起業を選ぶ女性たち ENTRE WOMAN

(有)カイロス 代表取締役 内田 淳子 さん(48歳)

肩ひじ張らない自然なお産や育児を応援するNPO法人「自然育児友の会」。スローライフやロハスにあいまって、近年注目度が高まりつつある。その代表理事を務めるのが、内田さんだ。彼女はまた、アロマグッズの販売事業を行う(有)カイロスの代表もつとめているスーパーママさん。

内田さんは大学卒業後、一度は就職するものの、モノづくりの現場で仕事がしたいとわずか1年で退職を決意。

「大学4年の時から、映像を作ることに憧れを持ち、その気持ちが忘れられなかった。ちょうど翌年に第1回東京国際映画祭で女性映画週間のボランティアスタッフを探していると聞き、すぐさまその世界に飛び込んだんです」

結果的に、そこでは映画製作よりイベントに関する仕事すべてにかかわったという内田さん。それでも、憧れていた仕事に携われた喜びは大きかった。

その後、映画祭で出会った女性作家のもとで雑誌編集をしていたが、やはり映像の仕事をしたいとの思いに駆られ、テレビ番組の海外ドキュメンタリーを主とする制作会社に転職した。

「制作現場での仕事をこなしながらとにかく企画書を書いてテレビ局に提案。時事問題に取り組み、発信する仕事は、大変でもやりがいがありました」

彼女は、仕事上のパートーナーでもあった男性と結婚。96年に、彼女が代表となり、夫と映像制作会社泣Jイロスを設立し、ドキュメンタリー番組の制作を行う。ずっと追い求めてきた映像の仕事。彼女は、忙しさの中にもやりがいを感じ、充実した日々を送っていた。しかし、そんな内田さんの考えを180度変えたのが出産だった。

「いざ子育てを始めると、とても楽しくてずっと子どもたちのそばにいたい。ドキュメンタリーの企画を考えても、企画が生まれなくなってしまって」

企画が書けなくなってしまったことで夫と口論になったり、情緒不安定になってしまうこともあった。大好きな仕事だが、今は子育てに打ち込みたいと思うのが本音。そして話し合った結果、会社の経営はしばらく夫に任せ、子育てに集中することを決意した。

この頃、内田さんが出合ったのは医療が介入しない自然な出産を目指し、母乳で育てることを広めるお母さんたちのネットワーク「自然育児友の会」。全国展開の会員組織で、お母さんたちが自然出産や育児についての情報交換を行う会だった。彼女はボランティアで、その会が発行する会員誌の編集業務を手伝い始めたのだった。

世間では、少しずつエコやスローライフが注目を浴び始め、自然育児友の会の存在も徐々に認知されるようになり、会員数も2000名を超えるまでの大所帯に発展していた。

「この規模になると、事務局の運営も片手間ではこなせません。ボランティアとして育児をしながら手伝ってくれるみんなに、少しでも給料を出し、組織運営をしたいと思い、仲間と一緒にNPO法人にすることを決めたんです」

創業支援施設「三鷹産業プラザ」の1階にあるチャレンジショップ。内田さんたちの商品はここで販売されている

2000年10月にNPO法人自然育児友の会を発足。内田さんは理事に就任し、自分の出産、育児経験をもとに、後輩のお母さんたちへアドバイスやメッセージを送り続けた。

「あらためて会員たちを見渡してみた時、お産や母乳育児の経験を生かした小さなビジネスを始めている、もしくは興味を持っているお母さんが多いことに気付いたんです。自分の経験をもとに、子育てするお母さんたちのサポーターになりたいと頑張っている。一人の力では小さなビジネスのままだけど、みんなで力を合わせマーケットをつくればより良いビジネスへとつながるのではないかと考えたんです」

仲間には、肩に食い込まないおんぶひもを海外から輸入して、日本人の体形に合う形に改良して販売するお母さんなどがいた。みんな自分の経験があったからこそ生まれたビジネスだ。

一方、内田さんも大学時代からアロマセラピーを学び、個人輸入をしている。妊娠時にアロマの力を借りてストレスや不安を和らげるという体験をしてから、本格的に化粧品輸入業のライセンスを取得して、アロマオイルを(有)カイロスで通信販売している。

「自分が好きで、趣味として始めていたことがビジネスになるのがうれしかった。その思いをほかのお母さんたちにも感じてほしいんです」

内田さんは、同じようにスモールビジネスを始めているお母さんたちを集めて、3年前に三鷹産業プラザで「お母さんの起業物語」イベントを開催。その経験をもとに毎年3月にNPO法人自然育児友の会で「マザリングフェスタ」を行い、お母さん企業のブースも多数出展し、人気を得ている。

「私たちのイベントに最初から参加してくれていたお母さん企業の中から、授乳服やスリング(抱っこひも)のヒットメーカーが生まれています。子育て経験を生かして頑張る、お母さんビジネスの真のサポーターとして、今後さらに活動を活性化させたいです」

取材・文
浅子 百合(クレッシェント)
撮影
鈴木 慶子
PERSONAL DATA
開業資金
プロダクション勤務時代に貯めていた貯蓄を開業資金に。夫と2人で出資した。
技術の修得
映像制作のノウハウは、前職で学んだ。アロマについては、大学時代から趣味で勉強をしていた。
労働時間・休日
週末もなかなか休みが取れないので、時間が空いた時には、精一杯子どもとの時間を大切にしている。
収入
開業当初は前職より収入はあったが、内田さんが仕事を離れ一時期ダウン。近年はアロマグッズ販売の収入がアップ
会社概要
所在地 :東京都
開業年月 :1996年4月
資本金 :300万円
従業員数 :2名