THE INNOVATION 志こそが人を熱くする

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「支援」より「予防」を柱に、ニート問題に取り組む

山本 繁さんの写真

ニートを生まないために大学、専門学校の中退予防をサポートする。それが、世の中を変える教育改革につながっていく

NPO法人NEWVERY/東京都豊島区

理事長
山本 繁さん(33歳)

1978年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、「NEWVERY」の前身である「コトバノアトリエ」を設立。約4年間のボランティア活動を経て、事業型NPOに組織転換(法人化は2009年)。ニートや引きこもりの若者を対象にした「神保町小説アカデミー」、プロの漫画家を目指す若者を支援する「トキワ荘プロジェクト」などを立ち上げ、そのユニークな活動が注目される。2009年3月、「日本中退予防研究所」設立。翌年11月には、豊島区と連携して若者向け「おとな大学」を開校。地域、企業と一体となって社会教育事業の開発と啓蒙に取り組む。著書に『やりたいことがないヤツは社会起業家になれ』(メディアファクトリー)、『人を助けて仕事を創る 社会起業家の教科書』(ティー・オーエンタテイメント)など。

中高生の表現活動の場をつくろうと、山本繁は大学卒業と同時に文芸誌の発行を目的にしたボランティア団体を設立。文章指導などに携わるうち、やがてその思いは若者たちの「将来」に向いていく。時あたかも、ニート、フリーターの増加が社会問題としてクローズアップされていた。この先、目の前にいる中高生たちが、そうならない保証はないように思えたのだ。

約4年間のボランティア活動を経て、問題に正面から向き合おうと意を決した山本は、2006年、自らフリーターの道を選択した漫画家の卵たちを支援する「トキワ荘プロジェクト」をスタート。都内で一軒家を安く借り上げ、シェアハウスのかたちで若者に住と職の場を提供するというものだ。さらに、ニートによるニートのためのインターネット放送局「オールニートニッポン」を開設するなど、その取り組みを具現化していった。

次いで2009年、「日本中退予防研究所」を設立し、大学や専門学校の中退問題に切り込んでいる。若者の社会的弱者への転落を未然に防ぐ――背景には「ニートを支援するのでは遅い。ニートをつくらない活動こそ自分たちのやるべきこと」。ボランティアを通じて培われた強い使命感がある。

学生起業の経験があるそうで。

98年、大学2年の時でした。当時はITベンチャーブームで、僕がやったのはネットを使った不動産投資情報の提供。時代性もあって繁盛しましたよ。でも、面白かったのは最初の3カ月だけ。早々に違和感を覚えるようになったのです。そもそも金持ちになりたいとかではなくて、自分のためだけに使える時間があるうちに何か始めようと考えての起業でした。事業は順調で、顧客である個人投資家を儲けさせ、喜ばすことができても、それが僕にとって喜びにならない。学業を放棄するくらいのめり込んだ仕事でしたけど、結局1年ほどでやめました。

でも、一度起業を経験したことで、新たなものにチャレンジする時の恐怖心のようなものは払拭できました。本気で踏み出せば、いろんな人が応援してくれる、周囲との関係性が変わるんだということを知ったのも収穫でしたね。

ニートを減らすための、具体的な取り組みを教えてください。

ニートになるきっかけは中退、進路未決定、離職です。ニートを出さないためには、この3つを防げばいい。その観点から分析した結果、僕らの立場で最もインパクトがあり、かつビジネスとして成り立ち得るのは中退予防だろうと、この部分にフォーカスしたのです。対象は大学と専門学校。ちなみに現在、両者合わせて11万6000人の学生が1年間に中退し、うち6割がそのままニート、フリーターになっているという状況です。

当然のことながら、学校は経営的にもマイナスになる中退者を出したくない。でも、学生がなぜやめていくのかを把握していません。だから、対策の立てようがないというのが実情なのです。そこで僕らは、まず学校側と一緒になって、誰がいつどんなかたちでやめたのか、リサーチするところから始めます。それを踏まえて対策を立案し、実行、検証、改善というプロセスを回していくわけです。すべての大学をいちから個別コンサルするのは困難ですから、携わったプロジェクトで得た知見を書籍化し、セミナーを開催して、中退予防のノウハウを広げています。

成果は挙がっていますか?

実績でいえば、例えばA校では中退率が4.3%から2.9%に、B校では5.3%あったものが2.5%になっているという具合です。

ところで、学生が中退する理由ってわかりますか? 経済的な問題や心の病なんかもあるのですが、約8割と圧倒的に多いのは「学校がつまらないから」(笑)。そうである以上、対策の柱は、学校を自らの成長を実感できる場とし、退学したいなんて思われない環境につくり変えていくことになります。そのために、先生に対する授業法の研修などもやるんですよ。つまり、中退予防を切り口に僕らがしていることは、「高等教育改革」に直結しているのです。中退率が低下するということは、イコールその学校の教育力が向上したことを意味します。当然、社会的なニートも減っていきます。

実は中退という現象に、教育の抱える矛盾が凝縮されていた

そうです。きちんと対策を講じて成果を挙げる学校が出てくれば、大学や専門学校があいまいなブランド力とかではなく、教育力で選ばれるようになるはず。大学が変われば、高校や中学も変わってくるでしょ。つまり世の中が変わる。壮大な夢だけれど、「ニートを減らす」「中退を防ぐ」という課題を一点突破することで、必ずそこに到達できると考えているんです。ソーシャルビジネスに最も必要なのは「世の中を変えられる」と、心の底から信じられる戦略を持っていること。僕はそう思います。

撮影/押山智良 構成/内田丘子

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