先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


藤原聡司さんの写真

北欧文化とライフスタイルを
発信する専門店

有限会社Reindeer / 鳥取県米子市
藤原聡司さん(31歳)

ふじはら・さとし / 鳥取県出身。子どもの頃から考古学、ボランティア、国際貢献に興味を持つ。マウンテンバイクも趣味で、高校時代に中国大会で優勝。2008年10月、大山の1000坪の土地に100坪の北欧スタイルのカフェ&ギャラリーをオープンする予定。

独立準備のがんばりどころ

リスクを想定し、実店舗、Webサイト、卸しの3本柱で事業計画

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97カ国で特許取得した新時代の乗りもの「マジックホイール」。07年5月に偶然ネットで見つけてすぐにメーカーに交渉し、日本唯一の総輸入販売元に

過去何カ国か海外を旅して、唯一、日本より進んでいる地域だと感じたのが北欧諸国でした。会社員の時、旅行でフィンランドの国内線旅客機に乗ったのですが、なんと座席番号がないチケットだったんです。飛行中にオーロラが見えることがあるので、先に子どもに窓側の好きな席を選ばせて、空いた席に大人が座るという子ども優先の飛行機でした。その心豊かな発想にまずひかれたし、旅先でも多くのいい出合いがありました。

帰国後に、荷物になるので買わずにあきらめたものをネットで買おうと探しましたが、見つからない。さらに調べると、北欧はGDP(国内総生産)や福祉、子どもの学習能力、安全性の高い車など、多くの分野で優れていることを知りました。すでに日本では昭和40年代に一度、北欧ブームがあったことも知って、ブームは再来すると。ただ、株式投資をかじった時に学んだリスク管理の発想で、店舗、Webサイト、卸しの3本柱で事業を計画。将来いろいろ拡張できるよう定款の目的を幅広く設定して登記申請しました。

交渉すべきトップを見定めて、時間をかけず、無駄のない行動力でアタック

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起業のきっかけのひとつになった壁掛けワインラック。荷物になるからと現地での購入を断念し帰国後にネットで探すが出合えず。起業後に展示会で再会

北欧のメーカーから販売権利を得るのは難しい、まして個人では信用を得るのは難しいと判断。会社を設立したその日の夜に、東京にあるデンマーク大使館にメールして、企業を紹介してほしいとお願いしました。企業を一つ一つ回って交渉するより、商売をするうえで日本ではどこがトップかを考え、大使館だと思ったわけです。「自分がやりたいことが定まっているなら、直接トップと話せ」。これは、高校時代に生徒会長をやった経験から学んだことですね。話を通したいならトップへ、相手から反応があったら時間をかけずに次のアクションを起こす、つまり人を動かすにはどうすべきか、です。

メールを送った翌日、「一度、東京の大使館に来てみては」と返信があったので、明日伺いますとすぐ返信。その晩に急いで名刺をつくりましたよ(笑)。大使館でいろいろな企業を紹介してもらい、そのほかにも、ある程度の権限を持つ輸入元やメーカーの日本法人をネットなどで調べて積極的にアタックしていきました。

北欧と同じく自然豊か&人口の少ない山陰で、日本を代表する北欧の正規認定店へ

ここ山陰は人口が少ないので、まず知人ルートのクチコミで会社の存在を広めてもらうことから始めました。知人の紹介で聞き回るなりして、どんどん人に会っていくと、いろんな解決策が見えてくるんです。たとえば、今計画中の移転話もそう。北欧の文化やライフスタイルまで知ってもらうには、北欧と同じように、豊かな自然の中にショールームがあったほうが伝わりやすい。そう思って、知人やお客さんに相談していたんです。そのうち紹介で、ある建築家に巡り合え、場所を一緒にいろいろ探しているうち、大山の地主さんに出会うことができました。

地主さんに事業プランを提出し、GOが出て、今は資金集めの情報収集中です。普通なら、資金のめどを立ててから、土地を探して、設計士は、となるでしょうが、僕はまず、できることから始める。そしてトップに話を持っていく。これが、いつもの僕のやり方です。そのためにも人のルートをどれだけ多く持てるかが肝。どんな種類の起業・経営にとっても大切なことだと思います。

取材・文 / 岡部 恵 撮影 / 種田宏幸

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    漠然と将来を考えていた時に、たまたま北欧へ旅行したのがきっかけです。僕はボイラー整備士として9年間、会社勤めしていました。高給だし休暇も自由に取れましたが、危険な仕事なので、ある程度の年齢までしかできないだろうと。難関といわれる整備士の国家資格を取得した後も、特に待遇が良くなることもなかったですし。ネットで適正給与を調べても、これ以上は給与が上がらないとわかりました。自分が起業するなら、学歴に関係なくできること。毎年卒業生が世に出ない=ライバルが増えないこと。何かしらの権利が取れること、と考えていくと、海外と取り引きするビジネスはすべての条件に合致する。ここ米子は境港も近く輸入にも適していると判断し、決断しました。

  • 開業資金は?

