先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


みやざき あゆみさんの写真

絵とセラピーで
人と人をつなぐアーティスト

ATELIER LEAF NOTE(アトリエ リーフノート) / 兵庫県相生市
みやざき あゆみさん(35歳)

みやざき・あゆみ / 兵庫県出身。元相生市役所職員。アスファルトを突き破ったど根性大根“大ちゃん”の絵本づくり経験を機に独立。イラストやデザインなどの制作、絵画教室の講師のほか、アートセラピーやカラーセラピーが体験できるアトリエも運営。

独立準備のがんばりどころ

アスファルトを突き破り成長した大根の“大ちゃん”。その絵本づくりが契機に

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絵本『がんばれ大ちゃん』と『もっとがんばれ大ちゃん』。折られてしまった瀕死の“大ちゃん”が、復活して子孫を増やすという事実をもとに、ストーリーをみやざきさんが考案

テレビや新聞でたびたび報じられたのでご存じの方も多いと思いますが、この相生市で、アスファルトを突き破り成長した大根の“大ちゃん”の絵本をつくることになったことから、にわかに人生が騒然としてきました。最初は市役所の職員としての業務でしたが、1冊目が予想以上に好評で、その続編として2冊目を出すことになり、それができ上がった時に独立を決意しました。

といっても、その騒ぎにただ乗じたわけではなく、子どもの頃から絵を描くのが好きで、短大でもビジュアルデザインコースに進み、「いつかは絵を描くことと、それに関連した仕事をやってみたい」と、常々考えていました。また、市役所勤務時代に、休みの日を使ってカラーセラピーやアートセラピーのスクールに通って資格を取っていたので、絵とそれらのセラピーを融合させることで、こんなことができそう、あんなことも面白そうと、いろいろな考えを巡らせていたんです。

開業当初から絶対に用意したかったアトリエ。条件はアクセス良さ&駅の近く

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『こども絵画教室』では、こうしよう、ああしようと指導せず、好きな色を使って思いのままに描いてもらうようにしている。子どもたちの絵から気づかされることも多い

でも、“大ちゃん”の出現とその人気が、私にとって願ってもいなかったチャンスだったことは間違いありません。2冊の絵本をつくり上げたことが自信につながり、「さあ、いよいよやりたかったことにチャレンジするぞ。“大ちゃん”みたいにど根性でやってやる!」と決意できたわけですからね。市役所の職員を辞めたのが2007年の1月末で、4月1日を開業の日と決めていましたので、準備期間は2カ月でした。

すでに画材やカラーセラピーの道具はそろっていましたが、どうしても用意したいと思ったのがアトリエとして使う空間です。その条件は、絵を描きたいという人や、セラピーを体験してみたいという人など、お客さまが集まってきやすいアクセスのいい立地。また、私自身も、大阪や名古屋など、セラピストを対象にした研修会に通うためには駅の近くが好都合ということもあり、必然的にJRの相生駅のすぐ近くということに。これは本当にラッキーだったのですが、インターネットで検索してみたら希望どおりの空き物件があり、すぐに問い合わせて見せてもらい、即決で契約できました。

待つだけでなく、自分から積極的に行動すれば、人と人がつながって仕事も広がる

独立して間もなく丸1年ですが、この1年間も試行錯誤の連続で、私にとっては準備期間の続きだったと思っています。自分で言うのも何ですが、それまでの仕事の中で、経済の動きなどに深く関わることもなかったので、世間のことをあまりにも知らなかった自分を思い知らされることもたくさんありました。出ていく金額を見て、「収入より出費が多い。経費ってこういうことだったのか」と、独立後に理解したくらいです。また、最初はなかなかお客さまが集まらなくて、愕然とまではいきませんが、「やっぱり現実は厳しい」と実感しましたね。

そこで、「アトリエで待っているだけではいけない。自分から出ていこう」と、積極的に行動するようにしたんです。直接人と会って話を進めていくことで、古書店を兼ねたカフェでの出張イベントにつながったり、姫路市のカルチャーセンターでの講師の仕事にもつながったり。さらには、「絵本づくりをするので、生徒の前で話をしてほしい」という学校からの依頼など、今でも“大ちゃん”のことで私を知った方から声をかけてもらっています。そういったご依頼にできる限りお応えして、どんどん人とのつながりを持つことこそが、仕事の広がりに直結していくのだと思っています。

取材・文 / 田村康子 撮影 / 安田行宏

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    やはり“大ちゃん”の絵本づくりで自信を付けたからこそ、独立への決意が生まれたのだと思います。それに、“大ちゃん”を応援してくれる地域の人たち、取材で駆け付けてくれたマスコミの人たちなど、大勢の人との出会いが、私の心の中にあったいろいろな気持ちを刺激してくれたこと。それも大きいですね。また、退職直前まで所属していた「まちづくり推進課」での仕事を通じて、NPOなど地域を活性化させるために動いている人たちの活動に触れる機会が増えて、皆さんが夢中で取り組んでいる姿に感心すると共に、「私も、あんなふうに夢中になれる仕事をやるべきだ」と。当然、「安定した公務員を辞めてまで」という声も聞こえてきました。それもわかるんですが、そこでとどまってしまったり、その声を気にしていては前進できませんから。今が人生最大のチャンスとばかりに、「えーい!」と踏み切ったんです。

  • 開業資金は?

