よこた・ゆきのり / 神奈川県出身。大学を卒業後、大手電機メーカーの技術者として勤務。事業部長としてSEの海外拠点を次々と設立する。定年後の起業では遅いと考え、早期退職制度を活用して独立。休日はもっぱら趣味のゴルフを楽しんで過ごす。
お客さまから運転代行の依頼が入ると、現場近くにいるスタッフがバイクで急行する。運転はスタッフに任せているが、忙しい時は横田さんが出動することも。愛らしいバイクは、街でも注目の的!
運転代行のふたり分の人件費やCO2排気量の削減を考えると、随行車の代わりに電気自転車を使うとか、四輪バギーを使って牽引する方法だとか……。様々な方法があると思うんです。ただ、移動距離や時間、都会の交通量を考えると、ほかに良策はないものかと。そう考えていた時に出合ったのが、イタリア製の折り畳みミニバイク「DiBlasi(ディブラッシー)」でした。
このバイクは、前職の仕事を通して行ったイタリアで見つけたのですが、もともとはセレブ用のおもちゃ感覚としてつくられたもの。というわりには、機能性も非常に優れていたんです。しかも、折り畳み自転車よりも簡単に折り畳むことができるうえ、旅行用スーツケースほどのサイズになるので、代行運転を頼まれたお客さまの車のトランクにスッポリ収まるわけです。このバイクでお客さまのもとへ駆けつけ、送り届けたらこれに乗って帰ってくる。これなら少量の燃料費で、長距離にも耐えられ、交通量の多い都会でもイケる。通常の運転代行より低価格のサービスが実現できるのです。さっそく大阪にあったバイクの輸入代理店の門をたたきました。
バイクはフックをハズすだけで折り畳め、専用ケースに入れて顧客の車のトランクへ。バイクは宅配便でも送れるため、出張先に持っていきたいという人の声に応え、販売も行っている
ところが、バイクは横に倒すと、微量ながらオイルが外に漏れることから、トランクに横置きで搭載するための配慮を最優先した対策(特許出願中)を行いました。また、大柄な外国人に合わせた設計のためハンドルの位置が遠く、小柄な日本人では運転しづらいことがわかり、日本人向けに可変式ハンドルに改良。業務仕様に向けた耐久性の向上のためにワイヤーやベアリング、ビスの一本一本も国産品を使い、何度も何度もテスト走行を重ねていったのです。
すると、出てくる、出てくる、問題が(笑)。神奈川県内は山や坂が多いので、天候の異なる日中と夜に何度も走行し、ブレーキの具合を調整したり、夏の暑さで膨張してしまったパイプを改良したり。代理店のある大阪と神奈川を何度も往復しましたよ。結局、満足のいくバイクが完成するまでに、5カ月かかりました。
一方で、信頼性やリピーター確保のほか、ミニバイクが搭載できる車かどうかの確認、お客さまご自身に「保険の重要性」をご理解いただくために、家族一括で入れる会員制度を考案。そして、夜、飲食店で飲酒した方の運転の代行だけでなく、日中のマダム同士のランチや「高齢化所帯」の通院や旅行時の臨時お抱え運転手としてのご利用も提案。「ドライバーズ・コンシェルズ」というコンセプトを掲げました。
この多様性が神奈川というエリアにマッチしました。マリンスポーツのメッカである湘南では、クルージングを楽しまれる方が、ヨットハーバーに長く駐車していると盗難・損傷に遭う危険性や駐車料金の高騰もあり、自宅に車を届けてほしいという要望が。また、お寺の多い鎌倉では、法事で檀家さん回りをする住職さんのお抱え運転手としての要望など、想定外のニーズが生まれています。飲酒運転撲滅や高齢者運転事故撲滅のために、少しでも多くの人にこのサービスを知ってもらうことで、事故率低下にも貢献していきたいと思っています。
もともと私は技術者(SE)なので、仕事柄、いかに無駄を省くかを大事にしてきました。お酒を飲んで運転代行を頼むことも多かったですが、車一台にふたりのスタッフが来る運転代行は、人件費もガソリン代も無駄ではないかと考えていました。もうひとつは、弟の部下が運転代行を頼み、運転手の手荒い運転によってダンプカーと激突して、亡くなってしまったことです。その運転代行会社は逃げてしまい、事件は迷宮入りです。そこから飲酒運転撲滅と、通常の運転代行業以外で利用しやすい安全な方法への思いが生まれました。そういった思いから、お客さまの社会的責任を守り、危機管理を手伝う「ドライバーズ・コンシェルズ」で起業しようと考えたんです。
