勇気と知恵を注入します!独立ビタミンの「増田堂」
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 第5回 成功したければ、失敗しよう(後編)
組織の一員の場合、失敗はつらい

 むやみやたらに失敗を恐れてチャレンジを避けるのは、とっても損な考え方です。悪いほうの失敗はしたくありませんが、そのせいでいいほうの失敗を体験する機会まで失ってしまっては、結局、学習もできないし、成長もできないのですから。

 しかし現実の社会には、取り組みの中で何を学んだかなど関係なく、結果として「成功」だったか「失敗」だったかだけで物事を評価する風潮があるのも事実です。大組織の一員という立場だと、こうした評価を受けやすいものです。10個の歯車のうち9個がちゃんと稼動しているのに、残り1個が止まったせいで全体が動かなくなる。そうなれば止まってしまったその1 個が厳しく批判されるのはいたしかたないことです。

 「キミのせいで、みんなが迷惑してるんだ!」。こんなことを言われるのはやはりイヤです。イヤという気持ちの問題だけでなく、物質的なデメリットも生じてきます。こうなると、その失敗をできれば隠したい。あるいは他人のせいにしたい。ないしは、失敗ではないと抵抗したい。そんなふうに頭は働きます。これでは失敗から学ぶことも成長の糧にすることもできません。失敗は「何がなんでもしたくないもの」という認識が固定してしまいます。


起業家にとって失敗は成功の母

 ところが独立を果たして、10分の1の歯車ではなく、1分の1になった場合はどうでしょう? 組織の一員であれば失敗が発覚しないことでメリットはありますが、自分が自分に隠し事をしたところで何のメリットもありません。失敗したら、その失敗を認め、反省して修正し、成功するまで挑戦する。そういう展開が独立した人間には一番メリットになるはずです。つまり独立するということは、成功のために失敗ができるということです。

 現に起業家のはしくれである私も、数えきれないほどの失敗を経験してきました。そのひとつひとつを紹介すれば、さぞや皆さんに喜んでいただけるものと確信していますが、百科事典級のボリュームになりそうなので、今回は省略させてください(笑)。

 でも、たくさんの失敗経験を、私はかけらも恥じてはいませんし、悔やんでもいません。いわんや、そのことで誰かを恨んだり憎んだりなんてこともありません。むしろ誇りに感じています。そして、それが私の自信の根源でもあります。たくさんの失敗をしたということは、その数だけ挑戦したという証しですし、たくさんの失敗をしたからこそ、様々なことを学び、それが今の私の血となり肉となっているのですから。


失敗要因は2つに大別できる

 ちなみに数えきれないほどの私の失敗も、要因を大別すればやはり2つになります。ひとつは設定した目的自体に無理があったケース。もうひとつは、行動の方法に問題があったケースです。失敗したら、それはなぜ失敗に終わったのかと考えますよね(考えない人は、その時点で起業家失格です)。その時、その大きな理由は目的のほうにあったのか、それとも行動のほうにあったのかと分類して考えてみると、より正確に課題が見えて、次の挑戦のあり方をよりよいものに設定できます。

 例えばこういうことです。走り高飛びをしていて、バーを落としたとします。何がいけなかったのでしょうか? 助走や踏み切りに問題があった。これは行動に問題があったわけです。一方、バーの高さを3mにしていた。こちらは目的に問題があったわけです。失敗の要因はとかく行動に求められがちですが、実はそもそも目的や目標に難があることも少なくないのです。たくさん失敗をしたおかげで、私はそのことを学びました。


無意味な成功と意義ある失敗

 もう一度走り高跳びをたとえに使います。あなた自身がジャンパーだと思って読んでください。まずはバーの高さを地上30cmにします。助走して、エイヤッ。どうですか? バーは落ちているでしょうか? まず、クリアしているはずです。つまりあなたはジャンプに成功したのです。では、今度はバーを1m50cmに上げます。なかなかシビアな高さです。再度助走してジャンプ! ほんのわずかだけ触れたバーが無情にも落下してしまいした。失敗です。

 さて、質問です。30cmのジャンプに成功した自分と、1m50cmのジャンプに惜しくも失敗した自分と、どっちを評価しますか? 私なら迷わず後者です。

 何の苦労もなく、誰でもできることをやって成功してもうれしくありませんよね。成功の喜びとは、失敗の恐怖を超え、失敗を克服してきたからこそ全身に満ち満ちるものです。

 だから私はこれまでにもましてジャンジャン失敗するつもりです。失敗したからといってネチネチ責める上司もいません。1 分の1 で生きる私には、すべての失敗がハウツーのもとになるだけです。そしてすべての失敗が成功へのステップになるだけです。
Profile
増田氏写真
増田紀彦
株式会社タンク代表取締役
1959年生まれ。87年、株式会社タンク設立。97年、「アントレ」創刊に参加。以降、同誌および別冊「独立事典」編集デスクとして起業・独立支援に奔走。また、経済産業省後援プロジェクト・ドリームゲートでは、「ビジネスアイデア&プラン」ナビゲーターとして活躍。講演やセミナーを通じて年間1000人以上の経営者や起業家と出会う。現在、厚生労働省・女性起業家支援検討委員、中小企業大学校講師、(財)女性労働協会・女性起業家支援セミナー検討委員などを務める。また06年4月からは、USEN「ビジネス・ステーション」のパーソナリティーとしても活動中。著書に『正しく儲ける「起業術」』(アスコム)、『小さくても強いビジネス、教えます!起業・独立の強化書』(朝日新聞社)。ほか共著も多数。



 
   

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