洋裁も特技。趣味は旅行、ドライブ。
書耕から、題字・商用ロゴ、パフォーマンス書道、さらに映像の監修や演出まで幅広い分野で活動中。多忙な合間をぬって日々、臨書練習や創作には余念がない
書道を習い始めたのは小学2年生の時でした。同級生から「習いごと何している?」と聞かれて、何もしていないと答えたら、「後れている」と(笑)。何でもいいから習いごとがしたくて両親にお願いし、自宅から一番近いお習字教室へ。その後、エレクトーンや英語教室へも通いましたが、長続きしたのは書道だけで、25歳まで教室に通っていました。22歳の時に書道師範を取得しましたが、書道の先生は年配の人の仕事というイメージがあったので、自分で教室を始めるのはずっと先の将来のことだと思っていたんです。
それが大きく変わったのは、出版社に転職し、習いごとの情報誌の編集の仕事をしていた会社員時代。27、28歳の若い女性が「独立して教室を運営しています」という記事を読んで、あぁ、若くても書道教室やってる人いるんだ!って(笑)。ちょうど取材で書道学校へ行く機会があって、そういえば私もいつか書道教室をと考えていたのを思い出したんです。もう一度、本腰を入れて書道の勉強をしたくなり、仕事で行ったのに入学申込書を出して帰ってきました(笑)。その年に、これまでの書道人生を覆す出合いもありました。とあるカフェに飾られていた書を見て感動したんです。書ってこんなに人を感動させる力があるんだと。気づくのが遅いんですけどね(笑)。改めて、人に想いが伝わる作品を書きたい、そう思った途端に、自然と感覚が研ぎ澄まされたのかもしれません。
児童から大人を対象に「眞墨書道教室」も運営。生徒数は約50人。この日は小学生のクラスで、開始前に手本を書く姿を子どもたちが熱心に見つめていた
会社員を続けながら週末に書道学校へ通い、1年半後に卒業。授業料には教室の看板代金も含まれていたんです。せっかくだからと、その看板を自宅の玄関に飾っていたら、近所の方から「うちの娘に教えてほしい」と。それが週末起業の始まりでした。看板の威力ってすごいなぁと思いましたよ(笑)。
その後、書道教室のサイトを立ち上げるために、パソコン教室にも通いました。でもこれはHTMLの基本を学んだ程度で挫折(笑)。取りあえず、ブログだけを始めたんです。実は当時、結婚を考えていた彼がいたのですが別れることになって。その反動もあって(笑)、書で頑張ろう、ブログには書道のことを綴ろうと。計算外でしたが、このブログはとても役に立ちました。ネタをあれこれ考えているうちに、自分の気持ちがどんどん整理されていったんです。ブログを書くことで書への思いが明確になる、自分がやりたいことが具体的に浮かんでくる、コメントにまた励まされる。ブログを見た人からの仕事依頼も徐々に増えていきました。
教室を始めてから1年2カ月は会社員も続けていましたが、仕事も生徒数も増え、30歳になる節目の年に意を決し、退職して正式に独立。でも、最初の3カ月は仕事があまりなく、制作に没頭しました。実は独立する前に実績をつくりたいと焦って、賞狙いの制作をしてしまって……。結果は大賞を取れずに候補止まり。
展覧会で切羽詰まった自分の書を見て落胆。こんなものが書きたかったんじゃない、と悲しくて。しばらく筆をもつ気にもなれませんでした。その後、師の激励によりもう一度、制作過程を楽しみながら気負わず書こうと、約2×7mの初めての大作に挑戦した結果、最高賞に選ばれたんです。とても謙虚な気持ちで、受け止めることができました。その3カ月間は、振り返れば自分との闘いでしたが、この経験があったからこそ今がある。この原点を常に忘れず、書の魅力をたくさんの人に伝えていきたいです。
一番の大きなきっかけは、カフェで見た書に泣きそうなくらい感動したことです。それまでの私は、展覧会で素晴らしい作品が並んでいても感動したことはなかったし、書道は「上手に書くもの」としか思っていなかった。感動したその作品は、言葉も自由で、今まで私が見たことのない形式で飾ってあったんです。この出合いがなかったら、私は普通の書道教室経営者として終わっていたかもしれない。今のような書道家としての活動はしていなかったと思います。週末起業で教室を始めた後、会社を辞めて正式に起業した理由は、やはり生徒を預かることにも仕事にも責任を感じていましたし、会社員との両立が難しくなってきて、中途半端ではダメだと。それと、ブログを書くことによって自分の夢が明確に見えていましたし、30歳までに手に職をつけて独立するという目標が、私の背中を後押ししてくれました。
特にないです。週末起業を始めることになった時も、あわてて自宅の倉庫を片付けて教室にしたんですよ。テーブルは自宅の客間用の卓を持ってきて(笑)。なので費用はいっさいかかっていません。その後、徐々に必要なものをそろえて、ここ3年間の教室運営でかかったのは、タウンページやDMなどの広報費用で50万円、棚や机、資料などの備品で50万円、Webサイト制作で50万円、計150万円くらいです。もっとさかのぼれば、会社員時代に通った書道学校で120万円、パソコンスクールで10万円です。その他にも自己投資として書籍を数百冊読んだり、起業セミナーなどにも随分参加しました。
