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 ●第11回 小資本ビジネスで成功する方法


起業に興味を持つ人が増え始めている。
昨年施行された、最低資本金規制の特例制度により、
会社設立が身近なものになってきたことも一因であろう。
しかし、お手軽に起業できるようになったからといって、
その後に続く「ビジネス」までもが容易になったわけではない。
少ない資本でいかにして、ビジネス上の成功をつかみとるか?
今日は、小資本ビジネスで成功する方法について語ってみたい。

 

「ギブアップ」せず、「シンク」する
 先日、東京都大田区で、私が指導する起業家育成道場が始まった。特別、大々的な告知をしたわけでもないのに、募集受け付けの開始後、すぐに規定人数を超える申込者でいっぱいになってしまったという。その約3分の1が女性であるということもさらなる驚きであった。ここ数年、独立、起業がらみの講演依頼を全国からいただくようになってきたが、全国どこの会場でも、明らかに参加者の数が増えてきているように感じている。それどころか、これまではこういったことに興味がなさそうだった、女性や学生といった人々も、起業に興味を持ち始めているというのが特徴だ。最低資本金規制の特例制度により、資本金1円で株式会社や有限会社を設立することが可能となったことも、起業ブームを後押しする原因だと思われる。起業に対する規制が緩和されるに従って、多くの人々が、「起業」へと向かおうとしている構図が見て取れる。
 では、小資本で起業して、成功するためにはどうすればいいのか? 大切なことは、「ない」ことを前提にし、そこから何かを「つくり上げる」という思考パターンを持つことだ。一般的にビジネスを起こすためには、「ヒト」「モノ」「カネ」の3つが必要だといわれている。しかし、小資本でビジネスを始めようとする場合、当然「カネ」はない。「カネ」がないということは「ヒト」も雇えない。「ヒト」が雇えないということは、良い「モノ(=商品)」も開発できない。ないないづくしが、小資本起業の実態なのだ。
 しかし、これら3条件が整わないからビジネスで成功することは無理だとあきらめてはならない。ないのなら工夫してつくればいい。この思考回路が重要だ。何か大きな困難にぶつかったとき、人間が取る行動は次の3つである。アスク(=識者に聞く)と、ギブアップ(=あきらめる)と、シンク(=考える)の3つだ。1番目のアスクも、2番目のギブアップも、時には重要な選択になる。しかし、起業家として絶対に欠かすことができないのが、3番目のシンクの技術だ。
 起業とは、何もないところに価値ある何かをつくり上げていく行為だ。小資本でビジネスを立ち上げようというなら、なおさらこの力が欠かせない。そして、起業を成功させるためには、いつもの何倍も頭を回転させ、どうすればいいのか?を考え続けなければならない。しかし、残念ながら我々日本人はこの「シンク」があまり得意ではない。わからなければ、すぐ誰かにアスクするか、ギブアップしてしまうクセがある。起業家として成功するためには、まず、自分の中に「シンクする思考回路」をつくることが最重要だといえる。

