起業を選ぶ女性たち ENTRE WOMAN

プラーナ  代表取締役
溝部 まき さん(35歳)

マンションの一室に入ると、そこは別世界だった。ダウンライトの照明に照らされた室内には水音が流れ、一瞬にして日常の喧騒を忘れさせてくれる。

「ここは疲れを癒やす空間ですから、皆さんがリラックスできるように、いろいろと工夫を凝らしているんです」

そう話してくれたのが、このエステティックサロン「プラーナ」オーナーの溝部まきさん。たくさんの女性をキレイにしてあげたいとの思いから、このサロンを始めたという。

育児退社から復帰して、化粧品メーカーのエステティシャンとして再就職したのが女性にかかわる仕事の始まり。自身がアトピー性皮膚炎で悩んでいた時に、化粧品会社に勤務をしていた母から、肌が弱い人でも使える化粧品を教わったことがきっかけだった。

「同じ思いの人たちに、きちんと商品を知って使えば、効果的ということを伝えたくて。自分が納得して使うことで、その効果も全然違ってくるんです」

入社当初は、研修で飛び込みセールスも経験したという彼女。その後はエステティシャンとして、技術の習得に励んだ。入社5年目に、2人目を妊娠した溝部さんは、出産時にこんな不思議な体験をしたという。

「出産時にとても苦しんでいた私を見て、助産師さんがジャスミンのアロマをたいてくれたんです。その香りをかいだらすーっと痛みが引いて、すぐに生まれました。そこでアロマの力を知った私は、これをエステと併用できないかと考えたんです」

出産休暇から復帰後、アロマとエステを組み合わせた新タイプのサロンを会社に提案したが、答えはNO。メーカーのサロンでは、1店舗だけ異なったことができないのだ。女性のためになると確信したことなのに、規則に縛られてやりたいこともできない。それがどうしても納得できなかった。また、今の仕事は、メーカーという看板を借りて仕事をしている。それに甘えることなく、自分の力を試してみたい、溝部さんはそう考えるようになっていった。とはいえ、経営については全くわからない。サロンを経営していくには、技術だけではやっていけないことはわかっていた。彼女は仕事を続ける傍ら、経営セミナーに積極的に参加するなど、勉強を始めた。そして、会社をやめてからもさらに技術力を上げたいと、自宅近くのサロンで半年間修業を積む。

「お客さまに満足してもらえる技術を身につけたいと、一生懸命に技術の向上に励みました。リピーターの方に長く来店してもらいたいから、店を続けることも使命と考え、経営の勉強も積むなど、徹底的に勉強しましたね」

開業資金は、会社員時代にためていた貯蓄200万円を利用。

「家族の貯蓄を使うのは気が引けたんです。万一、失敗した時にみんなに迷惑をかけるわけにはいきませんから」

できるだけ固定費を抑えたいと、物件を借りずに自宅サロンを選んだ。駅前の繁華街から少し離れていたため、必ずしも好立地とはいえないが、それを逆手にとって、隠れ家サロンとうたうことができた。

室内のひとつひとつの装飾品にもこだわりを持っている。この日は取材があることを知り、お客さんが花を活けてきてくれていた。彼女の人気がうかがい知れる

こうして2004年10月、エステティックサロン「プラーナ」を開業。

「けれども、開業当初は全くお客さまが来なかったんです。広告費をかける余裕はありませんから、周辺の病院やケーキショップなど、店頭に手づくりのチラシを置いてもらうのが精いっぱい。オープン記念で低価格を打ち出そうと思いましたが、知人から『低価格の時に来ても、元の価格にしたらまたお客さまは減ってしまう。ゆっくり施術できることをウリにしたほうがいい』というアドバイスをもらいました」

その後、ホームページを立ち上げようと、友人に教えてもらいながら自力で制作。一歩ずつ、着実に準備を整えていった。溝部さんは、お客さまに何回か通ってもらい、施術効果や自分の人柄を知ってリピーターへとつなげたいと考え、初回のみのフリーパス制度を導入した。彼女の強みは、メーカー勤務時代に300人以上の女性の施術を行ったことで得た経験と、女性をキレイにしてあげたいという人一倍強い思いだ。それを、リピートしてもらうことで分かってもらいたかった。

「実は、私自身が子供の頃、容姿にコンプレックスを感じていて、おとなしい子だったんです。でも人と話すことは好きなので、一生懸命話すよう努力した。そうしたら、外見にも気を使うようになって、コンプレックスが少なくなったんです。そのうえ、キレイになったら人にも優しくなれました」

自分の経験があって、多くの女性をキレイにしたいと思うようになったのだ。そんな彼女の人柄にほれ、サロンに通う女性は徐々に増え始め、今では、予約の難しい人気サロンに成長した。

「自分が楽しんで仕事をすることが、大前提だと思っています。私はサロン開業で、自分本来の生き方を見つけられた気がします。ぜひ、皆さんも新たなチャンスをつかんでください!」

取材・文
浅子 百合(クレッシェント)
撮影
前川 聡
PERSONAL DATA
開業資金
自分で貯蓄していた200万円で開業する。最初はあまり資金をかけずに始めたかったので自宅開業を選んだ。
技術の修得
化粧品会社勤務の時に、サロンを担当していたため、そこで施術技術を習得。約300人強の女性の施術に携わった。
労働時間・休日
定休日は週1回、日曜日。4歳と8歳の2人の子供とは、この日にしっかり遊ぶ。夜も営業しているので毎日多忙。
収入
以前の化粧品会社勤務と比べて、収入は明らかにダウンしたが、自分の好きなことができるので今は頑張れる。
会社概要
所在地 :大阪府堺市1072-293-3960
開業年月 :2004年10月
開業資金 :200万円
売上高 :非公開