まつだ・じゅんこ/岐阜県出身。名古屋市での勤務後、ふるさとの飛騨に一時Uターン。豊かな自然や清涼な空気など、かつては何もない田舎だと思っていたふるさとに、かけがえのないものを感じる。サロンの開業に当たって、そのエッセンスをふんだんに取り込む。
施術中の対話も大切。疲れきっていたような表情が、施術を進めるに従って心地良さそうな笑顔に変わっていく。それをありありと感じた時が、まさに至福の時
実は、独立するまでに3つの職業を経験しているんです。大学卒業後は名古屋市にある進学塾で講師を務めていたのですが、その後、故郷の岐阜県神岡町役場(現在は飛騨市)の臨時職員として一時的にUターンしました。でも、また名古屋に戻るつもりでいたので、それまでに何か手に職をつけたいと考えるようになったんです。それで、資格取得のための情報誌を見ている時にピンときたのがリフレクソロジストでした。
役場での仕事をしながら、しかも飛騨にいながらでも通信講座で学ぶ手段があると知り、さっそく受講の手続きをして、約1年かけて日本リフレクソロジー協会の認定リフレクソロジストの資格を取得しました。せっかく取った資格なので、きちんと生かしたいと思って参加したのがリフレクソロジストやアロマセラピストなど、いわゆるセラピーを仕事にしている人たちの情報交換会です。
ふるさとである飛騨のものをふんだんに取り入れたサロン。明かりの具合や流す音楽、アロマオイルのほのかな香りなど、くつろぎ空間の演出にも心を配る
その情報交換会で紹介してもらったのが、全国各地のホテルの中にリフレクソロジーのサロンを出店している会社です。当初は役場勤めをしながら夏休みと正月休みにアルバイトとして携わりました。約1年後、その会社が新たにリフレクソロジーのスクールを立ち上げることになり、スクールスタッフとして誘われる形で正式に入社しました。しかし、 スクールが休みになる観光シーズンには再び各地のホテルに出向いて、大勢のお客さまへの施術をこなすという日々が続きました。
そのうちに考えるようになったのが、一人ひとりのお客さまと、もっときちんと向き合って施術ができたら、ということでした。そこで、「よし! 自分のサロンを持とう」と決心したんです。最初に始めたのが物件探し。住居兼サロンとして使えるものと考えていたのですが、サロンをやりたいと伝えると嫌がるオーナーさんが多くて……。
そうこうしているうちに、知人が起業家向けのインキュベーション施設を紹介してくれたんです。これが、受け付け代行もあるし、待ち合い用のサロンもあるし、思ってもみなかった好物件。お客さまの多くは女性ですが、想像以上に男性のお客さまが多いことに驚きました。ベンチャー企業も入居する施設の中にあるということで、男性にも「ここなら入りやすい」と思っていただけるからでしょう。もしマンションの一室で始めていたら、私自身としても男性のお客さまを受け入れにくかったので、この物件は大正解でした。
開業前に、地元の飛騨で商工会議所が主催する創業塾に参加するために毎週帰省していたのですが、デスクやソファなどの家具類は、その際に地元の家具屋を徹底的に回って、イメージに合うものをつくってくれそうな店を探し出しました。そう、“みずかがみ”という名前は、季節の移ろいを鮮やかに映し出す水のごとく、お客さまに清涼感と安らぎを与えるサロンでありたいと願って付けました。間もなくオープン3年目を迎えますが、その場限りのサービスでなく、生活全般の改善を提案できるように、自分自身で切磋琢磨していきたいですね。
一人ひとりのお客さまと、じっくり向き合って仕事をしたいという気持ちが独立への決意を確かなものにしたのですが、そこで、「本当に私がやりたいサロンってどんなサロンなの?」と、じっくり考えました。すると、それまでに漠然と考えていたことがよみがえってきて、「そうだ、私がやりたかったのは、音楽や照明、それに香りなど、五感が満たされるような空間づくり。コレだ!」と。そうとわかったら、自分が目指すサロンの形がどんどん具体化していき、独立のための行動へと結び付きました。