    約100万円を用意しました。アトリエ用の部屋を借りましたので、その物件取得費と、そこで使うテーブルセットや本棚など、開業時に合計で50万円ほど。残り50万円を運転資金にしました。

  • 開業資金はどう集めた?

    公務員時代に少しずつ貯めた貯蓄です。

  • 周囲の反応は?

    びっくりするくらい周りの人たちが応援してくれました。それも“大ちゃん”のおかげです。新聞などで、「あの“大ちゃん”の絵本の作者が独立して……」と報道いただいたことが本当に影響力があって、街を歩いていると知らない人までが、「みやざきさんですよね。頑張ってください!」と声をかけてくれました。両親や夫は、もともと得意分野の絵を通じて仕事をしていきたいという私の気持ちをよくわかっていてくれたので、まったく反対しませんでした。反対どころか、絵本のことで、周りから褒められることが多かったようで、独立してやってみると告げた時から応援してくれました。

  • 不安だったことは?

    今になって多少反省しているのですが、正直言って、何が不安かなんてあまり考えなかったんです(笑)。ただ、アトリエを開設した直後、地域のフリーペーパーに、「カラーセラピーやアートセラピーをぜひ体験してみてください」という広告を出したのですが、それに対する反応がゼロだったことは少しショックでした。きっと、「カラーセラピーって何? アートセラピーって何?」と、何だかよく伝わらなかったのだと思います。その後、少しずつお客さまが増えていき、体験された方々がクチコミで広めてくれました。その経験から、まずはサービス内容を具体的に知っていただくこと、そこから実際の評価や評判が生まれ、人から人へと広がっていくことの大切さを実感しました。

  • 役立った情報源は?

    カラーセラピーやアートセラピーを勉強していた頃に知り合った仲間たちです。教えてくださった先生を中心にネットワークができているのですが、お互いに情報交換するだけでも気持ちのうえで支えになりました。今でも、大阪や京都、それに名古屋までも、研修や交流会がある時にはできるだけ参加するようにしています。また、情報源という意味からは多少ずれるかもしれませんが、仕事に使う特殊な画材など、普通の文具店では売っていないようなものはインターネットで探して購入しています。自分でデザインした名刺も、データをメール送信するだけで翌日には印刷されて配達されるなど、インターネットのありがたさを実感しています。わざわざ都市部まで出かけて手配するとなると、時間や交通費など、いろいろな浪費につながりますからね。

  • 相談相手は?

    独立して何かやっている人が身近にいなかったこともあり、特別な相談を誰かにすることなく開業してしまいました。今考えてみると、誰に何を相談していいのか、それさえわかってなくて、かなり無謀だったことも否めません。ひとつ、それは相談というつもりではなかったのですが、友人でSOHOといいますか、自宅でデザイナーをやっている人がいるので、遊びに行った時など何げない会話を交わしながら、「独立して仕事をやるって、こんな感じなのか」と想像を巡らしたりはしました。その友人は、忙しいとアルバイトを雇っているくらいの充実ぶりなので、「私もいつかは……」と、励みになったことは確かです。

  • 独立して一番困ったことは?

    恥ずかしながら、収支計画をあまりにないがしろにしていたことに自分で唖然とすることの連続でした。はっきり言って、自分は経営者なんだということを自覚したのは独立して少し経ってからです。たとえば、支出といえば家賃と水道光熱費くらいしか考えていなかったので、移動のための電車賃やガソリン代がどんどんかさんでいくことなど、出ていく出費の多さを知って初めて実感しました。私の場合、当面の生活には困らないという状況だったから慌てずに済んだだけ。独立後の収入が生活に直結している場合は、絶対に私の無謀さを真似しないで(笑)。

  • 独立して一番良かったことは?

    自分が好きなことをやっているという事実と、それを喜んでくれる人がいるということに対する嬉しさ、感謝の気持ち。また、絵を描いて楽しむという活動を通じて、いろいろな人に出会え、いろいろな新しい発見があることです。特に、『こども絵画教室』に来てくれる子どもたちの絵には、毎回、「へーっ、そんなことまで考えているのか」と驚かされることの連続です。たとえば、「自分がやってみたいお店屋さんの絵を描いてみよう」というテーマで自由に描いてもらった時ですが、文房具屋さんの絵を描いた子が、店の前に立てる看板まで描いて、そこに「安い文房具屋」と(笑)。私より経済を考えているというか、その感性や観察眼にはびっくりしました。そんなサプライズが毎回あるので、もう元には戻れません。本当に独立して正解だったなと思います。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    私の場合、かなり無計画な独立ではありましたが、ひとつだけ間違っていなかったなと思うのは、チャンスや転機を逃さなかったことだと考えています。子どもの頃から絵を描くことが好きだったこと、さらに、市役所勤務の時代もいつかは絵を描く仕事をメインにしたいと思っていたこと。その思いに対して、「あっ、それって今だ!」と直感したことが独立への決意につながりました。また、“大ちゃん”がきっかけにはなりましたが、市役所の一職員でありながら、そのイラストを依頼していただけたということは、それまでも絵を描くのが好きなことや、機会があればどんどん描きますということを無意識にPRできていたんですよね。独立に当たって大きな資金が必要のない仕事だったこともありますが、やりたいことがはっきりしていて、それなりの構想もあり、かつ、今がチャンスという時が来たら、その勢いに乗って一歩踏み出すこと。その勇気を持つことはとても大事なことだと感じています。

設立
2007年4月

開業資金
約100万円

従業員数
1人

年間売上高
非公開

アクセス
http://leaf-note.jp/


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