勇気と知恵を注入します!独立ビタミンの「増田堂」
前のページへ バックナンバーへ 次のページへ
 第6回 十勝でサケの群れに出合う(前編)
襟裳岬で森進一のまねをしたい!

 体長70cmもあるサケを捕まえました。どうやって? 網でもモリでも釣りざおでもなく、素手で。私自身のこの手で、です。いやあ驚きました。自分が生きているうちに、生きているサケを手づかみできるなんて、夢にも思いませんでしたから。

 10月初旬、『アントレ』編集部の仲間たちと北海道の十勝地方を訪ねました。仕事を終えてから1 日あったので、宿泊先の帯広市からクルマを飛ばし、南十勝へのドライブを楽しんだのです。

 その昔、鉄道切符で有名になった帯広市内の愛国や幸福を抜け、中札内村、更別村、忠類村(現幕別町)、大樹町と通って十勝の最南端、漁港で知られる広尾町まで。さらにその南には日高地方・えりも町があります。よく北海道の地図を菱形で表すことがありますよね。その際、一番下の角になる部分がえりも町の襟裳岬です。

 「ここまで来たら襟裳岬まで行って、森進一の物まねをしてみたい」という、私の酔狂な希望に仲間も応じてくれて、なおクルマを走らせることになりました。若い人にはピンとこないかなあ……。森さんが歌った『襟裳岬』は今から32年前、日本レコード大賞を受賞した大ヒット曲なんですが。で、私はそのまねがまあまあ得意でして(笑)。


ただでは転ばない。むしろ転んでからが本番

 ところが折からの低気圧の影響で海が荒れ、うねった波が海岸沿いの道路にまで達する状況。広尾からえりもへ向かう一本道は、残念無念、封鎖されてしまったのです。あえなく私の物まねショーはお預けとなり、来た道を引き返すことになりました。

 「ただでは転ばない」。私の人生訓です。できれば、そもそも転びたくはないのですが、前回の「増田堂」にも書いたように、目的を持って行動した結果、それが達成できない事態は頻繁に起こります。うまくいかなくて当たり前。思いどおりにならなくて当たり前。それが人生。大事なことは、「ダメだ」と思ったところからどうするかです。

 「岬がダメなら川だ」。私はすぐに目標を変更しました。言うまでもなく、森進一さんのまねをすることが旅の目的ではありません(本当に言うまでもないことですが……)。北海道の自然を眺めるだけでなく、一歩踏み込んでかかわることで、その豊かさを心に焼き付けたい。それが私の念願でした。それならほかにも方法があるはずです。


目的が見えていれば、手段には縛られない

 真の目的を達するための手段は決してひとつではないし、その手段が封じられても、真の目的がしっかり認識できていれば、別の手段でその目的を達することができます。

 仕事に置き換えて考えてください。ずっと営業を仕掛けていた相手から契約を断られたとします。ガッカリしますよね。その製品(サービス)のどこかに弱点があったのかもしれません。であれば、うなだれていないで、その弱点の改良に取り組めばいいだけの話です。例えば、値段を変えてみる。部品を違うものと交換してみる。ネーミングを考え直してみる……。当たり前のことを言っていると思いますか? でも、それをできない人が結構いるもんなんです。

 部品や値段やネーミングはあくまで手段です。契約をしてもらうことですら、まだ手段です。真の目的はその製品(サービス)を世に出し、活用してもらい、評価を得ることで、結果的に対価を獲得することではありませんか? でしょ? 仮に契約が取れても、後になって返品(キャンセル)されれば同じことです。ひとつの手段にとらわれない姿勢こそが、実は目的達成への何よりの近道だと思います。


ただし手段に関する豊富な知識が必要

 もう一度、上の文章を読み直してください。目的を達する手段はひとつではない、そう書きました。では、ひとつではないのなら、ほかにいくつあるのでしょう? ここが肝心要です。目的へ到達するルートは何本もあると理屈でわかったところで、実際にどういうルートがあるのか知らなければ手の打ちようがありません。常日頃から自己の目的達成に貢献しそうな手段について、幅広く勉強し、情報収集を怠らないことが大切です。

 私の話を例にすれば、北海道の自然を体感するという目的を達成するためには、太平洋に突き出た襟裳岬に立って歌う方法でもいいわけですが、川に手を突っ込んで、遡上してくるサケと触れ合う方法でもいいわけです。どちらでも目的は果たせます。

 もっとも川に出かけたところで、サケの遡上に遭遇するなど、かけらも想像していませんでした。後で考えてみれば、場所柄、時期柄、あり得る話だったわけですが。

 では、サケの遡上を想定していなかった私が、なぜ岬行きの代案として川遊びを発案することができたのでしょう? それは次回の「増田堂」でお伝えします。
Profile
増田氏写真
増田紀彦
株式会社タンク代表取締役
1959年生まれ。87年、株式会社タンク設立。97年、「アントレ」創刊に参加。以降、同誌および別冊「独立事典」編集デスクとして起業・独立支援に奔走。また、経済産業省後援プロジェクト・ドリームゲートでは、「ビジネスアイデア&プラン」ナビゲーターとして活躍。講演やセミナーを通じて年間1000人以上の経営者や起業家と出会う。現在、厚生労働省・女性起業家支援検討委員、中小企業大学校講師、(財)女性労働協会・女性起業家支援セミナー検討委員などを務める。また06年4月からは、USEN「ビジネス・ステーション」のパーソナリティーとしても活動中。著書に『正しく儲ける「起業術」』(アスコム)、『小さくても強いビジネス、教えます!起業・独立の強化書』(朝日新聞社)。ほか共著も多数。



 
   

前のページへ バックナンバーへ 次のページへ