100万円弱です。あまりお金をかけずに物件の賃貸契約ができたことがラッキーでしたね。それに改装も格安でできたことでこの金額で済みました。もともとカーペット敷きの床だったのですが、木材の温かい感じを大切にしたかったのでフローリングの床材を張ってもらいました。それも知り合いを通じて材料費のみで。いろいろと協力してくれた方たちには、どんなに感謝しても足りないくらいです。
岐阜県神岡町の役場に勤めていた頃から少しずつ集めていた貯蓄です。
友人たちが「応援するから!」と嬉しい言葉をかけてくれたことは心強かったです。実家の両親は「頑張ってやりなさい」とは言ってくれたのですが、やはり少し心配している様子でしたね。独立して食べていけるのだろうかと思ったのでしょう。なんだか学生みたいな心配をかけてしまって……。「何かあったら相談しなさい」とまで言ってくれたので、ここはひとつ本当に頑張らなければ、と思いました。
やっぱり、本当にお客さまが来てくれるだろうか、ちゃんとした売り上げが立つのだろうかということです。そんな不安を察してか、人材派遣会社を経営している知り合いが、「自分の会社のチラシをポスティングする時に同時に配ってあげるから、あなたもチラシをつくりなさい」と。名古屋市の中でもターゲットとしている働く女性が多そうな、中区・東区・中川区でポスティングすることができました。ありがたかったですね。
名古屋でサロン経営者やセラピストの支援事業を展開している「セラポート」の谷口晋一さんが一番の相談相手です。セラポートが主宰する同業者の情報交換会でもたくさんの人と知り合うことができました。今でも谷口さんを初め、同じくリフレクソロジーのサロンを経営している人など、出会った仲間たちとは何かの節目節目で会って、お互いに情報を交換しています。
その同業者仲間たちとの何げない情報交換が、そのまま相談になっていますね。また、名古屋を初め東海地域の女性起業家応援プロジェクト「ウイメンズ ドリーム プロジェクト」にも参加したことで、様々な業種の女性起業家たちと出会えました。それぞれ職種は違っても、自分の経験や知識を生かして頑張っていこうという人たちとの情報交換は刺激にもなります。今年(2007年)の春、そのメンバーが100人集まって、『やりたい仕事で幸せになる! 名古屋女性・起業独立100の物語』(あさ出版)という本も出版したんですよ!
ひとりで経営しているので、当初、集客のためのポスティングなど、サロンでの営業以外に使う時間のやりくりをどうすればいいのか悩みました。せっかくファンになってくれたお客さまから、「電話がつながらない」などとクレームが出てしまうといけないですからね。でも、この物件が起業家向けのインキュベーション施設であるおかげで受け付け代行をしてもらえるので、短時間なら安心して外出することも可能です。運良くめぐり合えた物件ですが、ひとり経営なら受け付け代行のある物件はおすすめですよ。
独立前に働いていたサロンは観光地のホテルに特設されたサロンでしたので、訪れるお客さまとの関係はその場限りで、とても残念な思いをしていたんです。それとは逆に、自分のサロンに繰り返し来てくれるお客さまと密度の濃いお付き合いができることですね。「お元気ですか?」と手紙を送ってくれたり、旅行してきたからと、お土産を持ってきてくれたり。旅先でも私のことを思い出してくれるなんて、嬉しすぎてウルウルしてしまいます。
もちろん苦労も多いですが、お客さまの笑顔を見られた時など、「本当に独立して良かった!」と思います。それと、周りの人の協力や励ましがあるからこそ経営できているんだということを忘れたくないですね。今までの人生の中で、こんなに周りの人に感謝の気持ちを抱いたことはありません。また、つらい時は、「ここでとことん落ち込んでみよう」と、そういう気持ちを受け入れることも大事だと思えば楽になります。やがて、「ここからはい上がっていけばさらに強くなれる」という気持ちに変わっていきますから。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報