約1000万円です。「DiBlasi」13台を購入して400万円。改良したバイクの特許の申請手続きや会社設立手続きなどで100万円。ホームーページ制作費や、スタッフの採用のために出稿した求人誌への広告費が60万円。オフィス回りのものを購入し、その残りが運転資金です。
年齢的な問題もありましたし、借金をしてまで起業したいとは考えていませんでし た。なので退職金の範囲内でまかないました。
会社の上司、同僚や部下はかなりビックリしてましたね。家族は「パパは言いだしたら聞かないから、家族に迷惑かけないならどうぞ」と(笑)。海外拠点をつくる仕事を通して、会社員時代の仲間や知り合いが世界中にいましたから、起業後は応援団になってくれましたね。お客さまとして活用していただくこともありますよ。
折り畳みバイクを活用した新しい運転代行サービスなので、「運転代行業法」の対象外になります。第2種免許の取得や公安委員会の認定(代行運転許可書)、安全運転管理者の配備は不要である一方、運転代行業向けの共済保険を適用することができないといったデメリットがありました。しかし、信頼の面からもお客さまに「運転代行包括保険」に入っていただくシステムにしなければ、この事業をしてはいけないと考えていましたから、保険会社数社に相談。何度も断られた時は、事業が実現できるのかどうか、非常に不安でしたね。最終的には、私の事業の意義を理解してくれた一大手保険会社と綿密に話し合った結果、ゴーサインが出ましたが、あの時はホントにヒヤヒヤしましたよ。
Webサイトでいえば、「アントレnet」や「ドリームゲート」は起業に関する情報を得るのに、非常に役立ちました。「ドリームゲート」では行政書士や中小企業診断士の方を見つけることができましたしね。経理や法務、税務なども自分でしますから、そういった情報を得るにはWebサイトがとても役立ちました。
前職のお客さまが集まるOB会があるのですが、そこに集まる方は大企業の役員レベルの方々。市場ターゲットや広報の方法やチャネルのつくり方などについて相談したり、お客さまを紹介していただけたこともありました。ただ、リサーチやマーケティングは自分ひとりでやりました。けっこう唯我独尊のところがありまして、私の事業を応援してくれている友人から、私が企画してつくったパンフレットがわかりにくいと非難ごうごうだった時は、しまった!と思いましたね(笑)。
ドライバーの採用でしょうか。神奈川県内でも葉山や逗子、鎌倉などの高級住宅街などは、大型の外国車も多いですし、様々な車を運転することになりますから、運転技術にたけた人でないと任せられません。夜の出動が多いため、副業の人もOKにしていることで応募はたくさんあるのですが、運転技術で私のメガネにかなう人がなかなかいなくて……。かといって、ここは絶対に妥協できないポイント。現在9人のドライバーがいますが、もう少し人数を増やしたいところです。
コンピュータが進化し、生活は便利になりましたが、その一方で、人間が頭で考える機会が減って、生き物として退化しているんじゃないかと思うこともしばしばで。コンピュータシステムをつくってきた技術者として、社会に責任を感じていました。ですから、今の事業は社会貢献の一環とも考えていますから、それを実践できているのは非常に嬉しいことです。また、これまでお付き合いのなかった有名飲食店の方とのつながりができ、人の輪が広がったことも喜びです。何より、自分自身が目標を持って動いているので、自分のボケ防止にもなって良かったな、なんて(笑)。
物事を始める時には、何にせよ課題は100も200もあるものです。だから、起業すると決意したら、壁にぶち当たっても、そこで挫折してはいけません。問題は山ほどあって当たり前なんですから、壁に当たった時こそ、プラス思考でいきましょう。また、マーケティングなどは机上で考えるだけではダメ。自ら現場で体験して初めてわかることがたくさんありますから、どんどん現場に出ましょう。それから、退職後に起業を考えている人は、必ず自己資金の範囲内で。いくら素晴らしいビジネスアイデアを考えたとしても、借金をしてまでやってはいけません。小さく始めて大きく事業を育てればいいんです。借金は軌道に乗ってから! 人生、定年後も長いんですから。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報