誰もが持つ「自分力」を探してみよう
 しかし、ただやみくもに「シンク」してみても、ビジネスを立ち上げて成功するようなアイデアはそう簡単には出てこない。何をどのように考えるか? そこに大切なカギがある。小資本ビジネスのカギは「自分力」である。自分力という考え方は、アクティブラーニングのコア理論の一つであるが、オリジナリティ、あるいは「自分にしかできない資質」といった意味を持つ。「自分にしかできないことは何だろうか? と考え、自分自身で自分の強みを発見し、育てる」。小資本ビジネスで成功するためには、その一点にシンクを集中させることがポイントだ。
 なぜか? 起業後、小資本ビジネスを市場に投入すれば、大手企業を含む幾多の競合相手と戦っていかなければならない。例えば、製造コスト、物流コスト、パッケージ、広告とすべてにおいて大手企業の商品は、あなたの商品を凌駕しているに違いない。そんな商品と同じ土俵で戦って、あなたの商品は生き残ることができるだろうか? つまり、一般消費者は、あなたの商品やサービスを選んでくれるだろうか? 大手企業の商品よりも、あえてあなたの商品を消費者が選んでくれるとしたら、そこにある理由はただ一つ! あなたの商品やサービスにしかない「何か」を持っている場合のみだ。
 飲食店の例を挙げてみよう。世の中にはすでに多くの飲食店が存在している。中には大規模なチェーン展開をし、大量仕入れにより低価格のメニューを提供している店もたくさんある。あなたのお店で大量仕入れが可能でないのなら、それらの大規模チェーン店と値段で勝負することはできない。しかし、もしあなたのお店に、そこにしかない「何か」があればどうだろう?
 アクティブラーニングのオフィスの近くに、よく足を運ぶラーメン屋さんがある。味は普通なのだが、ここの店長が面白い。「今日の売り上げはこんな感じだったよ」「昨日来たお客はすごく面白かった」など、やたら話しかけてくる。その話の内容はウィットに富んでおり、客はついついもっと話を聞きたくなる。店長は自分の話が客に受けていることをよく知っている。だから、自分からどんどん客に話しかけていく。これも大規模店が真似ることのできない「顧客獲得術」。立派な「自分力」だといえる。
 ほかにない資質、「自分力」を持つために大切なことは何か? それは、自分の中にあり、他の人にはない「差異」を追求するということだ。自分の「差異」が何であるかをしっかりと見極められるかどうかが、自分力をつくるためのポイントだ。

「自分力」=「差異」が価値を生む源泉
 自分の中にある「差異」に着目してみようというと、多くの人は、まず自分の「好きなこと」を考えるようだ。もちろんこれは間違った方法ではない。しかし、自分の好きなことだけが、自分の「差異」ではないのだ。自分の嫌いなことが、強みになる場合もたくさんある。例えば、身長180pの女性が、自分の背の高さに不満を感じているとしよう。しかし、そんな彼女だからこそ、持っている強みがある。それは、長身の女性にしかわからない苦労や悩みをよくわかっているという強みだ。そんな彼女が、長身の女性のための悩みを解決するサービス事業を始めたとしたらどうだろう? そうやって実際に成功した女性起業家がアメリカにいる。自分の中にしかない、他者との「差異」が大きな強みとなったのだ。
 実は、誰もがたくさんの「差異」を持っている。例えば、生まれ育った土地、時間を費やしてきた体験、凝っている趣味、そして、今の仕事で積み上げてきた経験や知識、人脈など……。問題は、多くの人々が、それらの「差異」の重要性に気づいておらず、また、それを伸ばそうとしていないということだ。「差異」は育てれば、最後には自分の強みになるということを理解すべきだ。

他者評価を確認して「差異」を育てる
 あなたのビジネスを成功させる最大の武器ともいえる「差異」だが、そのままでは文字どおりただの「差=違い」にしかすぎない。「差異」が意味を持つのは、その「差異」が他者から「価値」があると認められた時だ。
 先ほどのラーメン屋の店長の「差異」は、客にとってまた来店したくなる価値のある「差異」だった。ただ食べるだけの食事が、この店長の前ではおしゃべりショーに変わる。だから、お客はわざわざこの店を選択するのだ。逆に言うと、このような店長の態度が人から嫌がられる類のものなら、この「差異」は意味を持たない。「差異」が花開くかどうかは、他者に受け入れられるかどうかにかかっているといえる。「他者評価」、ここに「自分力」を育てるもう一つのカギがある。
 まとめてみよう。「自分力」を育てるためには、
(1)差異を大切にする。
(2)他者評価が高いものを育てる。
 これを日々意識していけば、小資本ビジネスであっても確実に成功への道を歩むことができるに違いない。頑張ってほしい。


PROFILE
photo アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也
日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。


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