    資本金は300万円です。実際に開業資金にかかった費用は210万円くらい。店の賃貸保証金で約20万円、商品の仕入れで160万円、内装工事は材料費で30万円くらいです。店の改装は1カ月くらいかけて、友人たちにも協力してもらい、照明やショーウインドーを自分たちではめ込みました。開業資金の210万円以外に、メーカー2社との契約金というか、事業開始準備金(販売権利・商品仕入れ含め)として、400万円ほどかかっています。

  • 開業資金はどう集めた?

    会社員の時から貯めていた貯蓄と退職金です。

  • 周囲の反応は?

    特に家族に反対されることはありませんでした。今までも自分の判断でいろいろ決めてきたし、僕は自分で見つけたものを自分の探求心の思うままにいろいろ調べたり、勉強したりするのが好きなんです。それと、海外の企業と取引するうえで、地方というハンデはほとんどないですね。日本国内から見れば米子は地方ですが、海外企業から見れば場所がどこだろうが、日本であることにかわりはないんです。取引先にとっては、「日本に正規認定店ができた」ということですからね。

  • 不安だったことは?

    危険がつきもののボイラー整備士でしたから、その仕事現場の命の不安に比べれば、起業することへの不安なんてありませんよ(笑)。高さ数十mもの現場に足場をつくり、60℃近い高温の釜の中へ安全帯を着けて入って、溶接をしたり整備・掃除をしたりする、いわゆる“3K”の中でもかなり危険な仕事でしたからね。独立後も、あらゆる側面からリスクを想定し、その次、その次の次の仕掛け、展開を考えているので、不安を感じる前にもう動き始めているんですよ。

  • 役立った情報源は?

    ひとつは、亡き祖父の愛読書で、昭和40年代に書かれた商店経営法の本です。祖父は青果店を3件経営していて、短波ラジオを聞きながら株などもやっていたんです。たまたま起業前に、法事で祖母の家を訪れた時に、何か参考になるものはないかと本棚を探していて見つけました。最近のビジネス書は精神論的な内容が多いですが、これは照明の明るさから、通路の幅、商圏の考え方など、とても具体的に書いてある。僕にとってはバイブルです。古いものから学ぶ、これは趣味の考古学から学んだことであり、楽しみでもあります。もうひとつの役立った情報源は、信頼のおける知人たち。その道のプロたちの生の意見です。

  • 相談相手は?

    役立った情報源とも重なりますが、独自の主観を持っている知人やその道のプロに相談します。具体的には、趣味である車のオーディオについて教えてくれるお店の店主もそのひとりで、今も何かと相談しています。この店舗を選ぶ時も、ほかに3店舗ほど候補地があって相談したのですが、「車利用者が多い地域だから、走行中に店を見つけやすいよう、進行方向の右側の店がいい」と意見をもらいました。ほかにもいろんな人に相談しますが、相談内容は漠然とではなく、自分なりに考えてから最終的な意見を請うようにしています。悩んだ時は、解決策を自分で見つけるのではなく、その道のプロに話す。じかに相談するのが一番いい。まず、その道のプロは誰かを探すことです。

  • 独立して一番困ったことは?

    これは僕の主観的な考え方なのでしょうが、何かトラブルがあってもあまりピンチと思えないんですよ。神様がいるとしたら自分にどこまで試練を与えるか、果たしてどれほどの試練か、逆にピンチを楽しめる性格なんです。困ったというか、寂しいのは、起業後に脳みそが違う方向へ成長してしまったこと(笑)。物事の判断基準、見方が変わってきたんですね。たとえば、おいしいものが大好きで、あちこち食べ歩きしていましたが、今は味とかじゃなく、店の企業努力とか、頑張っている店主とか、応援したくなってしまう。以前は絶対に行かなかったファミレスにも行くようになってしまった(笑)。きっと今、海外旅行に行っても以前のように単純に楽しめない、それが寂しいです。

  • 独立して一番良かったことは?

    人脈が何十倍にも増えたこと。社会的地位が確立できたこと。それと、人間らしい生き方ができていることです。人間も動物ですから、男女関係なく自然のリズムというのがあると僕は思うし、それを今実感しています。朝起きて体調が悪かったら無理はしない。朝から快適で頑張れそうだと思ったら思い切り頑張る。そういう自然のリズムで生活できるようになったので、ほとんど体調を壊さなくなりました

  • 独立を志す人へのメッセージ

    漠然と起業したいと考えているなら、今までの人生を振り返ってみることです。答えは自分の中にある。経験や趣味、好きなもの、ホッとする場所などなど、自分を知ることがビジネスアイデアにつながるし、経験を生かすことができればリスクも少なくなる。そして、そのために会うべき人、話すべき人は誰かを見極めることです。そういう人にコンタクトが取れたら、すぐに行動すること。もうひとつは、既存のルールに縛られず、手順を決めず、今できること、今やりたいことから始めてみる。そうすると、ほかのものも自然と動きだしますから。

設立
2005年7月

資本金
300万円

従業員数
1人

年間売上高
1800万円(2008年5月見込み)

アクセス
http://www.reindeer.co.jp


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