たきた・みつる / 北海道出身。独立前は函館市で人気の古着&セレクトショップに勤務し、常に売り上げトップを競う。今も地元でニューオープンの店があれば、自らのサイトで情報発信。地域活性化にも力を注ぐ、函館を愛する青年オーナー。
店名にちなんで"サンドカラー"でと発注した外壁だが、なぜか強烈なオレンジに。おかげで、路面電車の中からも注目してもらえるように
物件は、路面電車の通り沿いで、人の往来が多いデパートや大型商業ビル、あるいは観光名所の近くにと決めていました。不動産屋さんを尋ね歩いて、じっくりと見定めながら探すことにしたんですが、いい場所が予想以上に早く見つかって、本当にラッキーでした。ここは角地なので、信号待ちの人たちが店に視線を向けてくれますし、脇の道は函館一の観光地ともいえる五稜郭に続く道です。
20?30代の男性をメインターゲットにしたメンズセレクトショップなんですが、五稜郭が近いこともあって、修学旅行シーズンになると、観光のついでに店に寄ってくれる中高校生や女性のお客さんも多いですね。実はそれも見込んで、中高校生でも買える価格設定の商品をそろえたり、ユニセックスな小物などもたくさん置くようにしました。
スタッフは、以前の勤務先で信頼を寄せていた後輩。オシャレなものを売りながら、クールな態度でなく、和やかな笑顔を大切にしている
開業に当たって、一番パワーをつぎ込んだのがオープン告知です。それも何か面白いやり方はないかと、ちょっと頭をひねりました。それは、内装工事を自分でコツコツと進める間、シャッターを半分だけ下ろして、その下半分のウィンドウに、オープンを知らせるフライヤーをビッシリと張って、道行く人の気を引くという方法です。「あれ、何で半分だけ開いているんだろう? あっ、中で何かやってる」と注目してもらえるようにですね。
その狙いはバッチリ当たりました。へぇー、もうすぐオープンするんだという感じで、隙間からのぞいたり、フライヤーをじっくり見てくれる人も大勢いました。オープンしてから店の前にベンチや灰皿を置いたのですが、それも店の中までしっかりと見てもらうためです。
さらに、これだけはしっかり準備しておこうと企画したのが、オリジナルのショッピングバッグです。持ち歩いてもらうことで宣伝になりますからね。まず、雨の日でも入れたものが濡れないように、材質は厚手のビニール製に。そのサイズをLPレコードが入る大きさにすることで、音楽やファッションに敏感な人たちに訴えるようにしたんです。
商品を入れて渡す時に、「この袋は丈夫なので活用してくださいね」と伝えることもあるんですが、これなら温泉旅行にも持っていけると喜んでくれた自分の母親世代の人もいます。高校生が持っていると、体操着でも入れてくれているのかなと、うれしくなりますね。毎年のように新しいショッピングバッグをデザインしていますが、実際、街中で手にしている人もよく見かけます。それなりの経費はかかりますが、宣伝効果を考えると元を取ってるんじゃないでしょうか。
古着&セレクトショップで販売以外にも様々な経験を積んで、「これで自分も独立してやれるぞ!」という自信を実感したからです。接客は当然ですが、例えば数字に関しては、原価計算、仕入れ、売り上げ計算から決算まですべて経験させてくれた会社に感謝しています。さらに後輩スタッフのマネジメントや、彼らが入社や退職する際の雇用保険、健康保険などの手続きまで責任を持ってやってみろという会社でしたからね。
650万円です。
600万円は国民生活金融公庫で借りました。これは物件取得費や内外装費、仕入れのための資金と、当面の運転資金です。以前の勤務先での販売経験や、物件の立地のよさから、予想外にすんなりと融資してもらえました。また、自分の貯蓄からも50万円計上しています。これは運転資金としてイザという時に使おうと決めて取っておきました。
両親は大賛成してくれました。父は公務員で厳格な人なのでちょっと意外でしたね。「自分で決めたことなんだから、とにかく頑張ってやり遂げろ」と。それだけであれこれ言わずに見守ってくれている感じでした。自分としても何とかして結果を見せなければと拍車がかかりました。
とにかくショップはスタートが勝負なので、いきなり出鼻をくじかれたらどうしようという不安は常にありました。最初の1カ月から黒字目標で、売り上げ目標を150万円と決めて毎日頑張ったところ、それが達成できました。その、できた!やれるぞ!という達成感が、以後大きく影響したことは間違いないです。
仕入れや売れ筋などの判断は、自分の経験そのものが情報源でした。仕入れ先は、以前の勤務先で取引があったところにお願いしました。物件に関しては、Webサイトや情報誌などに書かれていることよりも、とにかくリアルだと思って、街中をくまなく歩いて探しました。特に意識したわけではないですが、じっと机上の情報を見ているだけということができなくて、自ら行動を起こしたのは結果として正解でした。
面と向き合った相談は誰ともしなかったのですが、友人たちとの歓談の際に、「内装はこうしようと思っているけどどうか」とか、「商品に関してどう思うか」とか、自然な形で意見交換ができたことが大きいですね。その友人たちが冗談で、「社長っ!」と呼んだり、「いよいよオーナーだ」などとおだててくれたことも、単純に励みになったような気がします。
すべては自分次第と思っていたので、困ったという感覚は特になかったです。しいて言えば、元日を除いて年中無休の店にする決意でいましたので、休みがなくなることがちょっとした不安でした。健康管理も責任のひとつですしね。それと、予測以上に準備が早く進められたので、失業保険を途中で返上しなければいけなかったこと。ちょっともったいないなという気持ちも(笑)。
自分の思いや意思で、すべてのものごとが決められることです。当然、売れ行きや流行の変動もありますので、次はどうすべきか、どんな戦略が必要かということも自分で決めなければなりませんが、そこで勝負できることもやりがいのひとつです。
不安が少しでもあるうちは、まだ独立すべきではないと思います。それと、開業資金など、借金をする金額は絶対に月々の返済できちんと完済できる範囲にとどめることですね。それは、もし失敗して会社員に戻っても、給料から返済できるかどうかもしっかり計算した上で。それくらい慎重になって、不安を残さずに開業してほしいです。
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