開業資金はゼロです。自宅の倉庫を教室にしましたし、今はアトリエとしても使っています。開業資金がかからなかったのは助かりました。正式に起業した時、退職金も見込んだ私の貯蓄額は100万円もありませんでしたから。なのに退職直後、作品制作に全額使ってしまいました。後先考えてませんでした(笑)。会社員時代に通っていた授業料はその当時のお給料でまかなっています。
25年以上書道を続けてきましたが、友人や会社の同僚は皆、趣味で書道をやっていると思っていたようで、とても驚いてましたし、今は応援してくれています。両親も反対はしませんでしたが、仕事よりも結婚してほしかったみたい(笑)。週末起業の時からブログを書き始めていたので、いろんな人が応援してくれましたし、それがまた励みにもなりました。ブログを見た人から初めて命名書の依頼を受けて納品した時、とても喜んでくださって、それがとても嬉しかったです。それまで私にとっての書は、自己満足、自己完結なだけだったので、お客さまが私の書を気に入って指名してくれ、喜んでくれたことは何よりも自信になりました。仕事はほぼ100%ブログかWebサイトからの依頼でした。今はクチコミが多くなりました。普通はクチコミが先でしょうから、逆ですよね。ブログの力はスゴいですね(笑)。
あまり感じませんでした。それよりも、楽しみでしょうがなかった(笑)。ブログを書くことで、自分の気持ちが整理されていったので、夢ばっかり膨らんじゃって(笑)。「こんなことしてみたい!」とか、「どうしていいかわからない」などと夢や悩みを書き込むと、「それならこうしてみたら?」とアドバイスをいただくことも多かったです。会社員を辞めて正式に起業した後も、「もしダメでも、正社員じゃなくバイトしながら書を続ければいい、好きな仕事で生きていく」と、気負わずいこうと決めたのが良かったのだと思います。
本を読んだり、セミナーに参加していろんな人の話を聞いたり。またそこで知り合った人脈も貴重な情報源ですね。起業を目指す人向けのセミナーにもよく参加しましたし、そこで知り合った先輩方がセミナーを行う際には、運営のお手伝いもしました。当時はそんなに早く自分が起業するなんて思っていなかったので、ただ単に、会社員の私にとってそういう世界が新鮮で、話を聞くのが楽しかっただけなんですけどね(笑)。でも人に会って、勤務先の名刺ではなく、書道家として自分でつくった名刺を渡す、これだけでも着実に一歩一歩前進していたのだと思います。
週末起業当時はセミナーで知り合った仲間が主な相談相手でした。あるイベントの仕事をご一緒したのがきっかけで、現在はある大手企業とマネージメント契約を結び、イベント部門のコーディネートをしていただいています。今の相談相手は主にこのコーディネーターかな。イベント以外の依頼は、今も直接私が受けていますが。これまではイベントの問い合わせがあっても受注につながらないこともありましたが、やはり専属のコーディネーターのおかげで信用度が上がり、仕事が決まりやすく交渉もスムーズになりました。何よりパフォーマンス書道の公演などの場合、会場の下見やスタッフとの打ち合わせが何度か必要となります。私は教室の運営もしていますから、準備を任せられるのは助かります。それに、私は面白い仕事はタダでもやりたいと思ってしまうけど(笑)、ちゃんとビジネスとして交渉してくれるので頼りになります。
特にありません。しいて言えば、ぎっくり腰になったこと(笑)。正式に起業した後、原点に戻ろうと挑んだ展覧会は、約2×7mもある大作だったんです。大きな紙を床面に敷いて、中腰のまま一気に2、3時間かけて約600文字を書くので、途中で休憩もできません。そのための練習を2カ月続けていたので、無理がたたったんでしょう。それで展覧会の後にぎっくり腰になってしまいました。もう大丈夫ですけどね(笑)。
やったことが全部、自分の実になること。経済的にも精神的にも自立できたこと。出会いが広がったことです。それと、ある程度時間を自由に使えることが嬉しいですね。ただ、独立前はもっとたくさん書作時間が取れると思っていましたが、仕事の依頼が思ったより多くて、休みが取れない程。ちょっと嬉しい悲鳴です。
動くこと、一歩踏み出すことです。何かをやりたいと思ったら、取りあえず思い付いたことから始めてみることです。ひとつ動くと次にやるべきことが見えてきます。誰だって、初めからやるべきこと全部は見えませんからね。初めの一歩のために、まず小さな目標を期限付きでたくさん書き出してみることがおすすめです。それを素直に、ひとつずつ実行していく。勇気はいるけれど、できる一歩をまずは踏み出さなければ、何も始まりません。私はかつて自己啓発の本をたくさん読みましたが、私は読んだことで満足してしまって(笑)。それよりも、外に出て、セミナーに参加したり、人に会うほうが何倍も啓発されましたから。もし失敗しても経験となります。臆することなく何度でも挑戦してみてください。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報